第32話・暗躍

コレウサは倒されると、直ぐに腐食が始まって灰のようになると風に吹かれて消えていった。災難は去ったと思ったが、今ある状況をラクレタス以外は飲み込めない状況にいた。シールディアからしては何故デスボダが持っていた木箱から出てきたのか。安らぎの蛹内に何時アスモの顔が移動したのか。そして何故生きているのか。疑問が多くてどう話し掛ければ良いのか分からないでいると、グレアスが地面を変化させてアスモを拘束した。グレアスは目の前にいるアスモに違和感を覚えた。その違和感は何だろうかと探っていると、ラクレタスによって深手を負っていた鞄龍・ヲゲナが翼で強くアスモの顔を殴った。

「そうか、そういう事か……答えはYesだ」

そう言うとアスモの魔力が急に高まると、拘束は解かれてラクレタスの首元に双剣の剣先を突き付けた。




時は少し遡り、ヤズパは墓地に訪れて得意なバイオリンを弾いていた。バイオリンを弾く度低い呻き声のような声が聞こえるのをヤズパは楽しんでいると、バイオリンは急に破壊されて部品が地面にばら撒くと、ヤズパはため息をついた。

「趣味が良いのか悪いのか分からない人ね」

そう言ったのはヤズパが事前に墓地で待ち合わせをした相手のエリザベがいた。ヤズパは早速今回の悪巧みをエリザベに告げた。


闇の神器の一つ”囚邂葬剣”《しゅうかいそうけん》は闇の力を介して剣内に魔物を封じる事が可能な剣だった。色々と条件があり、剣内には魔物一体のみ封じる事が出来る事。闇の耐性が有る魔物である事。手にする者が魔力に乏しく、可能な限り魔力の扱いが慣れていない事。そんな剣をエリザベにデスボダは手渡した。その剣を使ってシールディア達を倒すとエリザベは思ったが、ヤズパは倒す事が本当の狙いではなく、もう一つの実験を優位に立つ為の一つの過程でしかなかった。ヤズパはエリザベの能力を把握していてその為にエリザベを呼んでいた。


「”死者を蘇生”するのが見てみたいのかしら?」

エリザベの能力は死者を蘇らせる能力であり、また彼女も”神授魔力”の持ち主であり、”ペルセポネ”と呼ばれる能力だった。死者を蘇らす為にはまず蘇らす対象の遺体があるのが最低条件であり、大量の魔物や人間の遺体と血を引き換えに蘇らす事が出来た。そして蘇らす相手はアスモであるとヤズパはエリザベに告げた。しかし、普通に蘇らすのではないとヤズパは笑いを堪えながら言った。




アスモは目を覚ますと、花畑にいて近くからは滝が流れる音が聞こえた。辺りを見渡すと高台に女性がいるのが分かった。ここは何処なのか。そう訪ねようとしたが、見えない障壁にぶつかった。それに反応したのか女性がアスモの方へ振り向いた。

「ここから貴方は出る事はありません」

その意味がアスモには分からなかった。アスモは力づくでもここを出て行こうと考えていると、急に地ならしが発生すると、見た事が無い魔物に咥えられしまって、その状態で女性の近くに投げ飛ばされてしまった。

「貴方は蘇りましたが、あくまで”体だけ”のようです」

どういう意味なのかアスモは聞こうとしたが、二人の目の前にあった池にレフト達の戦っている状況が映し出された。




アスモは蘇ったが、あくまで”中身は違う”事にレフト達は気付いた。レフト、シールディア、サニーンは揃って武器を手に取って、グレアスとデスボダはそれぞれ魔力で武器を生成した。誰が先に仕掛けるかお互いを確認している最中、レフトが先に動いた。レフトの手にしている剣は再び大剣となってアスモ?に向かって振り落としたが、余裕でアスモ?は躱した。

「知り合いに向けて剣を触れるとは良い度胸だな」

アスモ?は魔力を高めると、その魔力は全身を包み込んでアスモの習得している技を放った。


「”狼狩り”《ウルフハント》」

素早い攻撃はレフトの心臓目掛けて剣によって切り刻まれると思ったが、ギリギリの所でグレアスが地面を変化させて縄のようなものを作り出してレフトを巻き付けて避難出来ると思いきや、アスモ?が地面を変化させた縄のようなものを踏み台にして双剣でアスモの心臓を貫いた。シールディアが一気にアスモ?と距離を詰めて剣を振るった。しかし、シールディアの脳裏にアスモと過ごした出来事が走馬灯のように駆け巡った挙句、剣を振るうのに迷いが産まれた事にサニーンはすぐ察して、追撃を図ろうとしたがやはりサニーンもシールディア同様、脳裏にアスモと過ごした出来事が走馬灯のように駆け巡った。アスモ?は距離を取って双剣に付着した血を舐めた。




ヤズパが用意した遺体は少女の顔だけで妙に綺麗な状態かつ、泣いて固まっている状態でエリザベにとって珍しく暫く見惚れていた。

「で、”中身”はこっちだ。 さっさと合わせろよ」

ヤズパとエリザベがいたのは闘技場の跡地で、地下の隠し部屋があった。中は濃い闇が満たされていて外へ魂を出すのを防いでいた。濃い闇の中にあった魂をヤズパが手に取って、エリザベに手渡した。すると、早速遺体と魂を合わせる儀式をエリザベは始めた。

「神授魔力・”ペルセポネ”・”裏”」

エリザベの全身から血が溢れ出して顔に触れると、顔から生えるように体が生成され始めた。エリザベに激しい数多の人間や魔物の悲鳴が襲って来た。それはヤズパには聞こえず、エリザベが苦しそうにしているのを尻目にヤズパは鼻歌を歌い始めた。そんな状況が日が変わるまで続いて、エリザベはその場に倒れた時、少女の体は全身綺麗に元通りになった。


エリザベが目覚めると、目の前にはヤズパではなく、少女でもなく、少女とは別の少女の顔があった。

「何故また顔だけになっているの?」

エリザベは理由が分からなかった。そして、エリザベは何故か体を全く動かす事が出来なくなっていた。状況が飲み込めない中、周りには見た事が無い機械だらけで陰気な雰囲気を醸し出していた。

「君の能力は分かったし、本番は一人でやらしてもらうよ」

すると、機械のスイッチを入れると、エリザべは全身に痺れを覚えた。これは何なのかと思っていると、ヤズパはエリザベの頭に沢山の線が繋がったヘルメットを被せた。ヘルメットに付いたスイッチを入れると、エリザベは突然の眠気に襲われて深い眠りに落ちた。

「”闇術式・共魔力螺旋”」

ヤズパが発動した術式に反応して機械は起動され、御札を生成した。木箱に少女の顔を入れて周りには御札を貼り付けた。すると、ワープゲートを作り出してワープゲートにその木箱を放り投げた。そのワープゲートの先は安らぎの蛹内で”もう一人のヤズパ”に宛てて送った。

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