第3話 水族館デート

 最寄駅に着いて、切符を買い、電車に揺られること約15分。


「思い出したか?」


「ここって……丹羽水族館だよね?」


 目的地は、着いた駅のすぐ近くにあった。


「子どもの頃に、神楽とよく行ってた場所だ」


「昔はよく、家族ぐるみの付き合いで、行ったよね」


「そうだな。懐かしい」


 売店でチケットを買い、館内に入った。


「みてみて。クジラがいるよ」


 神楽が、泳いでるクジラに指を指す。


「デカイな。乗れそうだ」


 俺は精一杯思いついたジョークを口に出した。


「ふふっ。昔もよく言ってたよね。俺はクジラに乗って、海を冒険するんだって」


「む、昔のことだろ。忘れてくれ」


 俺は昔、そんな痛いキャラだったのか。今とは大違いだ。


 それからしばらく歩いていると、ペンギンのゾーンに着いた。


 なら、今度は俺が仕返しをしてやろう。


「神楽だって、昔はペンギンが空を飛ぶと思ってたもんな」


「そ、それは哲也くんが、私に自慢げに言ってきたからでしょ! あのせいで、友達に言ったら笑われちゃったんだからっ!」


「ははっ。懐かしいな」


「ほんとに懐かしい」


「ねぇ。その神楽って読み方やめて欲しいな。前みたいに來菜って呼んで欲しい」


 もじもじと両手を握って、神楽はそう伝えてきた。


「わ、わかった。かぐ……來菜」


「ありがとう。哲也くん」


 いつぶりかに呼んだ來菜は、心地よい感じがした。


「次はイルカショー見ようよ」


「だな」


 水族館と言えば、俺はイルカショーを挙げる。


 中でも、イルカと飼育員がペアになって、パフォーマンスするのは鳥肌モノだ。


 あと昔は、水しぶきが体にかかるのが好きだった。


「昔さ、覚えてる? 飼育員さんが、イルカとキャッチボールしたい人? って聞いた時に、私もしたかったんだけど、緊張して手をあげられなかったんだ」


「……」


「その時、哲也くんが、聞いたこともない大きな声を出して、手を挙げたんだ。そしたら、幸運にも哲也くんが当てられた。その後何をしたか覚えてる?」


「記憶にないな」


「やりたかったんだろって言って私に譲ってくれたんだ。本当なら哲也くんだってしたいはずなのに。あれは嬉しかったなぁ」


「そんなこともあったな。今の自分とは大違いだ」


 うそだ。鮮明に覚えている。あの時、横を見たら、やりたそうにうじうじしてる來菜がいた。そしたら、自然と行動に出ていた。


「ありがとうね」


「照れるだろ。やめろよ」


 俺は、鼻を触った。


「哲也くんって、嬉しい時、鼻さわってたよね」


「う、うるせー」


 そこから、お互い何も話さず、集中してイルカショーを見続けた。


 集中していると、時間も早く経つもので、最後のクライマックスに差し掛かり、とても高いジャンプを見せて、ショーが幕を下ろした。


「楽しかったね。次はどこ行こうか」


 來菜は、俺にそう聞いてきた。


「お土産見に行こうか」


 俺の返事に、來菜はうれしそうに首を縦に振った。


「うわぁ。可愛いね。これ」


 見せてきたのは、イルカのぬいぐるみ。


「確かに、可愛いな」


 そんな風に來菜と気になったものを見せあって、見回していると、俺の視線にひとつのペンダントが入った。


「私、ちょっとトイレ行ってくるね」


 偶然にも神楽が抜けるタイミングと合ったので、彼女がトイレに行っている間に、ペンダントを見に行った。


「高いなっ……こんなにするのか」


 値段を見て、驚愕した。8500円。俺の財布事情じゃ買ってあげることが出来ない。


 來菜のために、なにかしてあげられることはないかと考えていたが、これは厳しい。


 しかし、その時、悠大に貰った封筒のことを思い出した。


 ポケットからその封筒を取り出して中身を見てみると、1枚の紙と、1万円札が1枚入っていた。


「あいつ……良い奴すぎるだろ」


 紙には、「どうせなら、この金で神楽さんに何か奢ってやれよ」と書いてあった。


 悠大に、後で返す。本当にありがとうと、心に感謝の言葉を告げて、ペンダントを手に持って、レジへと向かった。


「ごめん。待った? ちょっと混んでて...」


 來菜は、ハンカチを手に持って、俺の前に現れた。


 今しかないだろう。


「これ……」


 俺は、お洒落な袋を來菜に手渡した。


「何これ?」


「開けて見たらわかる」


 開けると中には、イルカのペンダントが入っていた。


「うわぁ、可愛い……でもどうして?」


「似合うと思って買ったんだ。どうかな?」


「ありがとう。付けてみるね」


「あぁ」


「あんまり、ペンダントなんて付けないから難しいなぁ。こういう時、男の子が付けてくれるんじゃないのかな?」


「わ、分かった。俺が付けるよ」


 來菜は、俺の方に向いて、にやにやしながら、そう促した。


 付けている時、首筋がきれいだなと思った。


 やばい...。あまりにも見ていると、恥ずか死にそうになって集中できないので、目線に入れないように努めた。


「で、できた」


「うわ。かわいい。ありがとう。大切にするね」


 神楽は、頬を緩ませ、嬉しそうに口にする。


「でも、今日の残りの時間しか付けられないんだよね」


 彼女は、病気のことを思い出したのか、先程と、打って変わって暗い声で言葉を吐いた。


「次はどこに行こうか」


 つらそうな彼女が見に耐えなかったので、話を変えた。


「次は、お買い物に行きたいかな」


 時刻を時計で確認すると、昼の3時半。


 俺たちは次の目的地へと向かう。

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