第6話 落ちこぼれ
観戦していた時はそこそこ広く見えた
例えば
だがそれらの技術的課題はアリシアにとっては重要なことではなかった。なにせ、それ以前の問題なのだから。それはここにいる教師や学生たち皆が知っていることだ。アリシアが舞台に上がるとクスクスと笑う声がちらほらと聞こえてきた。
(いつものこと。気にする必要はないわ)
アリシアは練習用の人形、
『まだあれ使ってるのね』
『しかもまだ動かせないんでしょ? 本当に落ちこぼれなのね』
『あんなんガキでも動かせんだろ。情けねえやつ』
はあ、とアリシアはため息を吐いた。
いつものことだとはいえ、やはり馬鹿にされるのは気分が良いものじゃない。それでも何も言い返せない自分の立場が許せない。言われたとおりだ。本当に情けない。泣けるものなら泣きたいし、逃げられるものなら逃げたい。
(でも私はアリシア・ディア・ペネトレイトだから――)
集中する。ゆっくりと、だけど確実に、ふわふわとした暖かな感覚が身体の内からあふれてくる。
熱が徐々に手の方へと移動していくのが分かる。
(
「君には無理だよ。もう諦めてもいいんじゃないか?」
声をかけてきたのは対戦相手のクーエルだ。
クーエル・アルカネシア。
「人には得手不得手というものがある」
「知っているわ。でも諦めるかどうかは私が決めることなの」
アリシアは答える。
諦められるわけがない。
元婚約者の願いでもそれは聞き入れられない。
なによりアリシアにとってこれは一番大切なものだからだ。
帝国の
そうすればアリシアは
「どうしてそこまで君が頑張るのか僕にはわからないよ」
「そうでしょうとも。貴方には絶対に分からないわ」
そう簡単に乙女心が分かってたまるか、とアリシアは思う。子供の頃から婚約者だと教えられて育った。彼の伴侶になれるのならばと頑張った。彼は忘れているかもしれないが、私は彼の言葉に何度も救われた。正直、彼に恋していた。
未練があるわけじゃない。
元婚約者になった時点でこの恋は諦めてる。
ただ1つだけ許せないのは。彼の元婚約者が落ちこぼれなどという事実。彼を貶める1つの汚点。アリシアはそれだけが許せなかったから、諦めずにこうして戦っていた。
「――そんな君の姿をボクは見たくないんだよっ!」
「うっさいわね。元婚約者のくせに偉そうに言わないでよっ!」
「……すぐに終わらせてあげるよ」
教師がハンドベルを鳴らした。
試合開始の合図だ。
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