第5話 城はモナカによく似合う
「おお、スゴイ」
「きゃー、私たちのお城なのね」
石造りの灰色のビルの群れは霧にに包まれた街のようでナライでも憂鬱になった。そこに突然エメラルドグリーンのお城が出現した。いまはオレンジ色に変わった空を背景に輝くばかりに美しい。
「見て見て、オシャレな傘さしてる。ドレスの人も、ミニスカもいる。きゃぁ! 路上ライブやってる。止めて、止めてってたら」
馬車はモナカの声には無反応、車の寄せに着くと、メイドが三人待っていた。
「お疲れ様、ありがとう」ナライが自然な感じで挨拶するのを初めて見た。モナカは長い睫毛を瞬かせた。
「執事の田中です。銀河伯爵がお待ちです」
「うん」
あっくんが高々と足を組んで、大テーブルの向こうにいる。
モナカは執事に引っ張られてどこかに連れて行かれた。騒ぎが聞こえて来ているうちは問題ない。悲鳴だろうが、高笑いだろうが、少なくともモナカは元気いっぱいだ。屋敷が破壊されないかは心配だけど。
「どう、気に入った。気に入ったらここにサインして」
あっくんは冷たい顔で、鼻筋なんか鋭利な刃物みたいに鈍く輝くように際立っている。
「約束だから仕方がないね。あっ、修正テープ貸して、ああ、修正テープ万年筆じゃ書けないよ。ボールペンでいいかな」
ナライはポケットから 黒い油性ボールペンを出して、サインした。あっくん、じゃないえーと、そうだ、銀河提督だった。
提督はニヤリと笑ってナライのセミロングの髪をかき回した。
「ステキな頭だ、これで君は僕のものだね」
「死ぬまでに、せいぜい頭の中を成長させておくよ」ナライが憎々しげに話し銀河提督を見上げた。
「まちどうしいよ」銀河からやるせない吐息がもれる。
まったくガツガツとうっと鬱陶しい奴。
気がつくと、モナカが泣きそうな顔でドアの前に立っていた。
「ナライわたし、メイドなんだって」
モナカにメイドなんか務まるもんか。
「いいよ、姫で、メイド頭に伝えておくから、モナカの好きなようにやって。なんならあたしの部屋広いから一緒に使う?」
「ナライ説明しなさいよ。なんであなと同じ部屋? 嫌に決まってるでしょ、同情はいらないわ。座ってちょうだい」
「じゃ、探検も含めて二階に行こうか」
モナカはもう限界点だ。一番が好きなモナカは
、二番に収まってもらわないといけない。
どう理解させる?
ーー仕返ししたいよ。何年も酷い扱いをしたあげく、説明なんかしないで、モナカをここに置き去りにするってのは、ダメかなーー
ナライの闇の声が声帯を通さないのは正解だ、言葉に出さないのが、ナライの防御だ。モナカ、いつまでもアンタは頂点には行けないんだ。
「わかった。モナカは好きな部屋を使って、あたしはこっちの仕事部屋を使う。お金儲けしたら元の世界に戻るつもりなんだ」
「ねえねえ、あっくんは何者なの?」
「あれは、この国では銀河提督って呼ばれている。偉い人らしい。王様は独裁者で、あっくん提督は手下、これからは銀河提督って呼んであげて」
「じゃあさ、ナライが悪魔と何か契約したの? あっくんって呼んでたのは悪魔のあっくんてわけ?
「うん、あいつに魂を売った」
「死んじゃうの?」
「まあね」
モナカはポカァーンて顔をしたけど、すぐにうろうろし始めた。理解することを簡単に放棄したんだ。これがモナカのガードの強さ負けは認めない、認めるくらいなら、なかったことに出来るんだ。
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