第4話 人形劇-試合前-
プルトニア大陸の南東部に位置するアタラクシャ帝国は技術立国である。
周囲を山々に囲まれ、昔は鉱山から
そういった時代・経済背景もあり、アタラクシャ帝国において人形劇に対する支援は何よりも優先されていた。たとえば人形を操る
国立アダラキシア学院。
アリシアが通っているのはアダラキシア学院の
そしてユテナが言っていたアレとはこの実践講義のことであり、アリシアにとっては学院生活で最も憂鬱な時間であった。
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学院の校舎裏には旧時代の闘技場を模した施設がある。
2つの円柱とそれらを繋ぐ一本の橋からなるタウルスと呼ばれている闘技場だ。
単純に落とされたら負けというわかりやすい構造の闘技場である。もちろん落ちることが前提の競技となるため、円柱の高さは3メートル程度となっており、落ちてもケガ程度で済むようにマットが敷かれるなどの配慮がされている。
今、各々の円柱にはアリシアのクラスメイトの姿があった。
一人はよく言えば肉付きの良い、悪く言えば太っている青年だ。高いところに不慣れなのか足元がおぼつかない様子で右に左に身体を揺らしている。もう一人は程よく身の引き締まった、いかにもスポーツしてますと言わんばかりの細マッチョの青年だ。こちらは高いところは慣れているとでも言わんばかりにその場で逆立ちをしたまま歩くなど曲芸を見せている。余裕と言いたいのかもしれない。
「ウェルバ君すごーい!」
「ほんとすごーい!」
黄色い声が観覧席の至る所から耳に届く。
「
そう呟くアリシアの視線は曲芸をしているウェルバの隣、
真っ青なローブに身を包んでいる木製の人形。
両手の先に指はなく、手が杖の形に削られている。
「ウェルバは相変わらず
「タウルスは行動範囲が極端に狭い。長期戦を仕掛けるには向かないから選択としてはありだな」
「いやいや、いかに制限された範囲で上手く戦うかが重要なんだから、動かなくても攻撃ができる
「対して――」
皆の視線がもう片方の人形に向けられる。
小太りの青年ことカロンの隣には鉄製の防具そのものにしか見えない人形の姿があった。よく見れば両腕が盾になっており、身体全体を覆えるように盾自体が大きく曲線を描いていた。防具のように見えるのはそのせいだろう。通常の人形よりも一回り大きい印象を受ける。
「圧倒的な防御」
「どう見ても引きこもり」
「戦うことを忘れた存在」
「――
「「「――
「
アリシアがため息交じりに、誰に応えるでもなく呟いた。
(でもまあ、皆が悩んでしまうのも仕方がないか)
そもそも本来の
槍も持たず、それどころか両腕が盾になっている
「いったい誰があんなへんちくりんな人形を作ったのかしらね――」
アリシアの疑問に対する答えはない。
ほどなくして教師がハンドベルを鳴らした。
試合開始の合図だ。
■用語説明
①プルトニア大陸
アパティア聖王国やアタラクシャ帝国を始めとする国がある大陸
上記の二大国以外にもいくつかの国家が存在している
②国立アダラキシア学院
人形劇に関連する人材育成を目的とした国立の教育機関
他国でも名の通った名門でもある。実力主義を掲げており、出身を問わず入学することが可能なため、他国からの留学生も少なくない
③
既存の人形を改良する人、またそれを主とした職業の総称
武装改良専門などもある意外と幅の広い分野
④
人形の研究をする人、またそれを主とした職業の総称
⑤タウルス
闘技場の種類の一つ。2つの円柱とそれを繋ぐ橋で成り立っている
基本的に選手が各々の円柱から相手の円柱に攻める形式
橋を使用せず、その場で射撃や回避を行う訓練場として使われることもある
⑥
逆に
⑦
大剣を扱うことを主とした人形
他の人形に比べて重装であり耐久性にも優れている
本来は槍を主兵装とした運用が想定されていたが、一部有力者からの『格好が悪い』の鶴の一声で大剣を使うようになった経緯がある。前述の理由もあってか実力者は
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