第67話

 あまり乗り気でない俺はのろのろと開始位置に着いた。ちらっと後ろを見るとアンちゃんが心配そうな顔をして見ている。


「ジローは近接戦闘は苦手なんだっけ?じゃあハンデをあげるよ。開始から3秒間は前に進まないからね。」


 いや、苦手なんじゃなくて出来ないんですってば。


「それでは両者準備は宜しいか。では始め!」


 いつの間にか審判になった騎士団長が開始の合図をした。先ずはとにかくフレッド隊長を近づけない事だ。


「放水!」


 俺はフレッド隊長目掛けて水柱を何本も撃ち出し、絨毯爆撃した。だがフレッド隊長は驚くべき敏捷性ですべて避けやがった。


「開始位置から前には出てないから、これは反則にはしないでね。それじゃぁ、そろそろ行くよ。」


 そういうや否や、物凄い速さで駆け寄って来る。俺は放水のタイプを水柱型から消防車の様な連続放水型に変更した。


「へぇ、こう言う水の出し方も出来るんだ。」


 対帝国戦では使っていなかったので初お披露目である。虚を突かれた形のフレッド隊長は結構びしょ濡れになった。さすがにこれは躱しきれない様だ。


 それにさっきの騎士見習達の時と違い、冷水にしてある。にもかかわらず、運動して体温が上がっているのか、体から湯気が上がっている。寒稽古と言って滝に打たれたり、水垢離みずごりしたり、海に入ったったりする人たち居るよね。きっとフレッド隊長もそのタイプだ。


「やっぱり冷たいよ。」


 フレッド隊長も冷水を浴びるのが嫌なのか、一旦距離を取った。


「だけど人を跳ね飛ばすほどの威力は無いみたいだね。」


 たった1回で見抜かれてしまったが、水柱と連続放水では威力が異なるのだ。水柱型は大質量の水の塊をぶつけるので相手に与える衝撃が大きい。対して放水型は放水の向きや角度を自由に変えられるものの、衝撃力は弱い。本当は俺が強い衝撃を与えるイメージをすれば良いだけなのだが、あまり手の内を見せたくないからね。


「だいたい分かったから、もう決めに行っちゃうね。」


 そう言うと、余裕発言のフレッド隊長は猛スピードで俺に迫って来る。それもただ直進して来るだけではなく、ステップを踏んで変則的に攻撃を仕掛ける気だ。


「ジロー、負けないで。」

 アンちゃんの声が聞こえた気がした。勿論俺も負けるつもりは無い。散々水をまき散らしたので辺り一面は水浸しだ。フレッド隊長の動きは目では追えなくても、足音で凡その方向を掴んだ。

そしてフレッド隊長が正に切りかからんとする時、


「散水!」


 俺は今まで使っていなかった水魔法の発現の仕方を披露した。

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