第76話

「今日は火魔法じゃなくて、違う魔法を教えろ。」

「違う魔法でございますか。」


 ギルバート殿下からご注文頂きました。そう言えばギルバート殿下は着火の魔法でイチャモン付けて来たよな。成る程、ギルバート殿下は火魔法に適性が無いから別の魔法にして欲しい訳だ。


 都合よく3人とも適性がある水魔法にする事にした。したのだが、その前にちょっと確認。王妃様お付きのメイドさんに聞いてみる。


「この部屋で水魔法の練習をしても宜しいでしょうか。」


 ふっかふかのカーペットを水浸しにしたら、あとで叱られそうだもん。火魔法だってそうだ。壁でも焦がそうものなら牢屋行き確定だろう。魔法の練習をするための部屋とか無いのだろうか。総石造りとか。火にも水にも、多分風にも強いよね、石造り。土魔法は除外だから問題なし。


 そう言ったご説明をさせて頂いたところ、本日はたらいを用意して頂ける事になりました。石造りの部屋は陛下と相談して近いうちに用意するとの事。どんだけ教育熱心なんだ王妃殿下。


 後日陛下にお聞きしたところ、勇者の血筋だから大魔法が使えた方が国民に人気が出るらしい。人気取りの為に石造りの部屋まで作ってしまうとは、お金持ちの感覚は庶民とはちがうなぁ。ああ、国民に人気があった方が革命なんか起きないで平和だから良いのかな。ぐうたら生活のためには平和が必要です。


「先ずは飲水の魔法を使って頂けますか。」


盥も用意されたので、水魔法の練習を開始する。俺は両手のひらで水を掬うような形にして、そこに水を溜めて見せた。


「できたー!」


 元気が良いのはエマ殿下だ。小さな手のひらに水が溜まっている。確か3歳だったから、コーラス様にお会いしたのもつい最近なのかも知れない。それで飲み込みが早いのかな?


「これくらい簡単だぜ。」


 ギルバート殿下も問題なさそうだ。案外水魔法が得意なのかも知れない。これに対して苦労されているのが一番年長のエリック殿下である。手のひらには僅かしか水が溜まっていない。


「くっ。なぜ、なぜうまく出来ない。」

「適性が低いんじゃないの、エリック兄上。」


 ギルバート殿下が煽ってるな。仲悪いのかな、この二人?兄弟仲はともかく、ここでアドバイスするのが家庭教師の務めと言うものでしょう。お仕事しないと。


「エリック殿下。水をイメージしてください。コーラス様の教えにもイメージが大切とあったはずです。」

「水なんてどうやってイメージするんだ?」


 そう正面切って聞かれると困っちゃうね。何しろ俺が最初にイメージしたのはペットボトルだからな。


「そうですね。泉をイメージされては如何でしょうか。」

「泉って何だ?」


 あー、王城には井戸はあっても泉は無いか。大体水と言えば、グラスに注がれた水しか飲んだ事無いだろうしね。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る