第46話

 森の狩人に依頼したのはスタンピードを起こせないか、という事だ。いわゆる勢子係をお願いした。従魔たちを使って、森の奥から魔獣や獣を追い立てるのだ。


「明日の早朝に帝国軍に突っ込む様にお願いしたいのだけど。」

「時間まで指定があるのかよ。まあ、やるだけやってみるよ。」

 イワンは難しい顔をしながらも引き受けてくれた。

「その前に罠を解除しておかないとな。折角連れてきても、俺たちの罠に掛かっちまったんじゃ意味無いからな。」


「しかし獣や魔獣を追い立てたって、この森だけじゃ大した数は集まらないぜ?」

「その後は俺たちが何とかするよ。」

 一体どんな策があるんだ?と言う顔をしているので、俺は魔法を見せる事にした。

俺が最初に使った魔法、コーラス様の教え通りに使ったらとんでもない威力になってしまった水魔法である。一応”放水”という名前を付けてイメージした。やっぱり名前つけた方がイメージし易いんだよね。


「放水!」

 掌から勢いよく水が噴出した。放水なんて生易しい物じゃないな、コレ。幹の太さが30㎝位ある木々をなぎ倒して遠くまで飛んで行ったぞ。それを見た森の狩人の皆さんは大口を開けて固まっていた。アンちゃんは”どうよ、すごいでしょ!”って顔をしている。やってるのは俺なんですけどね、アンちゃん。


「あんた凄い魔法を使えるんだな。」

「ま、まあね。」

 本音としてはあまり広めたくない秘密なのだが、この際仕方ないだろう。そして俺が立てた作戦を説明した。


「帝国軍の本体に水を浴びせてやるのさ。そのためには、森側に布陣している部隊が邪魔なんだ。スタンピードをぶつけて、起きた混乱に乗じて俺たちがミュエーに乗って森側の部隊を突っ切りるんだ。」

「あの威力なら敵兵もただじゃすまないな。」

「それもあるけど、狙いはそこじゃないんだ。最近朝の冷え込みが厳しくなって来ているだろう?そこに水を浴びせたら・・・」

「寒さで満足に動けなくなるか。奴らは金属鎧だし、良く冷えるよな。」

 イワン達は作戦を理解してくれた様だ。


*****


 イワン達は罠を解除しに森へと入って行った。俺はその間にすべき事があるのだ。


「手綱は緩めないで。姿勢も崩さない!」

 おれはアンちゃんからミュエーを走らせるための訓練を受けているのだ。敵陣を突っ切るのだからそれなりの速度を出せないとまずいからね。


 俺の指導をしながら、アンちゃんは縫物をしている。素材獣の皮は森の狩人に分けて貰った。ミュエーの頭に被せる目隠しを作っている。いや、目を見えなくする訳じゃ無くて視野を狭めるためのものだよ。前の世界前世の競走馬でも覆面している馬いたよなーと思い出して作って貰っている。騎乗に使う動物なんだから、きっと性格も似ているに違いない。


「裁縫は淑女の嗜みよ。」

 なんて言いながらアンちゃんはお裁縫している。しかしあの食べっぷりの何処が淑女・・・

「何か変な事考えてるでしょ。」

 アンちゃんに睨まれた。いつから俺の心が読める様になったんだ、アンちゃん。

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