第4話 お買い物デート

 携帯で地図を見ると、水族館から歩いて10分くらいの所に、とても大きいショッピングモールがあることが分かったので、向かった。


「ここに来るのは、初めてだ」


 俺は頭上にある高い建物を見る。


「私も初めてだよ。こんな所にあったんだ」


「どこ行こうか」


「まずは、服屋さんに行きたい!」


 調子を取り戻した來菜は、いつの間にか離れていた俺の手を繋ぎ直して、服屋へと向かった。


「どうかな?」


「いいんじゃないか?」


 俺たちは、服屋の試着室に来ていた。


 いま、來菜が来ている服は、トップスが赤色のセーターに、ボトムスが、グレーのワイドパンツ。それから、白色のマリンキャップをかぶっている。


「もっとなにかないのかな?」


「とても可愛いです。はい」


「ふふ。よろしい。よろしい」


 來菜は大変ご満悦なようだ。


 そこから、彼女は、何着か着替えて、俺に感想を求めてくる。


 なんだか、來菜が着替えてる時間ソワソワしてくる。どれもこれもとてつもなく可愛い。


 全てが似合っている。しかし、脳裏でもっと、違う感想を伝えるべきだと訴えてくるが、頭の中にはかわいいしか思い浮かばない。


「はぁ、満足したかな」


「楽しかったか?」


「うん。カーテンを開けた時に、最初に見える哲也くんの恥ずかしそうな顔が堪らなくて、何着も試着しちゃった……」


「……やめてくれ」


「あと、正直に可愛いって言われるのは、嬉しいんだよ」


「そ、そうか」


「次は哲也くんの番ね。そこにいて」


 そう言って、來菜は、試着室を離れて、服を選び出した。


 それから20分後、彼女は2着上下の服を持って戻ってきた。


 まずは、1着目。


 トップスが、白のTシャツ。ボトムスが青の短パン。麦わら帽子をかぶっている俺がいた。


「虫取り小僧じゃねぇか」


「ふふふ。子どもに戻れた?」


「ネタで選んだだろ。俺を着せ替え人形にするな」


「でも、似合ってるよ」


「う、うるせー。まぁ……ありがとう」


 俺を見て嬉しそうにする來菜。まぁ笑ってくれるなら、それでいいんだが。


 2着目。


「似合ってるね。めっちゃいいと思う」


 トップスにブラウンのニット、ボトムスに黒スキニー。


 俺が鏡で見ても、オシャレなものに見えた。


「普段、服なんて適当にしか選ばないからな。こんだけで色々変わるんだな」


 今着てる服は、セールもあって、上下セットで4000円ほど。高校生にしては、少し高いが買えないことはない。


「さっきのペンダントのお返し。私が買ってあげる」


「いや……俺が払うよ」


「ううん。払わして。私が買ってあげたいんだ」


 そこまで言われたら、止めようがなかった。


「はい! 大切に使ってね」


 服屋を出たあと、彼女は俺に服が入った袋を手渡した。


「ありがとう」


「いいんだよ。次はゲームセンターに行こう!」


 ※※※※※※


「あ、エアホッケーある! 勝負しよ!」


 來菜は、UFOキャッチャーに目をくれず、エアホッケーのところまで小走りした。


「あんまり、走るなよ。危ないぞ」


 お金を入れて、戦うモーションに入る。


「負けた……」


 悔しそうに呟く來菜。


 一回目は俺の勝ちだ。


「何とか勝てた」


「哲也くんって、こういうゲームはほんとに強いよね」


「体鍛えてるからな」


「中学から部活しなかったのに、よく言うよ」


 あの頃は、何もかもが嫌になって、部活なんてする気もなかった。それがズルズルいって今に至る。というか、なぜ知っているんだろうか。


 運動神経のいい來菜だが、昔からこういったゲームは苦手らしい。でも……負けん気は彼女の強みだ。


「もう一回!」


 そう言う來菜から、次は勝つという雰囲気が感じとれる。


「いいぞ。やろうか」


 2回目は俺の勝ちだったが、3回目になると、俺はさっきと違い、追い詰められていた。


「え、強くなりすぎ……」


 彼女の成長速度が凄まじい。さっきとは打って変わってとてつもなく上手くなっている。


 ただ、俺だって勝負事には負けたくない。


「私ね……元々運動神経良くないの知ってるでしょ? でも、小学生の時、哲也くんが、周りの人を観察して真似をし続けたら上手くなるって言ってくれたから今の私がいるんだよ」


「俺、そんなこと言ったのか」


 そして、來菜は、ニコッと笑って、笑窪を作って、こう言った。


「ありがとうね」


 それは、反則だ。


 俺は來菜に、見入ってしまった。


「スキありっ!」


「負けた……」


「やったっ!!!!!」


 悔しかったが、喜ぶ來菜が可愛かったので、良しとしよう。


「てか、なんで俺が中学から部活してないって知ってるんだ?」


「……秘密! 次はプリクラにいこ!」


「あ、あぁ」


 気になったが、プリクラの方向に俺は足を進めた。


「プリクラ初めてなんだけど……」


「私も、実は、初めてなんだ……」


「そ、そうなんだ。てっきり、あると思ってた」


「う……うん。誘われることはあったんだけど、あんまり、私写真撮られるの好きじゃなくて、断ってたんだ」


 來菜は、にへらと笑って、でもねと続けた。


「哲也くんとは、いつか取りたいと思ってたんだ」


 こっちを上目遣いでみる來菜。さっきから、可愛すぎやしないだろうか。


「……やめて。照れるから」


「ふふ。じゃあ撮ろう」


 俺たちは、お金を払ったあと、中に入り音声に従って、操作をしていく。


 そして、カメラから、カウントダウンが3、2と進んで1に差し掛かった時、來菜は、俺にバックハグをしてきた。


「おい。來菜……何やって」


「ずっとこうしたかったんだ。ダメかな?」


 後ろからそうつぶやく來菜。やばい。心臓のバクバク音が聞こえていないだろうか。


「……ダメじゃない」


「ありがとう。ねぇ。哲也くん」


「な、なんだ?」


「私のために、頑張ってくれてありがとう」


 涙声の來菜に後ろからそう言われて、さっきの緊張感がほぐれたような気がした。


「いいんだよ。俺がしたかったことだから」


 そう俺は口にした。


 そこから、数枚プリクラの写真を撮って、來菜が軽くデコレーションをした。


「はい。今日がお互いの初めてプリクラ記念だね」


 そう言って、無理に笑顔を作る來菜から、出来上がったプリクラを貰った。


「これも大切にするよ」


「私も……するね」


「……次はどこに」


 そう言おうとした時、俺の腹の虫がなった。


「そういえば、哲也くんお昼パンひとつしか食べてないんだよね。何か食べに行こう」


「そうしようか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る