第32話 まずは円陣
こうして試合前最後のミーティングも終わり俺たちは試合会場へワープした。
試合会場は予想以上に広く、観客も大勢いたため少しワールドカップを思い出し懐かしさに浸る。舞台が変わってもここに立った時に感じることは同じだ。絶対に勝つ。俺たちはスタジアムに礼をし奥へと進んでいく。
更衣室に入りユニフォームに着替えるとみんながそれぞれ感嘆の声を上げる。俺も着替えたが確かにこれは凄い。身体へのフィット感はもちろん、今まで着てきたどの服よりも動きやすい。それにシューズも軽すぎる上に足への負担が全く無くまさに理想の靴だと言えるだろう。
これなら実力を最大以上に発揮できる。圧倒的な科学力に驚きと感謝が止まらない。
試合開始時刻を直前に控えグラウンドに到着する俺たち。見渡すと満員の観客、聞こえてくるのは莫大な声援。ホームの強さを改めて実感する。
次に俺たちは整列し、貴賓席に向かって礼をする。オグレスの王様など要人がたくさんいるらしい。
王冠を被った見るからな王様の他にも、祈祷師みたいなお婆さんや小さな子どもなどが座っていた。
そんなイベントが終わるや否やアウラス監督から試合前最後の言葉が送られる。
「ほっほ、ついに初戦じゃのう。まあ総当たり戦じゃ、負けたからって終わりなわけでもないわい。
楽しむことを忘れず戦ってくるのじゃぞ〜。
わしからはこれだけじゃ」
監督からの相変わらずの緩い言葉を聞き、俺たちはグラウンドに向かう。その途中、俺は監督に呼び止められる。
「龍也、これを」
「これは……キャプテンマーク」
「ほっほ、だからと言って気負う必要はないわい。
普段通りやってくるのじゃぞ」
俺は監督からの言葉とキャプテンマークを受け取り、ピッチに礼をした後センターラインに並んでいる仲間と合流する。
「それではキャプテン同士握手の後、コイントスをお願いします」
主審が俺たちにそう告げる。
オグレスのホーム試合だからといって審判もオグレス星人というわけではない。
サッカーにおいて審判は重要だ。
その理由は主にファウル。
ファウルについて、一応大まかな基準は定められている。しかし、激しい試合の中、際どいプレーが頻繁に発生するのも事実。
今のプレーはファウルだ! いや、ファウルじゃない!
こういった言い争いは日常茶飯事。
そんな際どいプレーに最終的な判断を下すのが審判だ。
よって、審判は公平な立場の人間である必要がある。ということで、今大会はゼラの用意した審判が採用されている。
審判を軽く観察してみる。抱いた印象は冷静そうな普通の青年といったところで、特にこれといった特徴はない。
ゼラというより管轄の星から用意された人物なのだろうか。
今回の試合はギガデスのプレーの特性上、激しい試合が予想される。危険なプレーもあるだろう。この審判が、引いてはゼラがどこまでをファウルと判断するのか、この点にも注目していきたい。
そして、向かい合うのはギガデス代表グラッシャー。高身長の威圧感は相変わらずだが負けない強い意思で立ち向かう。
「改めてよろしくお願いします。全力で、そして楽しい勝負にしましょう」
キャプテンとしてガロに言葉を告げ、握手をする。
……手デカっ!? ほんと今更だが手が大きい。そして痛っ! 少し手を握られただけで痛いのだが……。
だがこんなことで臆してはいられない。俺は負けじとガロを見つめる。
しかしそんな俺の言葉を聞いたガロは冷酷な表情を変えずにこう返す。
「相変わらずぬるいな。サッカーとは自身が助かるための手段にすぎない。故に楽しむという感情はない。ただ目の前の敵を倒すだけだ」
その言葉の後、ホイッスルが鳴りコイントスが行われる。
コイントスに勝ったチームがコート(攻めるゴール)とボール(前半のキックオフ権)の両方を選ぶことができるルールだ。
今回はコイントスに負けてしまったので、選択権は相手にある。
予想とは違い、ギガデスはボールを選ばなかった。ギガデスのことだから最初から攻めてくると思ったのだが、序盤は様子見なのだろうか。
その後、俺たちはお互いに礼をし、その場を離れることとなる。
散り散りにポジションにつこうとする仲間たち。そんな仲間たちを俺は大声で呼び止めた。
「なあみんな! 1回円陣でも組まないか?」
「あ? んな馴れ合いいらねえよ!」
近くにいたヒルが即座に否定するも
「いいじゃないか! 俺たちの初陣だしな、景気よくいこう!」
ヘンディの後押しもあり、みんなが俺の元に集まってくる。ヒルはそれでも来てくれなかったが。
「先輩たちもきてくださいよっス!」
ザシャの呼びかけにより、ベンチに座っていた将人とラーラ、ネイトがこちらに寄ってくる。ルカは俺たちの行動など気にも留めていないようだ。
「大丈夫か? まだ足震えてるみたいだけど無理しなくてもいいんだぜ」
「心配ありがとうございます将人さん。ぼくも情けなさと恐怖でいっぱいだけどそれでもチームの一員だから、せめてこれくらいは参加したいです」
「ま、それならいいけどよ」
「へへっ、じゃあ俺は凛ちゃんとラーラちゃんの間に……」
「来! る! な!」
「あはは……」
「ほら、ブラド先輩もきてくださいっス! 俺たち仲間なんスから!」
「お、おう」
「雰囲気、よくなったんじゃないか?」
隣に来たクレが俺に話しかける。
確かに凛は性格こそまだつんつんしているが言葉は柔らかくなっているしブラドも仲間を貶したりはしていない。2人の変化につられてチームメイトの雰囲気もよくなっている。ザシャはブラドをよく思っていなかったと聞いていたが、今はもうそんな事もないようだ。
昨日未来に言われた通り、悪いことばかりじゃなかったな。
「まあまだ完璧とは言えないけどな」
「ふっ、そこはおいおい解決していけばいいさ。
さあ、キャプテン、締まる言葉頼むぞ」
クレに背中を押されて円陣の真ん中に飛び出した俺。360度視線があって緊張するが、それでもキャプテンらしく俺は語る。
「みんな、ついに試合だ。練習が足りてないとか他にも色々不安を抱えてる人もいるだろう。
それでも今はそんなこと忘れよう!
仲間と、そして自分のサッカーを好きな気持ちを信じて、最後まで全力で、楽しく、サッカーをしよう!
グロリアンズ〜」
「「「…………」」」
「あれ?」
「「「え?」」」
「え? ここはファイトーって言うところじゃないの?」
「知らないよーそんなルールー。
日本のローカルルールかー?」
「えええ! ファイトーって言うだろ普通!
てか将人! お前日本代表の時一緒に言ってただろ! なんで黙ってんだよ!」
「え……。
お前の号令はなんか……嫌だった」
「なんだよそれ!」
「あはははははははは」
周りを見るとみんなが笑っている。少しは緊張もほぐせたかな。
そして俺たちはポジションにつく。
フォワードのゴザがバカにしたような目付きでニヤニヤと笑いながらこちらを見てくる。
そして相手コートの中心で存在感を放つのはガロ。引き締まった雰囲気を崩さず司令官のようにどっしりと構えている。
そうしてついに試合が始まる。
審判が笛を咥え……
「ピィィィィィィィィィッッッッ」
試合開始だ!
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