第16話 嫌な風

翌日


代々この地を守ってきたマリノティオ家なのだが、気になることがある。

「何故こんなに縦長領地なんですか?」

「隙間な領地って思うよな。我が家は、紐解けば、移民の成り上がりさ。功を立てて伯爵位を手にして、余ってた、開拓していなかった場所をもらったら、この形。でも南北に広がる良い土地だと思わないかい?確かに遊べるような湖はないけど」

「そうですね、北部の川は、大きく魚も取れるし、南に行くに連れて細くなりますが、立派な川が中央にあるって良いですよね。森林はないので避暑地には向かないけど、北は涼しいですし、動物による農作物の被害が少ない」

「勉強しているね、その通りだよ。柿や栗、りんごも出荷まではいかないが領地内で回るぐらいの楽しみもある」

「私は、これからとうもろこしを食べれることが楽しみですよ」

「僕もさ」

小さな町がいくつかある。そこを通りながら北に向かい、夕方になる前にはついた。北の町は、涼しい。良い風が吹く。屋台では、鮎の塩焼きが売りに出されていた。香ばしい匂い。お父様は、警備隊に挨拶に行き、私はまだ閉まってない商店を覗く。

野菜も服も日用品まで売っている商店は、リトマス商店だ。なんでも屋だなぁと思いつつ、花の染料で染めたハンカチが目にはいり、私は逃げる時の馬車の御礼ってしてないなと思い、購入。これに刺繍をしようと決めた。

お父様が宿屋に案内してくれて、夕飯もそこでとる。私の好きなとうもろこしの塩茹でもしっかりいただいた。この時期しか食べれない貴重な物だ。みんなで食べると本当に美味しい。ジョーゼルのお土産は、新鮮なとうもろこしで決まりだ。そんな時に大きな音がした。お父様や護衛が外に出て確認すると、山を越えて他国から来た男が捕まったらしい。

「こういう事はあるんですか?」

「まぁ、山向こうは、ガルバン共和国だからね。関所を通らないで商売する者はいるね、事業相手だし、事は荒げたくはないけどね」

我が領も民から税は取っている。無料で放置は出来ないって事か。しかし騒がしい。男が何かを訴えているらしい。護衛に止められていたがお父様は再び出て行った。


しばらく戻らず、外も騒がしさは無くなった。護衛の一人が戻って来て私は、部屋に戻るように言われた。中々寝つけなかった。星が綺麗で風も涼しくて気持ちいい。なのにざわざわする。

理由はわからない。

ただ風が不安や不穏を纏って運び込んでいるような、まとわりつくような闇が消えなかった。

朝、お父様から、領主館に帰るように言われ、調べなきゃいけない事が出来たからと。

「お父様、私も残ります、一緒に調べさせてください。心配です」

と伝えれば、大丈夫だよと笑顔を見せた。山に入らなければ、いけないから私には、戻れと言う。

「お父様、どうも胸騒ぎがするんです。魔法が役に立つかもしれない、足手まといにはなると思いますが麓で待機でもいいので、どうかお願いします」

と私の我儘を押し通す形になった。種芋の配布を一緒に来た執事に任せて、更に北に行く。その先の村でマリノティオ領ではなく、カトロ侯爵領に入るため、一回町に行き通行料を払わなければいけない。

正規の手順を踏み山に入ろうとしたが警備隊に止めに入られた。理由はマゼラン侯爵家の一族が山に逃げてガルバン共和国を目指しているから山狩りをしている最中だと言うこと。

当分山に入ることは出来ないとの回答が来た。


帰りの馬車で、お父様に聞いた。

「そろそろ、教えてもらってもいいですか?」

と言うと、お父様は、

「戦争が始まるかもしれない、この山を越えれば、すぐ王都だ。先手必勝、最短距離。昨日騒いでいた男は、ガルバン共和国の民だ。村が何者かに占拠されたと言っていた。事実かを確認しないことには報告が出来ないし、マゼラン侯爵の一族が山に逃げたという事も知らなかった。早いが王都に戻ろう、ルイーゼ」

と言われた。北の境界線の村に近づく。

「お父様、私何日かこの村に残って石垣を作ります。幸いこの村には大きな川があり岩が多い川です」

「いや、少しばかりあったって駄目だと思うぞ」

「そうですね、柔らかくする魔法が何か役に立てば言いのですが」

「ちょっと待て、村に寄ろう。」

お父様がマリノティオ領の最北の村タリで馬車を止めるよう指示し、着くとすぐに村長に挨拶して、私達は川側に移動した。

「ルイーゼ、岩を薄くていいから壁にしていけるか?」

「やります」

「進行方向的には、この道を通る。農村のみんなが逃げる時間を稼げれば、いい」

「役に立てれば、領主の娘としては最高ですよ」


川の大きな石を頭の中で壁をイメージして薄く伸ばした。それを村人や護衛、ここにいる人みんなで運び、お父様は、柵の要領で立てて行っている。村人はわけがわからない状態で自分達の村が岩の壁で囲まれ始めていて戸惑いと不安があるようだった。お父様は、村の警備の補填と言ったらしい。

村人達は、岩がどんどん壁になっていくのが不思議のようだ。驚きの顔をしていたが、いつしかそういうものみたいな理解をしてくれた。きっとまた「化け物」と言われるのではないかと思っていた。


マリノティオの領民は、優しい。


そんなことをお父様に話せば、

「僕も大概変わっていたからね。深く穴を掘って井戸にするとか、変わり者だの気狂いって言われたよ。違うことをすれば当たりはきついものだ」

そうか、当時、井戸を作るなんて初めてで、領地を良くしている人というよりも変わり者と思われてしまうんだな。なんて言っていいかわからない、ただ、お父様ありがとうと心から思った。

大きさが違う歪な壁が出来上がる頃は、夜になった。そのまま、昨夜の宿屋で食事と宿泊をする。

お風呂に入りながら、

「今日は、魔法をいっぱい使ったわ、ガス欠ってこういうことね」

全く力が入らない手の握力。気をためることも出来ない。早く寝なくちゃ。

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