第27話 玉髄の願い
食事が終わると、
「それで、光王都で聞いた話とは何なんだ?」
その作業をしている艾葉の隣で、
「あらやだ、忘れてたわ」
二号一は中の子に言われて、自分が光王都で仕入れた話をようやく思い出したのか、瞳を丸くしていた。本来なら食事をしながら話そうとしていたのに、またもや肉に夢中になっていたので仕方ない。
「王宮で光の下級
「思想?」
寝床の下に敷く動物の皮を広げていた
「創造主が眠りについたから、その後を継ぐのは光の女神である。しかし、偉大な光の女神は悲しい事に眠られている。だから女神の代わりに、その力を受け継いだ光の子がそれを担うべき! と、いう運動らしいわ。光王都から少し離れた村から流行りだしているから、王都にはまだあまり広まってないそうよ」
「ほう?」
中の子は興味を示したようで、艾葉に視線を向けた。
「私はあまり任務以外の事は知らないので……すみません、初耳です」
「光王都で流行っているなら艾葉の耳にも入ったかもしれないけど、
「しかし――神の序列について人間が口を出すなんて、また随分恐れ多い事です」
玉髄は眉を寄せた。
神は、人間を創り出した最も尊い存在なのだ。今自分の目の前に神である中の子がいるが、本来なら神に会えるなんて奇跡でしかない――自分たちは、中の子だけでなく花の神や闇の子、光の子にまで会えたという子孫にまで自慢してもいい恩恵を受けているのだ。
「その村の男が、『神の使い』って
「それはまた、随分過激な思想だな。神の順位は明確に決まっている訳ではないが、あたし達兄妹は神々の中では下位になる」
中の子が話すに、生まれた順番が大事という事だ。それで順位をつけるなら、光と闇が一番、火と水が二番になる。光と闇は創造神と共に今は眠りについているから、その考えだと火か水が後を受け継ぐのが妥当だという。
しかし神々は闇と光の戦い以降『神々同士の戦いはしない』と決めているので、誰が第一神になるかを競わない。なので、神が創り出しただけの人間がそんな話をしていても、神には関係ないし興味もないのだ。
「中の子様、『神の使い』とはもしや――?」
玉髄の言葉に、二号一は軽く手を叩いた。
「ご名答! 『聖なるモノ』と近くないかしら? それとも、同じかもしれないわよ」
「中々良い情報だな。では、明日残りの国境付近の捜査が終わったら、その村に行ってみよう」
中の子がそう言うと、二号一と玉髄は頷いた。艾葉は、緊張した様に「承知しました」と小さく返事をした。
「アンタ達! いい加減にしなさい! ここは村と近いから、みんな一緒に朝まで寝ていいわよ!」
まだ寝る順番で
「だ、そうだ。火を片付けて俺達も寝よう。明日も早いぞ」
玉髄に促され、艾葉は焚火の
翠玉はもうすやすやと寝ている美しい寝顔の中の子に近づくと、脇に置かれていた彼女の
「じゃあ、おやすみ」
皆が動物の革を敷いた上で並んで横になる。二号一、中の子、翠玉、艾葉が並んだ。少し離して敷かれたもう一枚の皮に、玉髄と琥珀。
暗くなり明るく見える夜空には、沢山の星が綺麗に
静寂が、辺りに広がっている。
平和な世界のようなのに、裏で何者かが二つの国を襲おうとしている。それに、村を出てこの様に旅に出ないと知らない現実がある。
どうか下の子が、父と母を大事にしてくれないか。そして、自分の分も恩返ししてくれないか――それを願うのも、自分勝手だな。玉髄は、もう取り返しがつかない思いと共に、懐かしい家族を思い出した。
寝返りをすると、月明りの下。ふと、艾葉と目が合った。
『ありがとう』
声に出さず、艾葉は玉髄にそうゆっくり言葉を唇で表す。玉髄は艾葉に、小さく頷いた――彼女も、そう簡単に傷付けられた心の傷が癒える訳ではないだろう。しかし、彼女の傷が、少しでも癒える様に。自分が彼女を
それに、玉髄自身も己の目の前で愛しく思っている
理不尽に藍玉を死なせてしまった、己の無力さに。彼を殺した、この世の流れに。何故、神は藍玉を死なせてしまったのか――。
琥珀達と一緒に藍玉の
玉髄は瞳を閉じた。まだ旅は続く――疲れを少しでも癒すために、休まなければと自分に言い聞かせる。
琥珀達の寝息を聞きながら、ようやく玉髄が眠りについたのは明け方近くだった。
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