幻現話々

takenoko3

第1話 夜風吹ク

 フロム、金星が瞬く紫空の奥。月はまだ眠っている。やけに眩しいヘッドライトを照らして、鉄の箱が風を切る。揺らいだ空気に、整えていた前髪が遊ばれる。


 私は少しアンノイイングして、伸ばした爪を櫛に、黒線をなぞった。鉄の箱は、鈍い灰色から徐々に黒い影々を映し出すようになって、蛍光灯の尖った光は線から面になった。

 

 頬を刺す凍てついた空気に私の吐く息は踊る。溜息みたいなプシューと気の抜ける音がして、黒い影を吐いた。私はホーム端の冷えた鉄柵に寄りかかって、掠めた微風に身震いした。


 私のボブを後ろから攫っていく風と同じ視線で、影の列を見送った。音の出てないイヤーホンを片方だけ耳にかけた。ダボい紺色パーカーのフードを被った。私は吞み込まれ始めた他の影と四分の三拍子ずらして、鉄に食われた。


 ぶっきらぼうにドアが閉まりました。駆動音クウィィン。


 合わせ鏡みたい、吊り輪が揺れる。私は乱すのが嫌で、鉄のポールに片腕を巻いて、前ポケットに手を突っ込んだ。横を向いた私を見返す硝子の奥で、外が流れ始めた。

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