第5話 公園デート

 買い物やゲームセンターを終え、時刻は7時頃。俺たちは夜食をとった。


 このことはまた後で語るとして、美味しそうにハンバーグを食べる來菜がただただ可愛かったことだけ伝えておく。


 ※※※※※※※※


「次は何がしたい?」


 ご飯を食べ、レストランを出たあと、少し落ち着いてから、俺は來菜に尋ねた。


「私と哲也くんが初めて遊んだ公園に行きたい」


「それって……皆笑公園かいしょうこうえんか?」


「うん。そうだよ。覚えててくれたんだ」


「当たり前だろ。俺の思い出の場所でも……ってなんでもない」


 勝手に口から出た時にはもう遅かった。恐る恐る横を見てみると來菜はニヤニヤしている。


「ふふ。思い出の場所か」


「……早く行くぞ」


 照れくさくなって、俺は歩き出した。


「ちょっと待って」


 そんな俺に來菜は、手を掴んで呼び止めた。


「どうした?」


「……手は繋いでくれないの?」


「……分かった」


 俺は緊張しながらも來菜の手を握った。


 その時、ボソッとありがとうと言った彼女の手は、少し冷たい気がした。


 その公園とは、今の場所から、バスで30分程度のところにある。


 電車を使うよりも、バスの方が近いそうだ。


 現時刻は8時なので、30分頃には着くだろう。


「皆笑公園」の由来としては、名前の通りみんなが笑う公園になってほしいと、誰かが名付けたそうだ。それ以上のことは詳しく知らない。


 ※※※※※※※※


「うわぁ。懐かしい」


「ほんとに何も変わってないな」


 公園にあるのは、滑り台に、ブランコ、ベンチといったいわゆる普通の公園だ。


「あの時、確か休日で、俺は親戚の家に行ってたんだよ。それで、何もすることがないから、この公園に来たんだ」


 俺はあの時のことを思い出しながら、呟いた。


「私も似たようなもんだよ。まさか、この公園に来たら、哲也くんがいるなんて思わなかった」


「奇跡だよな」


「神様が、私たちを会わせてくれたんだ」


「そうかもな。実際に、あれから俺たちは仲良くなった」


 思い出話に俺たちはくすくすと笑う。


「ブランコ乗りに行こうよ」


「あぁ。そうだな」


 俺たちは、ブランコに近づき、乗った。


「あの頃、私ブランコ乗れなかったから、上手くなるために、いっぱい練習手伝ってもらったよね」


 乗ってから、すぐに來菜は思い出話を続けた。


「そういえばそんなこともあったな。近場に公園はあるのに、わざわざここまで来てな」


「小さい遠足みたいで楽しかったよね」


「そうだな」


 俺たちはきっと、2人だけの秘密の場所だと勘違いしてたんだ。子供じみた考えだな。


「それでさ、練習手伝ってもらった話に戻るんだけど、哲也くんがお手本見せてやるって言って、ブランコに乗ろうとしたら、足くじいて、盛大に転けてたよね」


「なんで、そんなこと覚えてんだよっ! てか、話戻すな!」


 口を押さえて、來菜は笑う。


 そして彼女は、でも、と続けた。


「ずっと、私が上手くなるまで、付き合ってくれた。どうやったら、上手くなるのかとかもさ。調べてくれてアドバイスもしてくれた」


「よく覚えてるな」


「そりゃあ、覚えてるよ。哲也くんとの思い出だもん。だから、中学の時から話せなくなったの悲しかったんだ」


「ご、ごめん」


「うぅん。私から話しに行けばよかったんだよ。でも、変に嫌われてるって思っちゃってできなかった」


「それでも俺が……」


「そんな時にね。私がこんな病気になっちゃって....。もう会えなくなるって思ってからは、ちょっとだけ勇気が湧いたんだ」


 俺の言葉を遮って、來菜は、続ける。


「元々、菊音に、相談してたんだ。どうにか哲也くんと話せないかなって。それで、ようやく悠大くんが、協力してくれるって話になってね。その作戦を決行する日が、まさか病気が発症した日と被っちゃうなんて、本当に運が悪いよね」


「……」


「もし、この作戦がだめだったら、今度は、私から、話しかけに行こうと思ってたの」


「そうだったのか」


 恐らくだが、悠大は、俺がいつか話すと思っていたから、気長に待っていてくれたんだ。だから、頑なに、協力するのをやめていたのかもしれない。


 俺がもう少し早く決断できていれば...。


「なんだか、体が寒くなってきた……」


 急に、來菜は、体を震え始めた。今の時間は、10時半頃。確かに、寒いが、彼女が異常なのは、見てすぐわかる。


「大丈夫か……?」


「さっきからね。軽く目にもやがかかって、見づらくなってるんだ。もう死んじゃうのかな。私」


「何言ってるんだ……まだ……」


 さっき俺は、何を言おうとした?


 まだ大丈夫って?なんでそんなことが言えるんだ。辛いのは、苦しいのは彼女なのに……


「あぁ。死ぬの、嫌だなぁ」


 來菜は、今にも泣き出しそうな表情で告げた。


「なぁ……來菜。次は、何がしたい?」


 次の場所で、最後かもしれない。


 精一杯の笑顔で俺は、そう尋ねた。


「あるよ。哲也くんと星を見に行きたい」


 すると、來菜はそう言って、公園にあるベンチを指さした。



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