第70話 ハーフタイム VSフロージア

 「ラーラちゃん凄いねぇ! 凄いスピード! フロージアにも負けてなかったよぉ〜!」


 「あはは、ありがと……」


 「こらアリス。確かにラーラのプレーは悪くなかったけど、そんな楽しそうにしてる場合じゃないでしょ。負けてるんだから」


 「はいはい、ツンデレツンデレ」


 「ちょ! ツッコミが雑い!」


 「でもでも、実際アリスたちの役割としてはこういうときでも明るくいる方が正しいんじゃない?」


 「ぐっ……一理あるかも……」


 「だから頑張って応援するよ! せーのっ!」


 「「頑張れー!」」


 「うおおおおおおおおおお! 応援されている! 頑張るぜえええええええ」


 「レオ、相変わらず単純だな。

 さっきヒルとちょっと揉めたときは心配してたんだぜ?」


 「いやいやー、あんなん引っ張ることじゃないって!」


 「そうかそうか。ならよかった」


 前半が終わった。正直、コートの不利がある中よく戦えている方だとは思っている。

 とはいえ、これで満足してはいられない。点数では負けている。たった1点、されど大きな1点。

 二度あったチャンスを活かせなかったのが痛いな。オフェンス面での作戦はもう通じそうにもない。


 しかし、フロージアも余裕を持ってはいられないだろう。

 先程のペペの暴走時のアマトの焦った顔。そして、勝っているにも関わらずまだ攻め続ける姿勢を見せていること。


 当然、追加点を取るに越したことはないが、今回の試合は相手が有利を作り続けている状態。フロージアが全力で守りに徹すれば守りきれる可能性は高いと思われる。


 だが、それをしてこないということは、フロージアの目的は恐らく大量得点。

 確かフロージアは一度目の試合で大きな点差をつけられて負けている。

 今回のホーム戦でそのビハインドを取り戻したいことだろう。


 付け入る隙があるとすればここだな。

 何より、フロージアは色々と腹が立つからこのまま終わるのは絶対に嫌だ。

 完全に私怨の怒りを向けながら、俺はフロージアベンチを一瞥する。

 すると……


 「え」


 バチーン! と大きな音を鳴らし、ある女性――フリアが倒れる。


 「え? え? フロージアあれなにやってんの!?」

 「仲間割れ??」


 「……からはもっとしっかりしてください」


 「うわ……」

 「叩いたのってフロージアのキャプテンか? 確かにDVしてそうな雰囲気はあったけど……」


 何を言っているのかは断片的にしか聞き取れなかったが、とりあえずこれは俺たちにとって大きなチャンスだ!

 仲間たちが一度静まったタイミングで俺は作戦を伝えるべく前に出る。


 「みんな! フロージアは今焦っている!

 彼らの目標は大量得点だったのだろう。1点しか取れていないのは想定外の事態のはず。

 だから、後半は確実に仕掛けてくる!

 今のままだと相手のディフェンスを突破するのは難しいけど、相手が焦り攻めてきたタイミングでのカウンターなら勝機はある!

 そのために、後半はディフェンスラインを下げて相手を誘い込む形にしよう」


 「そんなんでいいのかよ。俺様たち負けてんだぜ? 相手が攻めてこなかったら終わりじゃねえか」


 「確かにその作戦を取られると危険ですが、その可能性は低いでしょう。

 彼らは前回の試合で大量失点をして負けています。今回の有利なホーム戦を0-1で終えることは彼らにとっても望みではない。

 ですよね? 龍也くん」


 「アランの言う通りだブラド。

 もしこれで相手が攻めてこなかったらまた別の作戦を考えるけど、とりあえず今はこの作戦でいこう。

 ディフェンスは、ボールを奪ったらすぐにクレかラーラにボールを預けて、2人は全速力で前に出てほしい。できるか?」


 「ああ、任せろ」

 「は、はいっ! 頑張ります……!」


 「ありがとう。

 じゃあみんな! まだ希望は全然ある! 後半も諦めずに頑張ろう!」


 ***


 「お疲れ、龍也くん。厳しい試合だね」


 「だな……。それより未来、凛の姿が見当たらないんだけど……」


 「凛先輩? あれ、そういえばいないね。

 何か用事?」


 「いや、キャプテンとしてハーフタイムには全員と話しておきたいからな。

 まあ凛は今回の試合では出番なさそうだし大丈夫か。

 で、未来、未来的になにか気になったことないか?」


 「うーん、わたし目線からしても妥当な作戦だと思うかな。

 少し気になるのは、さっきのビンタ。

 相手のキャプテンは、プレーを見てても結構考えて動くタイプに見えるから、ああやって感情的にビンタするのはちょっと違和感あるかなーって」


 「確かになぁ。でも、ビンタ……ポジティブな意味合いだと芸人が気合い入れるときにしてるイメージとかだけど、今回は女の子相手だしなぁ」


 「「うーん」」


 「ちょ、龍也先輩。ちょっといいっスか?」


 未来と話していると、突然ザシャに話しかけられる。


 「ザシャ、今から行こうと思ってたところだ。

 わざわざ話しかけてきたってことは……ヘンディ関連か?」


 「っス。とりあえず来てほしいっス」


 ザシャに言われるまま付いていく。そこは、ヘンディがルカと話をしている場面だった。


 「頼むルカ。後半は俺の代わりにキーパーとして試合に出てくれ」


 「何度頼まれても代わる気はない。

 このポジションは監督が決めたものだ。俺たちに変える権限はない」


 「そこをなんとか……。俺じゃ……ダメなんだよ……」


 「……チッ、少し待っていろ。監督に話だけはしてやる」


 そう言って監督の方へと向かうルカ。


 「おいヘンディ! どういうことだよ!」


 「龍也……悪いな。負けてるのは俺のせいだ」


 「は!? 何言ってんだよ! お前のせいじゃないってさっき言ったよな?

 それに、俺たちオフェンスだって貴重なチャンスを二度も潰してる! お前が気負うことじゃない!」


 「でも、しっかり考え、勝つために行動を起こしている。

 俺がこの試合でやったことは、1点失点しただけだ。しかも1点に抑えられているのはディフェンスが体を張って守っているから。俺は何もしていない」


 「そんなことないっスよ! ヘンディさんが後ろから指示を出してくれてるから俺たちも守れてるんス!

 何もしていないなんてことないっスよ!」


 「お前らなら俺の指示なんて無くても守れていただろう……」


 「ヘンディさん!」


 「ほっほ、話を聞いて来てみれば、酷い面じゃのう」


 「アウラス監督……。ルカから話は聞きましたか?」


 「ああ、聞いたわい。じゃが、その答えはノーじゃ。

 お前さんにはこの試合で役割がある。ここで降りることは許さん」


 「そんな……。俺では……勝てない」


 「ほっほ、そんな言葉が聞きたいわけじゃないわい。ほれ、後半が始まる。さっさと行けい」


 「……はい」


 「大丈夫だ。お前は強い。自信を持ってくれ」


 重苦しい空気。今の俺にはこれくらいしかかける言葉が見つからなかった。

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