第29話 神子という存在
翌日全員そろって早く起きると、眠い目を擦りながら、それでも手際よく荷物を全て片付けた。それから朝も収納の術で直していた果物を取り出し、昨日の夜の様に簡単に食事を済ませる。
皆が果物を腹に収めると、早速
「なんだか……少し暑いね」
転移の術で飛んだ土地に立つと、
しかし。転移の術が使える
琥珀は、しみじみと心の中で彼に感謝した。
「火山が近いからです。随分大人しくなったと聞きます。ですが、私達が産まれる前は頻繁に
辺りを見渡して、艾葉は暗い煙を吐くひときわ大きな山を指さした。あれが、炎燐山なのだろう。
「そうだな、あたしの記憶ではよく火を噴いていた。最後に来たのは――大地の神が
中の子は昔を思い出すように言葉を紡ぐと、小さく頷いた。
「
「大地の神!? どんな話なんですか、それ!! 一号二様って、誰ですか!?」
中の子が琥珀の大好きな大地の神を口にした途端、彼は興奮して中の子と二号一に尋ねる。翠玉は、子供っぽさの残る彼の様子に、呆れたように肩を竦めた。未だに冒険書物が好きな彼のままで、成長してはいなかった。それは、翠玉にとっては嬉しい事だったが。
「もう死んでしまったが、こ
中の子の言葉に、全員が二号一を見た。
聞くところによると、使い手は三千年ほど生きるそうだ。だが、
「あまり覚えていないが、傲慢の神が絶世の美女と呼ばれた火の国の王女を
中の子の腕で、助けにならないとは――琥珀達は、改めて神や穢れの神たちの
「その時、大地の神とその王女の間に子が生まれたはずだったが――立派な戦士になったそうだな。懐かしい」
「え!?」
再び、二号一以外の者達が驚いた声を上げた。
神と人間の間に産まれた子? そんな存在、知らないし絵巻物にも書いていなかった。
「おや、知らないのか? 神は気まぐれに、人間とまぐわって子を生す。
その意外な言葉に、描いていた高貴な神の姿がなんだか俗っぽく変わっていきそうだ。
「アタシが知っている限り、今いる神子は五人だったかしら? 闇の子の子が二人、火の女神の子が一人、大地の男神の子が一人、水の女神の子が一人」
二号一が指折り数える。あの妖艶な己の加護の女神は、二人も子を生していたのか。人間が嫌いだと聞いていたのに――ますます闇の子の行動は、琥珀には理解出来なかった。
「どんな姿なんですか?やっぱり、神様みたいに特別な色があるのですか?」
翠玉も興味がわいたようで、中の子に尋ねる。
「いや、人の子と変わらん。ただし、あたしの様に片眼が違う事が多い。己を加護する神と、親である神の加護が現れるからな。あとは人の子より強くて、寿命が少し長い。三百年から五百年くらいだろうか?使い手より命が短いのは、人間の要素も混じっているからだろう」
中の子は、
本当に、知らない事だらけだ。村にいたままでは、絶対に知らなかっただろう出来事。
琥珀は、中の子との旅が楽しくて仕方ない。胸が高鳴り、まるで大地の男神の冒険譚を体験しているようだ。
「あそこでしょうか」
辺りを見渡していた艾葉が、少し先を指差して全員を振り返った。艾葉が指差す先には、ゴツゴツした岩が並んでいた。そしてその岩の間に、村の門がかすかに見える。
「多分そうね。初めて来る所だから、やっぱり微妙に位置が
確認した二号一が、誤魔化すように呟きながら先に歩き出す。それに一同も並んで進む。その村に近づくにつれて、暑さも少しだが増してくる。
「あ、でもさ!」
琥珀が、ふと何かに気付いて二号一の着物を引っ張り、進むのを止める。
「光の子様を
琥珀にしては、珍しく真っ当な言葉だった。その言葉に、二号一は僅かに眉を寄せた。
「村人全員がそういう思考をしている訳じゃないかもしれないけど、確かにそうね。警戒されて、村人から話を聞けないかもしれないわ」
「じゃあ、どうするんだ」
二号一は、中の子と琥珀を見比べてから口を開いた。
「まず、この辺りの探査術をするわね――全てを監視する大いなる瞳よ 北から南に走り東と西を凍った光で照らし我に共有させよ―――空間探査」
瞳を閉じた二号一は、その瞼を手で押さえる。琥珀達には分からないが、今二号一の閉じた瞳の奥には、周りの光景が鮮やかに走り抜けて映し出されている。
「反対側に、深い洞窟があるわね。深くて中まで見えなかったわ。これは、艾葉が昨日言っていた洞窟ね――村の方は魔獣の卵もなさそう。こっちは、多分安全そうね」
そう言うと、瞳を開けた二号一は琥珀達に向き直った。
「情報収集でこの村の中にいる間は、別行動にしましょう。アタシと中の子は、炎燐山の近くにある洞窟に行ってみるわ。そこに魔獣の卵があるかもしれない」
「え、じゃあ琥珀と翠玉と艾葉と俺だけで、村から情報を聞き出すんですか?」
それまで静かに付いてきていた
「大きな体で、子供みたいに情けない事言わないの。アナタ達は、もう戦士なんだから。自分で考えて行動する訓練になるじゃない」
確かに今までの旅は、中の子や二号一に指示されてそれに従っていた。戦士になり旅をすると、自分で決めて行動しなければならないのだ。
「これ、一応渡しておくわ。風の王族から貰ったお金よ」
玉髄に、お金の入った重そうな袋を渡す。それから収納の術で三人の武器と荷物を取り出すと、それらを全員に持たせた。
二号一は、中の子を連れて琥珀達から少し離れる。
「何かあれば、艾葉の式神で連絡して。絶対に危ない真似はしないようにね――それと、艾葉と翠玉をちゃんと守るのよ?」
小さく笑った二号一は片眼を
「ええと――じゃあ、行くか」
盾を背中に抱えて槍を持ち、玉髄が全員に声をかけた。琥珀達はそれに頷き、揃って光迅村へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます