第2話 帝国の名家-ペネトレイト-


 帝国に人形師の名家あり。

 一つは先祖代々騎士として帝国に仕えたペネトレイト家。一つは帝国魔法体系を築き上げたキャスト家。一つは始まりの人形使いグランドマスターの子孫とされるレプリカント家。数多あまたある人形に関係する家系の中でこの三家は畏怖いふ敬意けいいをこめて三大師さんだいしと呼ばれている。

 余談になるが近年設立された国立人造生命研究機関アニマ国立人形研究機関マリオネイトの二機関を含めて五大学派ごだいがくはと呼ぶ者もいる。


 そのうちの一家。ペネトレイト家は世継よつぎ問題を抱えていた。


 現当主の子供がご息女そくじょ一人ということが問題だと大衆たいしゅうは考えているが、この事実はあまり問題にならない。先祖代々より実力至上主義をかかげてきたペネトレイト家において、女当主の存在は珍しくはあるもののありえない話ではないからだ。事実、歴代当主の中には女性の姿もちらほらと見受けられる。


 問題はペネトレイト家のご息女、アリシア・ディア・ペネトレイト自身にあった。近代、人形劇が活躍の場となったことで人形を使う能力こそが重視される傾向けいこうにあった。この点においてアリシア嬢は致命的な欠陥を抱えていた。


 彼女は人形を動かすために必要な素養、魔力を持っているにも関わらず、人形を動かすことが出来なかったのである。幼い時分であれば個人差があるものだと楽観的に考えることが出来るが10とおも過ぎればそういうわけにはいかなくなる。若干10歳にして落ちこぼれの烙印らくいんを押され、12歳にして出来損ないと評され、14歳に至ってはペネトレイト家の恥部ちぶとまで言われるようになった。


 たとえ剣術大会で優勝しようとも、学業で首席になろうとも、生徒会長になろうとも、その汚名を返上するには足らなかった。これからする話は才能あるものが活躍するような物語ではない。ひたすらに己の非才を嘆き、苦しみ、されど夢を諦めなかった一人の少女の物語。


 彼女、アリシア・ディア・ペネトレイトが歴史に名を刻む物語だ。






■用語説明

①ペネトレイト家

 優秀な人形使いマスターを輩出した帝国の名家


②レプリカント家

 最も歴史のある人形使いマスターの名家

 近年は人形使いマスターよりも人形師クラフターを輩出している家系として有名


③キャスト家

 人形繰りを始めとする魔力マナを活用する技術の基礎体系化を成した名家

 人形繰りだけでなく、医療の研究も行っている


人形師クラフター

 人形使いマスターの使用する人形を制作する人、またそれを主とした職業の総称。広義では人形の研究をする人たちも含む


魔力マナ

 体内に宿る生命力の総称。精神力とも呼ばれる

 量や純度に個体差があり、どちらも消耗することで成長する

 消耗した魔力マナは食事や睡眠により回復する

 

三大師さんだいし

 レプリカント家、キャスト家、ペネトレイト家を指す俗称


国立人造生命研究機関アニマ

 キャスト家が後ろ盾となっている国立の研究機関

 人工の生命体を生み出すことを目的に活動している


国立人形研究機関マリオネイト

 国家主導で行われている人形の研究・開発機関

 人形の素体だけでなく兵装の研究・開発も行われている


五大学派ごだいがくは

 三大師さんだいし国立人造生命研究機関アニマ国立人形研究機関マリオネイトを含めた俗称。人形に関する技術・研究・開発をしていることから学派とひとまとめにされることがある。

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