第5話 人形劇-見たことのない人形-
先に動いたのはウェルバであった。
両手指にはめられた計10個の指輪から、広がるように白い糸が吐き出され、人形と彼を繋げた。
「せいやっ!」
ウェルバの掛け声に合わせて糸が淡い青色に変化した。
つまり
変化はそれだけに留まらない。
対して、カロンもウェルバと同じように
「そのまま受けるつもりかよ!?」
観覧席から声が飛ぶ。
「無謀ね」
誰に向けるでもなくアリシアが呟いた。
座学でトップクラスの成績を修める彼女の目から見ても、カロンの行動は失敗と言わざるを得ないものだった。ウェルバが操っている
基本コンセプトからして相性が噛み合ってしまっている。ウェルバにとっては相性の良い相手であり、カロンにとっては相性の悪い相手なのだ。この根本的な機能性における優位というのはそうそう揺らぐことはない。地形に差異があればまた違うこともあるかもしれないが、今彼らのいる場所は
結論を言えば、
「燃え尽きてしまえ。
ウェルバの声とともに
炎はカロンの
「
カロンが叫ぶと同時、
(
アリシアの思考が終わる前に決着がついた。
2本の炎の矢が
煙が風に流され、破壊されたであろうカロンの
――はずであった。
「な、なんであれで無傷なんだっ!?」
ウェルバの叫びは観覧席にいた誰もが思ったことだ。
それはアリシアも同様であった。
無傷と言って差し支えないカロンの
「
「ご明察。あれは
いつからいたのか。アリシアが振り向くと、後ろの席に男子生徒が座っていた。
ボサボサの髪。よれよれの制服。その上から羽織っている白衣は所々に多彩な染みが付いており、よく見れば穴も空いている。一言でいえば不審な男子がそこにいた。彼はアリシアの方を見ることもなく言葉を続ける。
「見ないの? まだ試合は終わってないよ」
「見るに決まってるでしょう」
アリシアは男子学生のことが気にはなるものの、未知なる
視線の先、呆然としているウェルバと意気込むカロンの姿がある。
ハッとしたように我に返るウェルバ。
「二発でダメならいくらでもくれてやる!」
「いくらでも耐えてやろう!!」
両
攻撃を耐えながら一歩ずつ前進するカロンの
互いに譲らない攻防が炎と煙で
さすがに煙たいのか、咳をする生徒たちも目立ってきた。
「まだ倒れないのか!」
ウェルバが目前にまで迫ってきた
「これで終わりだっ!!」
カロンの繰る
応えるように
両者の人形がぶつかり、ガァンッ!という重い金属音が
勝負は決した。
「勝者カロン! 続いての模擬戦は――」
審判をしていた教師が観覧席を見渡して告げる。
「アリシア。クーエル。両名
気落ちした様子でアリシアが立ち上がった。
肩を落として視線を下に。億劫だと言わんばかりの様子だ。
「行ってらっしゃい」
「――行ってきます」
名前も知らない男子生徒に見送られながらアリシアは
(――見世物になるのはいつになっても慣れないわ)
アリシアが心の内でため息を吐く。
このあとどうなるかは既に分かっていた。
アリシアもクーエルも理解している。二人だけでなく、教師も観覧しているクラスメイト達も理解している。誰も何も言わないが結果はわかっている。今までがそうだったからこれからも同じことになるだろうというのが共通認識だ。
今日もアリシアは人形を動かすことができずに不戦敗になる、という。
■用語説明
①
②
③
燃焼する特性が加えられているため維持時間は短い
※燃えるものが
④
接地面の特性を加えて再現するため、使用する場所によって強度が異なる
用途によって放出型と維持型に分かれる魔術
⑤
重くて硬い特殊な素材を使用しているため、強度は高いが動きが鈍いという欠点があり、数体のみ生産されてお蔵入りとなった人形。
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