第86話

 3の鐘の後、宰相閣下の執務室に呼び出された。入室すると国王陛下と妃殿下もいらっしゃった。逆保護者面談である。モンスターペアレントでない事を祈りたい。


「どの様な魔法であれ危険は伴います。エマ殿下には未だ早いのではないでしょうか。」


 俺は陛下に進言した。まだ3歳の魔法大好きっ娘に自重を求めるのは難しそうなので、保護者の方から何とかして頂きたい。


「魔法の危険性に関しては十分承知しておる。しかしな、魔法の練習に関しては、我が子らの中でエマが一番熱心なのじゃ。それに魔法の才も優れている様に思える。」


 それは知っております。授業の時のはしゃぎっぷりと言い、教えた事の飲み込みの速さと言い、尋常じゃないもの。


「何とかならんか、ジロー。」


 何とか助けて、見たいな顔をされる国王陛下。陛下も人の親、娘には大甘だなあ。


「承知しました。エマ殿下は火魔法が一番お得意の様ですが、比較的安全な水魔法と風魔法をお教えする様に致します。エマ殿下へは陛下からお伝え願えないでしょうか。」


 保護者の方から授業内容変更のお知らせをして頂けるよう上手く誘導出来たかな?

 少ししょんぼりするエマ姫の顔が浮かんだ。でも危険を避けるためです。我慢して下さいね、姫様。


「して、アンナの火傷の具合はどうか?」

「はっ、あの程度怪我のうちにも入りません。」


 アンちゃんは手の甲を見せると、少し赤くなっている程度だった。


「もっと酷い火傷と聞いたが?」

「ジローが直ぐに手当てをしてくれましたので。」


 俺はアンちゃんの手を握って冷やす時に、同時に軽く回復魔法も使っておいた。ただ完全に傷跡を消してしまうと不自然なので少し残しておいたのだ。回復魔法がバレない様に、薬草をすり潰したものに少量の油を加えて煉り合せたものを塗ってある。


「二人は仲が良いのだな。」

「そ、そんな事は・・・。」


 宰相閣下は軽口で言ったみたいだけど、アンちゃん過剰に反応しすぎだよ。ちょっぴり顔赤くしてるし。


「宰相閣下、一つお聞きしても宜しいでしょうか。」

「なにかな。」

「我々の任地は決まったのでしょうか。」


 俺は気になっていた事を聞いてみた。Bランク冒険者は準公務員だから国が決めた任地を活動拠点にしなくちゃならない。まあ断っても良いんだけどね。お給料出ないだけで。


「それなんだが、当面の間この王都ロルマジアとする。」

「「はっ、承知しました。」」


 俺とアンちゃんは了承の返事をしたけど、絶対俺の家庭教師絡みでしょ。赴任するからサヨウナラしたかったのに。

 下城する途中、折角だから街の食堂で夕飯を食べて行こうという事になった。と言うか、俺がアンちゃんを誘ったんだけどね。


「アンちゃん、活動拠点がロルマジアになっちゃったけど、良かったかな?」

「え?何で?」

 肉団子を頬張りながらアンちゃんが質問に質問で返してくる。それは良いのだが、口に物を入れながら話すのは妙齢の女性としてどうかと思うよ。


「アンちゃんは修行の旅の途中でしょ。ここに留まっていても大丈夫なの?」

「王都には各流派の道場も多いし、騎士団とも訓練してもらえるし。大丈夫よ。」


 肉団子を飲み込んだアンちゃんが笑顔で答えてくれた。

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