第10話

 あれから数日が過ぎた。大草原はまだまだ続く。そう言えば、途中に丘の様な所があっててっぺんまで登ってみたら草があまり生えていない石ころだらけの場所があった。ここだったら火魔法の練習をしてみても良いのではないだろうか。ファイヤーボールとか、やっぱりあこがれるじゃない。じゃここらで一発、と思ってみたが最初に水を出した時の事を思い出した。


 確か出てきた水は遥か彼方まで飛んで行ったよな。確かにこの辺には草は生えていないけど、どこまで飛んで行くか分からない火球ファイヤーボールが草原に落ちないとも限らない。大火事は嫌だ。下手したら死んじゃうよ、俺。


 やっぱり小さな事からコツコツと練習だな、と思い直した俺はまずライターの様な火を出すところから始める事にした。べつに何処から出しても良いのだけど、イメージしやすい右手の人差し指の先から出す事にする。”ライター、ライター、蚊取り線香に火を付けるライターの火”念じると正にライターと同じような火が灯った。成功である。『火魔法を覚えました』いつもアナウンスありがとうございます。


 しばらく火を灯したままにしてみたのだけど、不思議と指先が火傷する様な事はない。掌に水やビールを出した時は確かに冷たかったのだがこの違いは何だろう?仮説として考えられるのは、魔法が発動している間はその魔法を使っている人には影響を与えないって言う事だろうか。水やビールが出てきた瞬間(魔法発動中)は温度を感じないけど、実体として水やビールになった時に冷たさを感じる、と言う事なのだろう。


 俺は一度火を消して、その辺にある枯草を持ってきた。そして火を付けてみる。ライター魔法の火で指先は熱くならないけど、枯草に燃え移った火は熱かった。

 じゃあ、ライター魔法の火を直接自分の左手とかに当ててみたらどうなるかって?そんな事しませんよ。もし火傷でもしたら嫌だし。枯草に燃え移るって言う事はそういう事だ。さすがに不死身の肝臓でも火傷は対象範囲外だと思うもの。


 ライターは出来た。そしたらやっぱりファイヤーボールだよな。男のロマンだ。でも火事は嫌だしどうしようかなと考えていたところ、真上に打てばイイんじゃねと言う案が浮かんだ。よしそれでいこう。そもそもどの位飛ぶのかとか、重力に負けて落ちてくるのかとか、そもそも何が燃えてるの?とか、色々疑問はあるけどやってみない事には分からないからね。


 俺は水魔法を飛ばした時と同じように右手を前に突き出して、っとこれでは原っぱの方へ飛んで行ってしまう。じゃあ腕を真上に上げて、っとこれだと飛んで行くところが良く見えない。おっさん首痛い。結局地面に寝っ転がって右手を前に突き出して打ち出してみる事にした。あんまりデカいと怖いから、大きさはソフトボール位にしよう。”ファイヤーボール、ファイヤーボール、ソフトボール大のファイヤーボール”念じると掌から火の玉が勢いよく打ちあがった。


 かなり遠くまで飛んで行ったのか消えたのか途中で見えなくなったけど、とりあえず落ちて来る事は無かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る