第64話
「この人、強い。」
私は一旦相手との距離を取ると、態勢を立て直した。
「どうしたんだい。もうお終いかい?」
安い挑発をかけて来るのは模擬戦相手の一番隊隊長フレッドだ。折角模擬戦をさせてもらえるのだからなるべく強い人とやりたいとお願いしたところ、隊長自ら相手をして下さる事になった。
「はっ。」
私はじりじりと距離を詰めて、間合いに入った瞬間に撃ち込んだ。籠手狙いだ。しかしフレッド隊長はそれを読んでいた様に木刀を合わせ、私の木刀をはじき返す。細身の体の何処にそんな力があるのかと思いたくなる程重い振りだ。私はまたバランスを崩してしまい、咄嗟に距離を取る。
*****
俺はアンちゃんと隊長の模擬戦を見ていた。アンちゃんもかなりの実力だと思うのだが、隊長はそれ以上に強い様だ。何と言うか、模擬戦と言うより掛かり稽古みたいに見える。あんな人と戦ったら、おっさん瞬殺されちゃうよ。
アンちゃんと隊長はお互いに距離を取り、それからじりじりと間合いを詰めて行く。突然アンちゃんが隊長に向かって突進した。
どこかで同じような場面を見たな。思い出した。冒険者試験の時だ。勝負に出るのか、アンちゃん。
すると驚いた事に隊長も同じように突進して来た。冒険者試験の再現だ。
両者が激突した瞬間、やはりアンちゃんが跳ね飛ばされてしまった。隊長はガチムチ体形ではなくどちらかと言えば細マッチョタイプなのだが、それでも軽量のアンちゃんにとっては厳しいものがあるのだろう。
「きゃぁぁぁぁ!」
そう悲鳴を上げながら転がっていくアンちゃん。おっさん今回は受け止める事が出来ませんでした。陛下のお話長いから。もう少し早く切り上げてくれれば、受け止める事も出来たかも知れないのに。
「うん、基本はちゃんと出来ているけど、もう少し自分に合った戦い方を見つけた方が良いね。」
隊長さんから講評を頂きました。見ると今回はアンちゃんの木刀が折れている。いや斬られている。
「どうして。あなたはアルサー流のはず。」
「僕も以前レイウス流を見せて貰ったのさ。」
どうやらアンちゃんのあの技はただのぶちかましではなく、レイウス流の技の一つだった様だ。道理でスッパリ切れてると思ったよ。
「そこまで。」
騎士団長から声が掛かった。はい模擬戦終了のお知らせ。
「「ありがとうございました。」」
お互いに礼をして壁際に戻る。アンちゃんは疲れたのか座り込んでしまった。アンちゃん、今夜は沢山食べて良いからね。辺境伯の所でゴチになるのだけど、細かい事は気にしない。
さて、次は俺の番だな。魔法を見せるって何をすれば良いのだろう。もしかして模擬戦だったりして。
そう思いながら俺は練習場の中へ入って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます