第20話 光の子は微笑む
「ある程度絞れてきたな。
光の子に話しかける花の男神の邪魔をしない様に視線を
「神々の
少ない情報の中、玉髄は今想像できる限りの返答をした。風の国を狙っているなら、風王都を狙うだろう。しかし、
今回、
つまり、光の国に隣接する風の国の村が狙われたのは、環境が似た場所で試すためだった。今手に入った情報ではそう考えるのが、一番筋が通っている。
「そうだな、あたしもそう思う。しかし、風の国で孵化の様子を確認するなんて面倒な事を、わざわざ考える理由が分からん。なぜ、一斉に
口元に手を当て、中の子は表情を陰らせた。
「姉神から、もっと情報を引き出せればよかったのだが……」
「俺、嫌です!」
突然、琥珀が大きな声でそう言った。会話が終わったらしい花の男神を含めた全員が、琥珀に視線を向けた。
「中の子様にあんなに辛く当たる神様に、頭を下げて教えて貰いたくありません!!」
琥珀のその言葉に、全員がしばし動きを止めた。
「あっははははは! 随分
花の神が、吹き出して楽しげに笑った。それを聞いて素早く隣にいた
驚いた表情を浮かべていた中の子だったが、ゆっくりと唇に笑みを浮かべて優し気な表情になると、僅かに瞳を細めた。中の子の緊張した気配が無くなったのを感じた花の聖獣たちは、ようやくまた楽し気に中の子にすり寄る。
「有難う、琥珀。しかしアンタの加護の神だから、そう
「でも、あんなに中の子様に怒鳴りつけるなんて、俺嫌です!」
彼女の背後の二号一の肩が、小さく震えている。きっと後で長い小言が待っている、と玉髄は乾いた笑みを浮かべる。そうして、彼には藍玉が琥珀の面倒をずっと見ていた理由が、少し分かったような気がした。琥珀は純粋で素直で、だから憎めないのだ。そんな
「随分楽しそうですね」
和やかな雰囲気の中、突然聞き慣れない青年の声が響いた。それを聞いた花の神が、何処か拗ねたような表情になる。
白い椿の花がはらりと落ち、その動きに合わせて空間が輝きながら裂ける。その光り輝く空間の向こうから、
「兄様!」
光り輝く青年は、美しい笑みを浮かべると真っ直ぐ中の子に向かい歩いて来る。彼女以外は目に入らないかのように、座っている彼女の頭をそっと自分の胸元に抱き寄せた。
「私の可愛い華よ。何百年ぶりだ? お前の美しい姿に焦がれて、私は寂しく一人待っていたよ」
「光の子よ、我も居るのだが」
「ああ、これは花の神。変わらず息災の様で安心いたしました」
光の子は、中の子を抱いたまましれっと花の男神に愛想笑いを向ける。中の子を取り合う様子の
「花の父上も兄様も、今は大切な話があるのです。まずは、あたしの話を聞いて下さい」
光の子の腕の中で、中の子はジタバタと身を
「おや? 人の子もいるのだね? これは失礼」
中の子の言葉にようやく光の子が彼女を離すと、驚いたように自分を見つめている琥珀達を眺める。自分たちの存在に気が付いた光の子に、琥珀達は慌てて深々と頭を下げた。
「闇の子も来ていたようだね。相変わらず中の子を虐めていたんじゃないか? 後で、私が慰めてあげようね」
闇の子が蹴倒した椅子に気が付き、それを元に戻して光の子はにこやかにその椅子に腰を落とした。優雅でのんびりした雰囲気だが、全員がすっかり彼に振り回されている。
神様って、個性的過ぎる……。
玉髄は、三人の神の存在にもう疲れていた。
「実は、光の国の
ようやく中の子は自由になると、座り直して兄神を真っ直ぐ見る。中の子のその言葉に、光の子は僅かに眉を寄せる。
「それは……反乱か他国と戦が起こるという事だろうか?」
基本、神は人間の行動を規制しないし干渉しない。興味がないのだ。事実、今内乱が起こっている闇の国と火の国も、神は王家や反乱分子に関与していない。
「いえ、そうではないのです」
中の子は、簡潔に風の国で起こった魔獣の卵の大量孵化や、闇の子の話を光の子に伝えた。光の子も、時折頷きながらその話を真剣に聞いているようだった。
「輝華にも勿論魔獣は現れるが、村を一度に沢山襲うほど用意されては困るね。全く困った子だ」
軽く首を振り、妹神の行動に光の子は溜息を零す。彼も、妹神の気まぐれには、手を焼いている様子だった。
「聖なるモノ……か。確かに抽象的だ、私にも分からないよ」
光の子は、足元に咲いている花々を暫く見つめてから、そう口を開いた。
「成功した、とあの子は言ったんだね。では、間違いなく今度は輝華を狙うだろう。あの子は、何故かずっと光に対して怒っている。中の子は国を持っていないから、嫌がらせをするなら私にだろうね」
「兄上もそう思われますか?」
「あの子が何をしたいか分からないけど、ここまでの話を聞く限りそう思う。どうする? 私が王家の者に伝えて、この件を捜査さて片付けさせようか?」
「光の子様!!」
中の子が口を開こうとするのを、琥珀が遮った。瞳を丸くした光の子が、琥珀に視線を向ける。まさか、王家の者でないらしい人間が自分に話しかけるなど、思わなかったのだろう――中の子も、何処か楽しげに黙ったままの花の男神も。
「その『聖なるモノ』の退治は、俺達にさせてください!! お願いします!」
平伏したまま、琥珀は声を張り上げた。神様が相手でも、これだけは譲れなかった。藍玉の敵を討つと、約束したのだから。翠玉も玉髄も、琥珀と同じ意志だと表すようにより頭を深く下げる。
「多分、人の子が相手じゃないと思うよ? 君たち人の子の手には、負えないかもしれないよ? それでもいいのかい?」
諭すよりは確認する様に、ゆっくりと光の子は琥珀に話しかけた。光の子にも、分かっているはずだ。琥珀は、強くはない。なのに、闇の子と結託するような得体の知れない「モノ」に立ち向かえるのか。
「はい! 絶対に俺達は負けません!!」
琥珀の言葉に、光の子は視線を中の子に移した。中の子は、黙ったまま彼に頷く。再び、光の子の視線は琥珀に向けられた。
「そうか。分かったよ、君たちに任せよう」
にっこりと、光の子は琥珀に微笑んだ。
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