第6話 最後のデート

「見えるか?」


「うん。とても綺麗な星空だね。名前とかは分からないけど……」


 俺たちは、ベンチに座って、星空を眺める。


「俺も一緒だ。でも、綺麗なことだけはわかる」


「私ね。夜に星を見ながら、告白されるのが夢だったんだ」


「……」


「やってくれないの?」


「ちょっと待って。覚悟決めるから」


「待ってあげる」


「俺は、あなたのことが、す……好きです」


「ありがとう。気持ちだけ受け取っとくね」


「なんだよ。勇気振り絞って言ったのに」


「ごめん。ごめん」


 來菜は、俺の頭を撫でた。


「これさ、私が亡くなった後に読んで欲しいの」


 彼女は俺に一通の手紙を渡した。


「本当は、これね、家で書いてたんだけど間に合わなくて、屋上に行く前にも書いてたんだ。でも私ドジだから、教室に忘れちゃって……菊音が届けてくれたんだよ」


 笑いながら、來菜はそう言った。


 あの時、赤井さんが渡していたのは、これだったのか。


 遅れた理由も、昼ごはんを食べていたからじゃなかったんだな……


「分かった。読むよ」


 俺は、ポケットにその手紙を入れた。


 ※※※※※※※※


「ねぇ。もう少し、早く仲直りしてたら、私と哲也君は恋仲になってたかな」


「な……なってたと思うよ」


「きょうは、哲也君の一日彼女になった気分だった」


 嬉しそうに、話す來菜。


「俺だって……」


 今日一日を思い出して、話そうとしたが、声が出せなかった。なぜなら、俺は泣いていたからだ。


「大丈夫?」


「ごめん……泣きたいのは來菜の方だよな...」


 俺が下を向いて、話していると、來菜は、俺にハグをしてきた。


「ら……來菜」


「哲也くん……私のために、泣いてくれてありがとう。こんなに私のことを考えてくれる素敵な幼馴染は、あなただけだよ」


「……」


 俺たちは、何も言わずただ抱きしめあった。



「ねぇ。哲也くん。最後のお願い聞いてくれる?」


「当たり前だ」


「私にキスして」


「ちょっと待って。涙拭くから」


「それは、私だっておなじだよ」


 2人で目を合わせて、笑いあう。


「準備は出来た?」


「あぁ。するぞ」


 俺は恥ずかしがりながも、目をつぶって來菜と唇を重ねた。


 あれから何秒キスをしていたか分からない。來菜の肩に手を置いて、ゆっくりと離れると、ある違和感に気づいた。


 彼女は目をつぶったまま動いていなかったのだ。


「……來菜?」


 肩を揺すっても、反応がない。


 手や、足がとても冷たかった。


「おい……まだ今日は終わってないのに...なんでだ! おかしいだろ!」


 もう彼女は、息をしていなかった。


 生涯生きる上で、俺はこのキスを忘れることはないだろう。


 こんなにキスが悲しいものなんて、思ってもいなかったのだから。


 來菜が亡くなった時間は11時35分。


 明日を迎えるまであと25分だった。


 神様……!それくらいの時間だけなら、生かしてくれよ。


 まだもっと話したいことがあったんだ。


 告白の返事だって……


 なんで、なんで、なんで……


 頭を抑えていると、ポケットから、來菜に貰った紙が落ちた。


 俺は、心を落ち着かせて、來菜から貰った手紙を読み始める。


「哲也くんへ。多分、恥ずかしくて、言えないこともあるので、手紙に私の気持ちを込めました。


 私は、あなたと出会って、いつの間にか恋をしていました。


 哲也くんの好きなところは沢山あります。


 困った時に助けてくれる顔が好き。


 時々見せる恥ずかしそうな顔が好き。


 純粋無垢な笑顔が好き。


 朝の眠たそうに、あくびをしている顔が好き。


 昼に、ご飯のことを考えてる顔が好き。


 友達と楽しそうに話している顔も好き。


 私は、そんな哲也くんのことが大好きです。


 これからも、哲也くんを空から見守っているからね。


 後悔しない人生をすごしてください。


 私の思いは手紙で届いたかな。だったらいいな。來菜より」


 俺は、手紙を読んで涙が止まらなかった。


「ちゃんと、届いたよ。俺、これからの人生を楽しむからさ。見ていてくれよ」


 俺は涙を拭いて、手紙を大切に折りたたみ、ポケットの中に入れた。



 ※※※※※※※※


 あれから、数日が経ち、俺は英語の授業を受けている。


「それじゃあ、この問題の英訳わかるやつはいるか?」


 その問題に俺は、思い切って手を挙げた。


 そして先生に当てられる。


「はい。''Tomorrow Never Knows'' 意味は、明日のことは分からない。だからこそ、後悔しないために、今日を思いっきり楽しむんです」


 俺……飾哲也は、死ぬまでに、後悔を残さない人生にすると心に誓って、そう答えた。


「そうだろ? 來菜」


 本作「俺の幼馴染である神楽來菜は明日を知らない」を最後まで読んでいただきありがとうございました。


 番外編として、2話程考えておりますので、また読んでいただけると幸いです。




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