第33話 予想外の戦法

 試合開始。まずは一旦クレにボールを預ける。


 「ぶっ潰してやるぜえーいっ!」


 ボールを持ったクレに対してゴザが真正面から切り込んでくる。


 「まずはお前からだおぅらあー!」


 クレに向かって"キラー"の姿勢で突っ込むゴザ。しかし……


 「なっ」


 「ふっ、力任せのくだらないプレーだ。

 そんなサッカーもどきで俺たちに勝てるとでも?」


 「なにィ!?」


 無駄のない動きでゴザを抜くクレ。

 よかった、予想通りだ。

 昨日のブラドとの勝負を見ていればわかる、ゴザのプレーは本当にパワーだけだ。そして他にもわかることがある、それは……


 「お前、サッカー初心者だろ」


 「!?」


 「昨日のブラドとの勝負、隠そうとしていたようだが俺たちが見れば一目瞭然だ。ディフェンス時の位置取りやブラドにボールを蹴りつけた時の蹴り方、どれも三流だ。パワーだけのな。

 もちろん俺たちを油断させるための罠の可能性も考慮していたが、今のプレーを見るにその可能性も無さそうだ。

 そしてあの統制の取れた行動、お前らは……軍人か?」


 「はっ! よくわかったな。

 サッカーなんざついこの間始めたにすぎない。

 俺たちは軍人の中から力の強い者が集められただけだ。

 けどな……パワー、甘く見てたら痛い目見るぜ」


 「言ってろ」


 クレがそのままドリブルで上がる。

 それにしても全員軍人で確定か。つまりは全員が初心者ということで間違いはないだろう。勝負に選ばれたのがゴザだということから、ゴザだけが初心者だということはないという予想は当たっていたようで一安心だ。


 「確かに俺たちゃ初心者だがなあ! お前らのチームのあいつはその初心者に負けただろがあ!」

 「お前からも同じように奪ってやらあああああああ」


 叫びながら突っ込んでくる相手2人を……


 「動きが単調なんだよ」


 またも難なくかわすクレ。

 これはクレが元々上手いっていうのもある。しかし、それに加えて昨日の練習で俺の"柔"の技を全員に教えたのが大きい。みんな才能のある優秀な選手だ、たった半日という短い時間だったが、ギガデスの技術の無いプレーくらいになら対応できるだけの技は身につけられた。

 付け焼き刃だが、チーム全員がパワー系への対抗策を所持している。これなら……勝てる!


 「ほう、最低限の対策はしてきたというわけか。

 まさか昨日のプレーからそこまで見抜かれるとはな、少し見下しすぎていたようだ」


 近くで仁王立ちをしていたガロが俺に話しかけてくる。


 「俺たちも星の命運がかかってるんです。そう簡単に負けるわけにはいきませんので」


 「ふっ、どうやら貴様らの口ぶりから察するに随分とサッカーが上手らしい。

 だが……技術だけでは超えられない、圧倒的な力というものを思い知れ」


 それだけ告げると、ガロは突然右手を大きく上げる。

 その動作を見るや否やギガデスの動きが完全に停止する。


 「なんだ……?」


 不審に思いながらもドリブルを続けるクレ。


 そしてガロが右手を素早く振り下ろす。すると……


 「「「!?」」」


 何が起こった!? 一瞬のうちに地面に叩きつけられた。辺りを見回すと凛やブラドも同じように倒れている。

 そしてボールを持っていたクレもまた同じ。


 「ぐっ、なんだ」


 「あー? どうした、ご自慢のテクニックで対処して見ろ……やっ!」


 「ぐあああっっ」


 ギガデスの選手に荒々しくボールを奪われるクレ。

 何が起こったのか把握できていないが、とにかくボールを奪うため起き上がる俺たち。アランがディフェンスに入った瞬間。


 「「「!?」」」


 またも倒れる俺たち。アランも倒れ、その隙に簡単に抜かされる。


 「みんなーっ! 地面だ! 地面が揺らされてるぞーっ!」


 ヘンディの叫び。地面……まさか……!?


 「はっ、キーパーならそりゃ見えるよな。

 そうだ、タイミングを合わせ全員全力で地面を踏み込む。俺たちのパワーがあれば地面くらい簡単に揺らせるんだよ! これが俺たちの最強戦法"ジェイグ"

 見たか! 結局サッカーは力の強い者が勝つんだよなあああああああ!」


 無茶苦茶だ……地面を揺らすなんて。

 しかし審判は何も言わない。ルール的には問題はないということか。

 宇宙サッカー、舐めていたつもりはなかったがまさかこれほどとは……。


 「でもそんなの、タイミングがわかれば簡単に対処できる!」


 ゴザのシュートに合わせてまたも地面が揺らされる。その瞬間……


 「どうだ! ジャンプすれば揺れなんか関係ないぜ!」


 「へっ! ジャンプした後で俺のシュートに追いつければの話だが……なっ!」


 「……! た、確かに!」


 ヘンディは地面に降り立った後すぐにボールに飛び込んだが……間に合わず、俺たちは先制点を決められてしまう。


 「ちきしょおおおおおおおおっ!」


 「マズいな」


 「クレ……」


 「パワーは警戒していたつもりだったが、こんな戦い方があるとはな。どうする?」


 「……ギガデスは司令官、ガロの動きに合わせて地面を揺らしている。とりあえずはガロに注目しておくくらいしか思いつかないな」


 「……厳しいな」


 前半10分、俺たちはギガデスの戦法"ジェイグ"になすすべもなく、チームには黒い影が漂っていた。

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