第21話 琥珀の安堵
「……へ……?」
「ん? やっぱり、怖くなって止めたいのかな?」
戦おうとする相手は、闇の子が手を貸す程の力のあるモノだ。まだ約二年訓練しただけの戦士になりたての自分たちに、光の子が簡単に
「いいえ! 戦います!」
「君たちはそんなに強くないけど、
凡人だと自覚している琥珀の胸をぐさりと斬る言葉だったが、正論だった。
「有難うございます、必ず倒してみせます!」
琥珀は何とかそう答えて、もう一度深く頭を下げた。翠玉も玉髄もそれに倣う。
「うーん、剣士と弓師と守護師か。中の子と呪術師の花の
細い顎に指を添えて一同をぐるりと眺めると、光の子は中の子に向き直った。
「はい、構いません。ですが、光の使い手は……この
中の子の言葉に、二号一から静かな怒りの雰囲気を感じる。これで雷が落ちる事は、絶対に回避出来なさそうだ。
「じゃあ、召喚士の人間の
光の子がパンと手を打ち鳴らすと、彼の
「やあ、
一ノ三號は、ちらりと琥珀達を見た。その向けられた視線に、ピリッとした感覚が琥珀の肌を伝った。
『承知いたしました、我が神よ』
頭の中に直接話しかける、年老いてはいるが重々しい声が響いた。それが、金の獅子である聖獣の声なのか。その返事を残して、瞬時に一ノ三號は姿を消した。
「では、お茶でもしようか。久し振りにこの花の
緊張感のない光の子が、楽し気に中の子に笑いかける。しかし、中の子は申し訳なさそうに兄神に頭を下げる。
「兄上、今はこの事態を片付ける為に急ぎますので、お茶は片付いてからにいたしましょう。兄上が好きな、
「……そうなのか、それはとても残念だ。だが、忘れないでおくれ。必ず、私に会いに来なさい」
「中の子よ、我とも久し振りに話をしてはくれぬのか?」
明らかにがっかりとしたように光の子は呟き、花の神も落胆した声音でぼやく。拗ねる子供の様な二人の姿から、彼らが心から中の子を愛していると分かる。その存在がいる事に、琥珀は少し嬉しくなった。二号一も普段口うるさいが、中の子を大事にしているのを分かっている。
それは、花の男神の
中の子を愛してくれている存在がいて、良かった。闇の子のような存在だけが神ではない。少なくとも二人の神と一人の使い手が、心から中の子を愛おしく思ってくれている。中の子は、一人ではないのだ。
「ちゃんと、お二人との時間を作ります。待っていてください」
笑顔の中の子の言葉を聞くと、落ち込んでいた二人の顔に笑みが戻る。神とはいえ、単純なその様子に琥珀は彼らに好感が持てた。
それなのに、やはり闇の子にはそんな良い印象を抱けない。琥珀は思わず己の加護の神を恨んだ。
「では、私は神殿に戻りましょう。人の子達、頑張るようにね。中の子ばかりを頼らず、自分の力を信じる様に――それと、中の子。約束を、絶対に忘れないように」
琥珀達から視線を中の子に向けると
「相変わらず、
花の男神も、椅子から腰を上げた。それを見た中の子も、慌てて椅子から腰を上げた。
「花の父上、今回はあたしの我儘を聞いてくれて本当に有難うございました」
「我の愛おしい華の為だ、これぐらい苦になるものではない」
優しく笑いかけて中の子の
ようやく、中の子を除く神々が姿を消した。平伏した姿のまま、琥珀達は安堵で地面に倒れ込んだ。緊張とずっと平伏した姿勢だった為、身体が変に痛む。
「ちょっと! 中の子!!」
それまで笑顔で頭を下げていた二号一が、怒鳴りながら顔を上げた。面倒臭そうに、中の子は彼に向き直る。
「何だ?」
「よくも我が神の前で、あんなこと言ってくれたわね! アタシのどこが厄介な性格なのよ!!」
またもや、二号一は中の子の頬を掴んで横に引っ張る。中の子はジタバタと嫌そうに暴れるが、二号一の怒りは収まらない。
「それに、琥珀!!」
中の子の頬を引っ張りながら、二号一の怒りは琥珀にも向けられる。鬼の形相で、顔だけ琥珀を振り返った。
「は、はい!!」
「事前に、神々の前では大人しくしろって言ったでしょ!? もう、なんでアンタ達はそんなに自由なのよー!!」
二号一の小言は、延々半刻ほど続いた。怒られている琥珀は、中の子の頬が伸びてしまわないか、それが心配だった。
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