第22話 仮面パーティー
パーティー当日
ちゃんと招待状が届いた。驚いたのは、会場が王宮だった。私にとって王宮は、あの二年以上前の高位貴族のお茶会以来だ。
我が家は、朝からお母様が取り仕切っている。
そうでなければ、お母様じゃない。
朝から風呂に入り磨きに磨かれる。そして香のオイルでマッサージをされ、ツルピカの肌だ。
今回のドレスは、お母様のお好きな赤ではなく、黄色から裾やリボンにオレンジを使っている、ふんわり系だ。それに合わせたメイクも優しい感じで、髪型も前回のキリリという感じではなく、緩くサイドの編み込みと残りの髪の毛を垂らす令嬢スタイルだ。
アクセサリーも派手すぎず、強調し過ぎない物でとても満足している。お母様も
「ルイーゼ可愛いわよ」
と言ってくれた。嬉しい。今日も従兄弟のエバーソンがエスコートしてくれる。エバーソンだって好きな子がいるかもしれないのに、毎回悪いなと思う。
階段を降りていくとお父様やエバーソンがいた。
お父様が
「今日もとっても似合っているよ、ルイーゼ」
と言ってくれた。お父様には自分の気持ちを話してある分、理解をしてくれている。
エバーソンが、
「以前のドレスは、叔母様の気品やオーラを感じたけど、今回のドレスは、ルイーゼらしさが出ているね」
と言った。今回は私の意見とお母様のセンスが入ったドレスアップだ。素直に褒められて嬉しい。
馬車に乗り、王宮に向かう。前回が襲撃があっただけに緊張感も出てきた。さすが王宮、各場所に騎士がいる。警備は万全のようだ。
受付に行くと沢山の仮面がある。鼻より上の仮面。
「仮面…」
と言うと、受付の人も仮面を装着していて、
「フリップ王子様が夏期休暇の面白い催しとして仮面パーティーにしました。どうぞ楽しんでください」
と言った。
仮面を渡された。エバーソンはノリノリだけど、私は、なんだか怖かった。
一体なぜ突然仮面パーティー?
あまりにもぶっ飛んでないか?
今、マゼラン侯爵の一族の山狩りやっていて、ガルバン共和国の人達が王宮にいるはずだし、こんな事をやっている時間ってある?
仮面をつけて、広間の会場に入れば、別世界。キラキラして、みんな仮面をつけて、テンションが上がっている状態、異様な光景に見える。エバーソンは、今にも踊り出しそうに左を見たり右を見たり、忙しくしている。ファーストダンスは、エスコート相手と踊る、その決まりがあるので離れてはいかないが、ウキウキしているのが腕から伝わって、逆に私は、冷静になる。
これは、異様だわ。本当に、フリップ王子様が考えついたのかしら?
音楽か鳴り響く。
中央で多分フリップ王子様だと思われる方達がおどり始めた。次の曲が私達のスタートだ。
その前に飲み物を飲む。
顔に仮面をつけているからか、熱気が凄く会場内が暑い。エバーソンに
「暑くないの?」
と聞くと、
「楽しすぎて、そんな事感じない」
と答え、エバーソンのダンスは、いつもよりキレがいい、スマートなダンスだった。一曲踊れば、後は自由だ。エバーソンと別れて、また飲み物を頂く。
やはりこの異様な光景に私は、ついていけない。皿に料理を盛り会場の外庭で食べようと移動した。
外に出れば、やっと息が出来る。
「一体なんだろう。これは」
と呟いた。外庭の大きな木の影になるベンチに座り、料理を摘む。朝、昼と少ない食事で腹ペコだ。
ローストビーフをフォークで捕らえると、
「ヴルフゥー」
と鳴き声。
「うそ、バード?あなたバードなの」
後ろの大きな木に止まっている、大きな鳥。ゆっくり翼を広げて私のベンチにふわりと舞い降りた。
「ヴルフゥー」
と頭を下げたように見えた。カッコいい。
「こんにちはってこと?それともローストビーフをくれってこと?」
ジッと皿を見ているようだ。
フォークからバードの目の前にローストビーフを置くと食べ始めた。
お肉が食べたかったらしい。
ここにバードがいる。バードは飼われている。
「あなた、王宮に住んでいるの?」
「ヴルフゥー」
ってことは、飼い主は、フリップ王子様?
「ヴルフゥー」
「もうないわ、お肉」
と言うとバードは、ベンチからゆっくり上に向かって翼を広げ高い位置で旋回してまた後ろの木に止まった。
「バード、カッコいい。お肉無くなったから木に戻ったけど」
と言うと、仮面をつけた男の人がいた。
「バードって…何故君は知っているんだ」
と声に驚きを感じた。仮面で表情は、見えないがなんとなくだ。
「先日、バードを治療して帰ったと思ったら戻って来て飼い主さまのお手紙を頂いた際にバードと書いてありましたので」
と言った。知らない人が自分の鳥に肉や名前を呼んだら嫌かなと思い、
「すいません。馴れ馴れしくしてしまって、バードがカッコいいものでつい口から出てしまいました」
と言えば、大きく頷き、
「そう、バードは、カッコいい。たまに本能で狩りに行くのだが、その時怪我をしてしまったんだ。軟膏を塗ってくれてありがとう。ところで、君は、バードと話せるのか?先程から話しているようだったが」
…
まさか人がいたなんて。
独り言として扱って欲しい。
鳥語わかるわけないわ。
「いえ、話せません」
…
「じゃあ、先程のやり取りは妄想?」
「ええ、そうです、私の妄想でのやり取りです」
凄く恥ずかしい。
妄想会話って、恥ずかしい。
「クックックック」
笑ってる。面白いかしら?普通引くよね。
「ハァー笑った。つまらないパーティーだなぁと思ったんだけど、面白かったよ。せっかくだから、一曲お相手お願いします」
と片手を胸に当てもう一方の手を私に差し出した。
「お願いします」
とバードの飼い主さんに言った。仮面だから誰だかわからない。バードの飼い主、それだけ。
ただその動作は、優雅で流れるように美しく気品がある。高位貴族に間違いはないだろう。
しかし仮面パーティーだから身分は関係ないってことになっているが所作である程度わかるものだと感じた。
「では」
と私の手を引きホールドの構えも美しい。ダンスもかなり上手くて私のステップも軽い。知らない相手。普段の私なら怖がって手を取らなかったかもしれない。バードという緩衝材があったから?
クルクル回り、流れる曲と合わせる呼吸が、心地良い。音楽が終わる。離れがたい気持ちを抑えるとバードが、男性の肩に乗り頭を嘴でついた。
「痛いよ、バード。やめてくれ」
と言ってもやめないバード。
「バードがもう一曲踊りたいみたいなんだ、もう一曲踊ってくれますか?」
連続で踊るとは、皆様に特別な関係ですよというものだけど、今は、誰も見ていない。
「では、三人で踊りましょう」
と言った。バードは肩の上にいて、そして羽ばたいて旋回した。力強くカッコいいダンスだ。
「あらあら、バードのダンスカッコいいですわね。負けられませんね」
と楽しく踊った。
「ありがとう、楽しかった」
と言われて、バードを連れて、会場には入らず、どこかに行った。
「誰なのかしら?」
これは、野暮ってものなのに気になっていた。
皿を片付けに会場に入り飲み物を飲んでいたら、エバーソンが来て、
「疲れたな、お開きだそうだ。帰ろう」
と言われ、この仮面パーティーの会場から我が家に帰る。
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