第4話 「みんなチートがだぁいスキー!」


 戦いが始まる。


 僕と人攫いの男はじりじりとにらみ合い、互いに攻撃の隙をうかがった。


「はぁぁああああッ!!!」


 男は大剣を持つグローブにぐっと力を入れた。すると大剣の根元から赤いオーラのようなものが登っていき、剣に彫られている溝に光が灯った。


 あれは恐らく何かしらの零具ギアの効果が発動したものだろう。

 それがどのような効果なのかはまだ分からないが、大剣にオーラのような光を付与したところから見ても大剣に関係する攻撃を零具ギアで強化するものには間違いなさそうだ。


「その大剣、硬化能力だな?」


 僕は試しに、テキトーに聞いてみた。


 対人戦闘では駆け引き等で相手の情報を引き出すも必要になってくる。

 男は顔を隠していた為、表情などから思考を読み取るのは難しかったが、それでも男の反応などから分かることもあるかも知れなかった。


「残念 ハズレだっ」  


 黒フードの人攫いは、赤いオーラを纏った大剣を思いっきり振りかぶった。

 そして大声で威圧しながら、レインの脳天めがけて大剣を振り下ろす。


「んぁああらぁあっつ 」


「フッ そんな大振りが当たるもんか」


 僕は軽く右側に身を躱した。そしてそのまま刀の刺突攻撃による反撃の構えをとり、刀の切っ先を男の喉元へと向けた。


「くっく あまいわ」


「……何!? 」


 僕は完璧に攻撃を躱していたはずだ。しかし突然、正面の何もない空間からの斬撃が僕を襲った。


 そしてその斬撃にはじかれ僕は教会の壁まで吹っ飛ばれると、その勢いのまま教会の壁をぶち抜き、建物の外まで無残になげ出されてしまった。


「レイン!!!」


 ミーシャが僕の元に駆け寄ってきて心配そうな表情で、刀を持っていない方の左側の手をそっととった。


 ……そっち側はさっき怪我をしてしまったんだから触らないでくれ、と彼女に言う気力すら傷が痛くて起こらなかった。




「どうだ。強ぇえーだろっ レアな零具ギア能力で被造物倍加ダブルっていうんだぜ 要するに剣で作った斬撃のとなりに、まったく同じ斬撃が同時におこせる。 俺はこの力を一、二割程度も引き出せないんだが、それでも初見でこの能力を見切ったやつはいないんだぜ」


 男は嬉々として自分のギアの解説をしながらも、僕にとどめを刺す為、教会の外まで出てきた。

 

 男の足取りからは勝利を確信した者の余裕が見えた。



 ここから何とか反撃にでたいところだったが、僕の刀はさっき男の攻撃をうけたときに刀身が破損してしまっていた。 

 こんな武器ではもう使い物にならない……


 

 誰の目から見ても、僕の今の状況はかなり追い詰められているといえた。


 まさかこんな強力な零具ギア使い手のとは…… 

 うかつだった。せめて左腕が無事なら…… 



 そう思っていたとき、いつの間にか左腕の傷がきれいに無くなっていることに気がついた。


 ずっとミーシャが僕の手を握っていたのだけど、どうやらミーシャが治癒系零具ギアの適性を持っていたらしく、その力で怪我を治してくれたらしいのだ。


 その証拠に、僕に触れている彼女の手から人攫いの男の大剣から出ているものと似たような、淡い光が漏れ出ていた。つまり彼女も零具ギアを発動しているということだった。


 この光は霊力テレスの力を使うと副次的に発生するものだ。そして霊力テレスの量や性質、零具ギアによってもその光り方は変わった。


 ミーシャの手からは今、薄緑色のぼんやりとした輪郭の小さな光の球形が発生していて、それらはひとつずつ天に昇っては消えていった。これは治癒系能力の靈力テレスの特徴的な光り方のひとつだった。


「レイン ほかに怪我してるとこはない?」


「ああ もう大丈夫だよ」


レインは立ち上がると、治った左腕の機能を確認するように、何度かぐるぐると腕の関節をまわしてみせた。


「よかったぁ ……私の、せいだよね。巻き込んでごめんね」


「謝るなよっ 僕だって、一度は見捨てたんだから……  それにこの程度ッ、全然大したことないさ」


「うん……」


 実際はまだ傷は痛かったのだけど、そこは無理をしてみせた。


 そのときミーシャは、僕がもう刀を持っていない事に気がついてしまった。そして足元に折られた刀が雑に捨てられているのを見つけると血の気の引いたハッとした表情になった。

 もうレインには抗う為の武器が無い事を知ったからだ。


「か、勝てるの? レインは強力なギアとか使えるの??」


「……いや、僕は零具ギアを使えないんだ。というか霊力テレス自体使えないから、あと1回でも攻撃を喰らえば、おしまいだよ」


 零具ギアによる攻撃とは霊力テレスで攻撃するということだ。


 この世界の対人戦闘では霊力テレスの攻撃は霊力テレスで防御するというのが定石だったのだが、今僕はある事情で霊力テレスを使えない身体になっていたのだ。



「え? じゃあ逃げた方がいいんじゃ……」


 ミーシャと話している間も僕は入念にストレッチを続けていた。全身の筋肉が熱く熱を放っていた。それはレインに最高のパフォーマンスの為の力をくれる。


「大丈夫。 零具ギアだけが全てじゃないって事を、見せてやるよ」


 レインは丸腰のまま、再びフードの男と向き合った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る