第34話 2人の伏兵

 前半10分、ギガデスに先制点を取られた俺たち。しかし特別な対策を思いつくわけでもなく試合が再開する。


 直後、またもガロが手を上げた。振り下ろされる瞬間、俺もジャンプして揺れを回避する。しかし……


 「はははっ! 空中で俺たちのパワーをいなせると思ってんのかああああああよっ!」


 「ぐああっ」


 空中、ギガデスの高身長も相まって完璧な高さでチャージをくらう。当然いなせるはずもなく俺は弾かれボールを奪われてしまう。


 「どけどけどらあ!」


 ギガデスの"ジェイグ"に抗えず次々と抜かれていく仲間たち。そして次にディフェンスに回ったのは……ファクタ。


 「ここは通さないよ!」


 「あー? お前はオグレスの中でも一際ヒョロガリなやつだなあ。

 ここで再起不能にしてやる! どけごらああーっ!」


 またも地面が揺らされる。ファクタはオグレス星人で身体が弱い、ギガデスのパワーをモロにくらったらただじゃ済まないだろう。


 「ファクタ! 避けろーーーーっ!」


 俺は叫んだが、よく見るとファクタはジャンプをしていない。それなのに倒れていない。

 そして、突っ込んできた相手から華麗にボールを奪う。


 「あ!? なんだ?」


 「"ジェイグ"だっけ? 僕には効かないよ」


 ファクタはその後も向かってくる相手や地面の揺れにも動じる事なく進み続ける。しかも相手には全く触れられていない。


 「はっ!」

 まさかと思い俺は観客席を見渡す。

 予感は的中。

 これだけの揺れだ、身体の弱いオグレス星人には辛いはず。しかし観客席のオグレス星人たちが慌てる様子はない。


 オグレス星人はコケるだけでも大怪我の可能性があるとファクタは言っていた。生物は環境に適応するために進化する。オグレス星人も生き残るため進化の過程で異常なほどのバランス感覚を手にしたのだろう。


 光明が見えた。振動に対応できない俺たちはファクタを援護する体勢に入る。

 しかし相手も対応してこないわけがない、ファクタに対して4人がかりでディフェンスに入る。


 そんな4人がかりのディフェンスも難なくかわすファクタ。サッカーを初めて1ヶ月程度の初心者に奪えるはずもないか。ファクタのドリブルはかなりの安定感を誇っている。


 そしてゴール前。シュートの瞬間またも地面を揺らされたが、ファクタには通じない。少しもブレることなく、しっかりとシュートを決める。


 ファクタの活躍によって1点を返しこれで1-1。

 相手にも明らかな焦りが見える。


 前半18分、ギガデスのキックオフで試合が再開。

 すぐにディフェンスにいこうとするファクタを2人がかりでマークして止めるギガデス、ファクタを動かせない作戦か。

 身体能力は高く、体も大きいギガデスのマークを外すのは簡単ではない。ファクタの動きが遅れるだけで俺たちはピンチに陥ってしまう。ディフェンスに向かうも地面を揺らされボールを奪えない。


 そこでディフェンスに向かったのは今まで静観していたペペ。


 「面白い戦法だなお前ら〜」


 「あぁー? お前も潰されにきたのかあ? どっけなああああ!」


 ゴザの突撃と共に再び地面を揺らされる。ペペはジャンプして揺れを回避したが……


 「それじゃ無理だって言ってんだろうがあああっ! どけっ!」


 「それはどうかなっ!」


 ペペは空中で無理やり体をひねりゴザのタックルをかわす。そしてそのまま足を伸ばしボールを軽く蹴り、動かしたボールをゴザの体に当てる。そして……


 「はい! いっちょあがりっ!」


 完璧にボールを奪った。


 「はあああああ?」


 「悪いね、俺、天才だから!」


 そのままドリブルで上がるペペ。ディフェンスが向かってくるも、またもジャンプ、からのまるで無重力空間にいるかのようなボール捌きで相手を抜き去る。

 これが"天才"ペペ・アポダカか。俺たちには真似できない動きで相手を翻弄する。


 ギガデスも対応しようとペペに4人がかりで向かってくるが……


 「俺にばっかりかまってていいのかなー?」


 ペペは大きくパスを出す。すかさずギガデスは地面を揺らし、トラップの妨害をしようとするも、ボールを受けたのは裏から上がっていたファクタ。揺れに動じることなくボールを受ける。


 ここからはファクタとペペのターン。

 揺れをものともしないファクタと空中でも難なくボールを扱うペペの2人をギガデスは止めることができず、最後はペペのシュートがゴールを揺らす。


 前半31分、これで2-1。ファクタとペペのおかげでなんとか逆転を果たす。


 すると、点を取られたギガデスが、ガロを中心にして何やら話し合いを始める。

 それを見たアウラス監督は、即座に指示を出す。


 「ファクタ、交代じゃ」


 「「「!?」」」


 「何故ですか? 僕はまだやれます!」


 突然交代を告げられたファクタが強く抗議する。


 「なるほど、オグレスの監督は状況をよく理解しているようだ」


 ガロがアウラス監督の判断を褒める言葉を口にしたのを俺は耳にする。


 「どういうことだ?」


 俺はガロに質問をするもガロは答えることなく去っていった。


 「監督! 今なら僕も活躍できるんです! 戦わせてください!」


 引き下がらないファクタに対しアウラス監督は強めの言葉を告げる。


 「ほっほ、ダメじゃ。

 今のギガデスの話し合い。タイミングからしてお前さんを潰そうとしておるな、恐らくカードも厭わないやり方で。

 そして身体の弱いお前さんが万が一その攻撃を受けてしまったら怪我じゃすまないじゃろう」


 「……それでも!」


 監督の言葉に反抗するファクタに詰め寄ろうとするルカを監督は手で制止し、言葉を続ける。


 「ファクタ、お前さんはうちの貴重な戦力じゃ。ここで失う訳にはいかん。ここは下がるのじゃ」


 「くっ……。はい、わかりました」


 その言葉を聞きベンチに下がることを決めるファクタ。そしてそれだけでは終わらず……


 「監督ー俺も下がりまーす」


 「ペペ!? お前何を……」


 突然のペペの宣言に俺は慌てて止めに入る。


 「えー? カードも厭わない攻撃受けるかもなんだろー? 俺そんなの嫌だし。

 それにもうあいつらの作戦破っちゃってつまらないしさー」


 「ほっほ、お前さんならギガデス程度の攻撃凌げると思ったが見込み違いじゃったかのう。

 それとも本当の理由は2つ目かの?」


 「あははっ、両方ほんとの理由ですよー」


 そうしてファクタとペペ、今試合の希望の星2人が両方同時にベンチに下がってしまう。

 流れが来ていた俺たちにまたも暗雲が立ちこめる。


 ペペの代わりにラーラ、ファクタの代わりに将人がフィールドに入り試合が再開する。

 しかし、ギガデスの"ジェイグ"に対応できた2人がいなくなることで状況は一転し不利になる。当然大した対応もできず、結局前半終了までに更に2点の失点を許してしまう。


 得点は2-3。

 希望も見えないままハーフタイムに突入することとなった。

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