第6話 「虹の架け橋」

 

 僕とミーシャは教会から離れると、森をぬけた先にあるソーサーズランドという街へと向かった。              

 そこは普段、僕が暮らしている街でもあった。


 ここからソーサーズランドまでの距離はそこまで離れていないけど、街に行く道のりの間には険しい崖があって、そのせいで僕達は大きく迂回した道を通る必要があった。


 教会のあった森は湿気を多く含んだ黒ずんだ土の森という事から、そのまま黒い森と呼ばれていた。

 そして崖下には、砂と岩だらけの乾いた世界――ケンブロック地帯が広がっている。


 ケンブロック地帯には水や食料も少なく環境も厳しいものだったが、それでも人々は崖の上の森に移住しようとは思わなかった。なぜなら森には霊力テレスの影響で獰猛化した獣や魔物が生息してたからだ。



 僕達はソーサーズランドのあるケンブロック地域に降りるために、迂回路である断崖にある坂道を進んでいるところだった。

 ミーシャはあまり歩くことに慣れていない様でときどき辛そうにしていたが、がんばって僕の後をついてきていた。


 しかし長い距離を歩いて退屈になったのかもしれない。彼女は僕に話しかけてきた。


「ねぇ、レイン 前にさ、霊力テレスが使えないって言ってたのって本当に本当?」


「あ   ……ああ」


 僕はしまったと思って、なるべく素っ気なく答えた。

 歩みは止めずにミーシャの先をさっきと変わらず進む。


「けどそんなことってあるの? わたし初めて聞いたよ」


「……」


 この事にはあまり触れてほしくなかった。あの時は戦いの最中だったとはいえ話すんじゃなかったな、と僕は後悔した。


「ねぇ、なんで? なんでなんで?」


「…………」


「なんでなんでなんでなんでなんっ……」


 うーん、しつこいなぁ……


「あああ!!! あっちの空に未確認飛行物体がッ!!! 」


「えー!!! どこどこ!?」


 僕は咄嗟に適当な事を言ってミーシャの追及を逃れようとした。

 しかし今のは本当にあてもなく言った嘘だった。嘘だとばれればまた彼女は同じことを聞いてくるだろうな…… しかし


「あ! あれの事?」


「ウ、噓だろ?」


 僕が指さした方角は偶然にもある物の方向を示していた。そこには大きな岩山が円形に密集していた。その側には光輝く黒い巨塔が立っていた。

 

 あの周辺は、目指すべきソーサーズランドの街がある場所だ


「なんだ違うよ。あれはソーサーズランドのモノリスだ」


「へぇー…… あれがモノリスなんだ」


「?初めて見るのか」


「?うん」


 王都にだってあれよりでっかいのがあったはずだけど。なぜならモノリスがある場所じゃないと街は作られないのだから。


「モノリスていうのは大量のテレスを吐き出す性質を持つ、自然に存在する零具ギアなんだよ」


「なるほどー」


 モノリスは古くから存在していて謎も多い零具ギアの一つだ。


「けどさぁ、モノリスは見えるけど、街なんてどこにも見えないよ? あっちの方には大きな岩があるだけじゃない」


「まあ、行けばわかるよ」


 というか実際に近くで見ないと分からないだろうな。僕の住むソーサーズランドは普通の街とは違うのだから。


「ふぅん。じゃ、早くいこ!」


 そう言うとミーシャは胸元から銀のネックレスをとりだした。それは彼女が王都から教会までテレポートする際に使った零械具ギアボックスだった。

 使用者のテレスの資質に関係なく誰でもギアが使え、小型でとても貴重な品だ。


「……そのテレポーター。座標が固定されてて、使えないんじゃなかったのか?」


「うん けど目に見える場所ぐらいの距離なら問題なく飛べるの。」


「へー……」


 ここから見えるといっても街まではまだ結構な距離があるように思える。

 ……目的地を目視するだけで飛べるって、やっぱりミーシャの持っているギアはとても凄いギアなのかもしれない。性能が常識はずれなのだ。


「つかまって!」


「へ?  ……う、うわぁっああ!!!」


 彼女が僕の左の腕を急に掴んだ。片方の手で零具ギアのネックレスを、胸の前で強く握っている。

 テレポーターを発動しようとしているのだ。虹色の閃光が彼女の握ったこぶしの中から漏れ始めっていた。


「ちょっ ちょっと待て! 僕も一緒に飛ぶのか?!」


「?? そうだよ。  ……最初は少し酔うかもだけど、 …頑張って!」


 テレポーターの零械具ギアボックスから放たれる光の束は、どんどん広がり続け、ついに虹色の光で周りの景色が見えないほどまで大きくなった。


 その光の中心に僕らはいた。とても明るい光だったが、そんなものの中にいても全く眩しいとは感じなかった。


「いくねっ」


 彼女の言葉を皮切りに、一気に光がミーシャの手の中の銀のネックレスに向かって収束を始めた。


 といっても、実際に光が動いているところが見えたわけじゃない。僕は肌で感じていた。ミーシャの手の中に向かって空気が、いや空間が、もっと言えば世界が収束していくのを。それも感じたことのない凄まじい速さでっ!


 僕の意識は一秒と持たなかっただろう。虹色の空間のなかで僕は気を失った。


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