第3話 騒がしい朝
窓から差し込む光と、開いた窓から聞こえてくる鳥の
彼女の名前はユテナ。部屋の
「アリシア様。朝ですよ。起きてください」
「起きえる。起きえるよ。らいじょうぶ。起きえるってあ……」
アリシアはおぼつかない口振りと、どこに向けているかわからない腕振りで起きていることを主張するが、その言葉を信じてしまうほどユテナはお人好しではない。長年寝食を共にした関係である。彼女が今どんな状態にあるのかユテナにはしっかりと分かっていた。
(……これは確実に寝てる)
断言できる自信がユテナにはあった。
過去に何度となくこの言葉に
このまま放置すれば確実に遅刻することになるだろう。
――バシャアッ!!
ユテナがテーブルの上にあった花瓶の中身をアリシアの顔面目掛けてぶちまけた。
陽光で温められた水とまだ摘まれてまもない花々が彼女の眠るベッドを彩る。
さすがに
「なにごとっ!?」
アリシアはずぶ濡れになった髪を力任せに掻き上げて部屋の中を見回す。
そこにさっきまでの眠そうな気配は微塵もない。
パンッ、パンッ、パンッ、とユテナが力強く手を叩いた。
「ヤー! ヤー! ヤー! 時間がありませんよ。さっさと起きて学院に向かう準備をなさい!!」
軍隊の訓練にありそうな掛け声でアリシアを
普段の彼女からは想像できない声量と言い方だ。アリシアにとっては見慣れた光景だが、他の侍女がこの場にいたなら驚きを隠せなかっただろう。普段のユテナが他の人と話すときは柔らかい言葉遣いをしているからだ。良く言えばそれだけアリシアに心を許しているとも言えるし、単に遠慮がないとも言える。
「あー……またやっちゃったか」
「アレがある日はいつもですよ」
「いつもありがとう。ユテナがいてくれて本当に助かってるわ」
「そう思うなら私が起こしに来る前に起きてて下さいな」
「それは無理」
「そうでしょうとも」
このやりとりもいつものことだ。
忙しなく着替えに没頭するアリシアの姿を見て――
(
ユテナが眉間にしわを寄せてため息を吐いた。
アリシアのわんぱくぶりは幼少の頃から変わっていない。
外面が良くなったのは成人の
気づけば眉間のしわはなくなり眉尻が下がっていた。
浮かぶ表情は落胆である。
「そんな顔してどうしたの?」
「どうもしてませんよ。それよりお時間は大丈夫ですか?」
「ダメっ!!」
部屋に置かれた振り子時計を見てアリシアは叫んだ。
時間は8時を過ぎており長針が6を指している。学院の始業は9時からだが、家から学院までは急いでも30分はかかる。無駄に使える時間はないに等しい。支度を済ませ、慌てて部屋を飛び出していく
何も変わらない一日であると疑う余地もなく。
今日もユテナは侍女として一日を過ごし始めた。
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