悪の華《ブラックギャングスター》
感 嘆詩
第1話 blue-bad-boy
霧が肌に纏わりつく。
荷馬車の上で目を覚ました。
輪郭のぼやけた馬の尻が、パコパコと野道を進んでいく。
一定の年齢になった人間は、国内に何ヵ所かある初心者の街へと、この無人の馬車で自動的に送られる。
富国強兵を望んだ王と神の契約に依るものだ。
そうか、今日が誕生日だったのか。
ざまぁねぇなあの領主。今ごろ泡食って神様に祈ってるんじゃないか?
生まれた寒地では、
神様が現実に側にいる、この古い古い国では迷信なんてものが存在し得ないのだが、何しろ希少種族であるのでこういう不幸がたまにある。
今生の出生地は、過去の俺も何度か訪れたことはあるが、ほとんど年中氷に閉ざされた僻地で、資産どころか服一つない子供が逃げ出せる場所ではなかった。
仕方なく時が来るまで鎖に繋がれてトナカイ小屋で飼われていた。
過酷な扱いだったが、ダイスで得たポイントのお陰でそこまで苦じゃあなかった。まあ、それなりに楽しんださ。
さて、ここからが長丁場だ。《悪漢》なんて最大級にレベルアップの遅い職業で、コツコツ、多分一人で、やらなきゃならん。
でも、とりあえずは、街に着くまで寝直すか。濃霧と藁束の匂いを思い切り吸い込んだ。久しぶりに心地よくねむれそうだ。
「藁なんて何時ぶりだ?あ、人生初だったわ。なんつって!」
入り口に着くと馬車は霧に溶けるように消え去り、《持ち物》など一つもない俺は全裸で街の冒険者ギルドまで歩く羽目になった。種族の特性と限界まで振ったステータスのお陰で見せて困る体ではなかったが、将来有望な少年少女の癖を歪めて困らせてしまったかもしれん。罪な美少年だ。全く。
受付のお姉さんも呆れか見惚れかで困らせてしまうかもな、と考えていたら酷く痛ましい目で見られた。なるほど。この、神が見ている国で、この歳で服さえ与えられぬ境遇の子供。滅多にいないが、あんな目を向けるくらいには過去相当数、居たのだろう。
「お姉さん、男を見るときは、もっと熱っぽくってママに教わらなかったのかい?」
「失礼した。ここは冒険者ギルド初心者の街1店だ。登録を済ませ、装備を受けとると良い。職業によって得られる物は異なるが、今の姿よりはマシだろう」
「全裸にグローブとブーツだけとかだったらどうするの?」
「その時は私が繕ってやろう。名前はあるか?書けるか?私が名付け親になってやろうか」
「OK、そういう熱っぽさじゃない」
流石、神の霊験あらたかな初心者の街の、その管理者。一筋縄じゃいかないな。
「名前はあるし書けるよ。俺の名はB-T。いや、変な母性だすのやめてくれ。名付けられたものじゃない。自分で決めた名前だ」
由来はなんだったか。
何しろ生まれによって毎回名前が違うし、同じ時代を繰り返すから知り合いもダブっていくしで、呼び名を統一しないと混乱するからな。
「名前はB-T。職業は《悪漢》」
《盗賊》系統の最上位職。《戦士》系と同様の装備ができ、盗賊系上位職《忍者》系の様に特定の装備にクリティカルの補正が付く。自ら魔法は覚えないが、一度見るか喰らうかした技・魔法のデッドコピー版をストックしておくことができる。解錠や盗みは盗賊以上の補正。万能な職業だ。レベルが上がるほど手がつけられなくなってくる。
ただし、レベルアップは異常に遅い。
それに、多くの少年少女は村の大人になる通過儀礼として、この富国強兵の契約を受け止めている。近場同郷の者と団結して、自村に戻るまでがゴールなので、悪漢は将来性がありますよダンジョンで大活躍、と謳っても誰も欲しがらない。
そもそも、純朴な農村の少年が多いこの街ではパーティー組めるほど悪属性がいないが。
まあ、やりようはある。それなりに楽しむさ。
「悪漢だな。登録した。隣で装備を受け取れ。無いと思うが、最近は間違った教えを信じる者もいる。宿に居づらい事があったら私の家に来なさい」
「もっと情熱的にお家に誘ってくれる日を心よりお待ちしてマース」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます