第3話


僕が要望した内容は概ね通った。


「残留する代理総督直轄の戦力はドロイドの2個中隊。宇宙軍からはこの司令艦、それと駆逐艦と工作艦を1隻ずつ、艦載攻撃機3機、連絡艇を5機を置いていく。乗員はドロイドを何体かと、メンテナンスの要員を3名。あとは先程言った副官と副官補だ。以上総勢250名程度をロンディアナ防衛軍とするが、人員が足らなければ君の裁量で現地採用も可能だ。落ち着いたら検討してみてくれ。司令艦は惑星施設が整うまでは宇宙港がわりに使うことになるだろう」


「ドロイド以外の人間は私を含め6名ということですか?」


「いや、あと一人、政治将校の少尉が防衛軍とは別に駐在することになっている。彼は君がヘマを起こさないかの目付け役だ。気に触るかもしれないが協力してやってくれると助かる。彼の元にもドロイドが1個小隊がつくことになっている。

本来であれば、もう少し人員を割きたいところだが、先程言ったように軍の予算は大幅に削られるからな。それにせっかく戦争が終わり、このような辺境の惑星に残りたいと考える者も少ない。だが、代わりに装備の面では優先的に使えそうな物をまわす。君には申し訳ないが、何とかこの人員で運営をしてもらいたい」


「分かりました。極力戦闘が起こらないようにします」


「すまんな。

ではこんなところか。少ないが情報はこれにまとめてあるので目を通してくれ。

司令官、他に何かありますか?」


司令官は

「いや、特にないが一言だけ。ああ、その前に。ヤニス、階級章を」


そう言われ、准将は人類同盟のマークが入った小箱を取り出した。司令官はそれを受け取り、小箱を開けて僕の前に差し出した。僕は中尉の階級章を襟から外し、そこに差し出された少佐の階級章を取り付けた。


付け終わるとあらためて司令官と向き合い背筋を伸ばした。

司令官は僕の準備が整ったことに頷き、口を開いた。

「統治機構が、精神生命体に代わり我々人類に戻った直後ということで、今はまだ地上の各勢力は様子見の状態であり、大規模な動乱にはまだ発展してはいない。だが、このまま放置していたら情勢が変わる可能性がある。

マイヤー代理総督にはこれらの人々をロンディアナ人としてまとめ上げて、人類同盟に参画させることができるような足掛かりをつくってもらきたい。この惑星の人々が人類同盟に受け入れられるか、否かは、君の手腕にかかっている。期待している。マイヤー代理総督」



司令官達を見送るために一緒に発着ベイまできた僕は、連絡艇に乗り艦を去る他の同僚達とも別れの挨拶を済ませた。

その後再び司令官執務室に戻ってきて、入口で警備についているドロイドの横を通り部屋に入った。

今まで司令官が使っていたシートを倒して半ば横になって座り、天井を見ながら考え事をしていた。執務室は遮音が効いているからなのか、それとも単に残された孤独感からなのか、非常に静かに感じた。これから250名ばかりで一つの惑星を運営していかなくてはならない。今までただの中尉であった僕が、果たしてうまくやっていけるのかという不安がどうしても離れない。先程は冒険心をくすぐられ、残るという判断の後押しになったが、このように一人でいると、それも未知への恐怖というものに置き換わりつつある。

傍にあるスクリーンを見ると、画面いっぱいに、これから僕が赴く惑星J-12リベルタが映しだされている。そこに司令艦から発艦したばかりの連絡艇が横切り、近隣の星系の基地へと帰還する僚艦に向かっていく。連絡艇がどんどん速度を上げて小さくなっていくのを見ると更に不安が押し寄せてくる。やはり先程の連絡艇に乗っておけば良かったと思う僕と、人類の代表としてこの惑星を治めなくてはと思う二人の自分が頭の中にいる。

そんなことを考えていたら、急に部屋の呼び音が鳴った。

今まで見ていたスクリーンの片隅には、副官のコレイド大尉と副官補のヴァラスティン少尉とある。


「どうぞ」

通信機に向かって、そう声をかけた。

『失礼いたします』

一拍おいて2人の士官が入室してきた。


「マイヤー代理総督閣下、お初にお目にかかります。これより閣下の副官を務めさせていただきます、コレイド大尉であります」

「副官補のヴァラスティン少尉であります」

そう名乗って直立の姿勢で敬礼をした2人に


「マイヤーそ、代理総督です」

すらっと述べた彼女達と比べると、言い慣れない肩書に若干つまりながら返してしまった。

コレイド大尉は見た目は僕より何歳か年上に見え、先程副司令官より簡単に説明があったが軍歴も彼女の方が自分より長いようだ。

ヴァラスティン少尉の風貌は軍服を多少着崩し、いかにもベテランの古参兵のように見えるが、その温厚そうな彼の顔は好印象を覚える。


「この度は代理総督へのご昇進おめでとうございます。我々も閣下の統治を微力ながらサポートさせていただきまので、よろしくお願いいたします」


「よろしく頼みます。コレイド大尉、ヴァラスティン少尉。楽にしてくれて構わないですよ。私はこの代理総督を先程拝命したばかりで、元は中尉です。堅苦しいのは苦手なので。対外的にはそうもいかないでしょうがが、内輪の話ではあまり畏まらなくていいです。

拝命したばかりと言いましたが、まだ資料すらほとんど目を通しておらず何も分かっていない状態なのです。あなた方も同じであれば、できれば資料を読み解き共有しながら一度ブリーフィングを行いたいのですが」


「そうですか。ですが、我々は昨日通達がありまして、多少は先んじて目を通しております。本来であれば十分にブリーフィングを行い、地上へと降りたいところですが、先遣部隊が地上で接触したあるコミュニティから、早急に閣下にお目通りをとの要請がきております。その部隊からの情報によりますと、別の種族との摩擦が大きくなり、近く戦闘になりそうだとのことです」


「それならば急ぎ連絡艇で降下しましょう。ブリーフィングは移動中にでも行い‥‥」


「お待ちください。閣下。」

ヴァラスティン少尉が意見を述べた。


「何だい、少尉?」


「失礼ながら具申いたします。このロンディアナには、マイヤー代理総督麾下5名の士官と政治将校のキュレロ少尉が配属されています」


5名?2名は中隊を率いるドロイドの少尉達だろう。ではもう1人士官がいるのか。そういえば准将が5名のメンテナンス要員が残ると言っていたな。その中のうち1人が士官か。


ヴァラスティン少尉は続けて

「3名の士官が一度に降下するのは保安上と今後の指揮の面から危険です。現在惑星の情勢は不安定です。万が一、降下中、または現地住民への交渉時などに攻撃があり、我々3名が突然消えれば、残る士官は、代表権限を持たないドロイドの2名の少尉と、政治部のキュレロ少尉、技術部のサラトナ中尉のみとなります。そうなれば惑星運営に重大な支障をきたすことになるでしょう。

ここはコレイド大尉と私とで、そのコミュニティに接触してまいりますので、閣下は安全が確認された後、地上に降りられてはいかがでしょうか?」


確かにそうだな。指揮権の空白が起こることは避けた方がいい。もし我々に何かあり、再び新たな士官をどこかから引っぱってくるにして、近隣の星系から急いでも2週間はかかる。サラトナ中尉やキュレロ少尉が優秀だったとしても、その間の運営に支障がでるのは明白だろう。まぁ、自分も決まったばかりで、この惑星でまだ何の役割も果たしていないのだから、うまくできるかどうかは比べようがないが。

そうだとしても、一度に多くのものが消え失せるような危ない橋は渡らない方がいい。


少尉に対して頷き

「少尉の意見はもっともだ」

その後2人を見やり

「しかしながら交渉ともなれば、やはり代理総督である私が出向くべきでしょう。

なのでこういうことに。先に第一陣で降下するのは私とコレイド大尉で、ヴァラスティン少尉はその後の第二陣で降りてもらうことにしましょう。少尉にはその間、今後必要となる拠点の候補地選定と我々が地上から送る情報を元に警備防衛計画を立ててもらいたい」

まだ防衛上のことに関しては何の計画もたてていない。個人の戦力で言えばコレイド大尉よりヴァラスティン少尉の方が心強そうではあるが、少尉1人の戦力が強化されたところでたいして意味はない。それより少尉には警備の効率を上げてもらった方が良さそうだ。


「ひとまずの警備であればドロイドがいれば問題ないと思う。長距離からの攻撃であれば衛星軌道上にいるこの艦と駆逐艦とで対応できるだろうし、隠蔽された爆破物や伏兵は我々のスキャナーならば、たいがいの物は見つけることができる」


僕の言葉に少尉は

「分かりました。確かに報告によれば、この惑星の文明レベルは我々よりはるかに下回ります。しかしここは元は敵地です。放棄された武器を利用している勢力もいるかもしれません。それに不確定な情報ですが、現地人から未知のエネルギーが観測されたとの報告もあります。何が起こるか分かりません。十分にお気をつけください」


「分かった。気をつけるよ。少尉もよろしく頼む。では大尉行きましょうか」


「はっ。連絡艇はすでに発艦準備が整っております。このまま向かわれますか?」


「ちょっと自室に行って簡単に荷物をとってきます。先にベイへ行っていてください。5分ほどで私も行きますので」


「分かりました」


司令官執務室から出ると、扉の横で歩哨に立っていたドロイドがついてきた。

居住区画に近づくと通路上には故郷へと帰る兵士達がチラホラ見え、自分の荷物が入ったバッグを持っている。彼らは新しくなった僕の階級章を見ると、道を開けて敬礼してきた。顔見知りの何人かは、新天地での任務にエールを送ってくれた。

部屋に着くとドロイドは入口の外側で待ち、中に入った僕は簡単に私信を送ることにした。

カメラに向かって

「やあ。戦争は終わったんだけど、辞令で、ある星系の運営を任されたんだ。これから惑星に降りるところで、帰るのはまだしばらく後になりそうだ。

まぁ、それなりに危険もあるかもしれないけど、ワクワクもしている。戦争は終わったんだし多分大丈夫だよ。

そっちはどうだ?生活費は足りているか?まだ貰ってないが、給料は今までよりも貰えそうだ。だから前欲しいと言っていた、家事ドロイドを買うといい。ただトロア社製のヤツはダメだ。軍のものにもたまに部品が使われてるが、すぐ壊れるし、回路が理屈っぽくて時間がかかって遅い。ああ、ここは検閲で消されるかもな。

こっちの連絡先を添付しておく。検閲を通ったら近況を送ってくれ。

ドームシティの生活は息が詰まるだろう?もし、今いるところの安全が確認されたら一度招待できたらと思ってもいる。それじゃあな」


撮り終わると超時空通信の便にのせた。あとは部屋に置いてある荷物で貴重品だけを持ち部屋の外へと出た。

扉の横で待機しているドロイドに

「伍長、部屋の中にある私の荷物はまとめて、今後降下する第二陣以降の連絡艇で送ってくれ。あと棚に飾ってある、サクラ水晶だけは割らないように丁寧にな」


「了解イタシマシタ」

ドロイドにそう言って居住区画を出ようとしたが、もうあまり時間がない。通常時は推奨されていないがシューターを使おう。

僕は急ぎ居住区画の一画に配置されているシューターのカプセルに身をもぐらせた。起動しますと簡潔にアナウンスがあり急激な加速を感じた。少し身を崩しそうになったが、シューターは最短でベイまで運んでくれ、20秒とかからずに着いた。

シューターの出口は連絡艇が待機している近くで、コレイド大尉が搭乗口で待っていた。


「お待たせしました。では行きましょうか」


「はっ」


搭乗口をくぐり、連絡艇の席に着いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

総督の執務室は各種族で混み合っています @shingo555555

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ