第26話・仇(あだ)
「こっからはコイツと戦って貰います」
レフトはヤズパと戦っていた。しかし、突如安らぎの蛹の壁からデスボダが現れた。レフトが知らないデスボダの姿を見て持っていた剣は落としてしまった。デスボダは闇の力を解放しており、それは数十年ぶりの事だった。
デスボダはスネクダの一人として生を受けた。実の父と母はデスボダを産んだ後直ぐに息を引き取った。デスボダの親代わりになった人物であるメッケテがいたお陰でデスボダは何不自由なく育っていった。戦闘技術は生まれながら高く、特に教わる事なくドンドン魔物を倒していき、確実にスネクダのトップへの階段をかけ上っていた。しかし、それはある日転がり落ちる事になった。それは闇を一切使わないスタイルが仇になった結果だった。
メッケテが何時も帰ってくる時間にも関わらず帰ってこず、外に出て探す事にした。森、山、川、洞窟といった様々な場所に出向いて探してみたが、結局見つからず夜遅かった為仕方なく帰ろうとした時、絶壁の崖にて強い闇の力を感じた。その強い闇が感じる方へ歩いて行くと魔物達が倒されていて山積みになっていた。進む内に闇は濃くなっていき、強い魔物達まで倒されていたのを確認出来た。歩いていると突如悲鳴が聞こえた。その悲鳴は女性のような声で反射的にその悲鳴が聞こえた方へと走った。
倒れていた女性は息はほぼしておらず、デスボダは何とかして助ける方法がないかと考えた。スネクダの一族は”助ける”という要素は無かった。何故なら、より闇の力を引き出す為だった。例え同胞といえど助けず己の力だけで生き延びる一族だった。しかし、デスボダには”助ける”という行為を持ち合わせていた。助ける事は当たり前で過去にも同じスネクダが魔物等の敵に襲われてピンチだった際、手を差し伸べた。例え助けの感謝の言葉を貰わずとも。
女性を助ける方法を考えていたが、強い闇の力をまた感じてデスボダは女性を抱えて逃げた。闇の力を込めた弾丸によって近くに大穴が空いていて、逃げなかったから巻き込まれて女性は完全に命を失っていたと悟った。弾丸を放った先を見てみるとそこにはメッケテがいた。
「何してんだよ! 女性が可哀想だろ!?」
デスボダは声を荒らげて気持ちをぶつけた。何故このような事が出来るのか。人を傷付けられるのか。デスボダは今まで一度もスネクダの人間を傷付ける事は無く、魔物を倒した際には手を合わせて頭を下げて弔うのがマイルールだった。
「可哀想? 何だそれは上手い飯か?」
その言葉にデスボダの思考が止まった。デスボダが今まで見た事がない顔の冷たい顔で見下ろされてきた。
メッケテは懐から”闇の神器”を取り出して女性に対して追い打ちをかけ出した。闇の神器はデスボダの中で重宝されていて闇の力を引き出す代物だった。全部で七つあってメッケテの持つ闇の神器”黒卵”《こくらん》は見た目に反して強力な武器の一つだった。神器が怪しく光ると神器から闇で作られた魚が現れるとその魚達がデスボダと女性目掛けて襲って来た。デスボダは女性を抱えて必死に逃げ続けた。魚がデスボダの足に襲い掛かり、デスボダは痛みに負けて女性を手前に投げ出してしまった。再び女性を抱えて逃げようとした時、目の前にはメッケテがいた。
「お前も闇を使え。 このゴミを助けたければな」
デスボダは今まで闇を使う事が一度も無かった。メッケテのからかいに怒って闇を使おうとしたが、闇の使い方が分からず家出した事があった。故にデスボダは闇を使おうとしないのではなく、使えないと思っていた。しかしメッケテはそうとは思わなかった。デスボダには闇を使う才能を秘めていて意図も簡単に死体を大量生産出来ると考えていた。
「闇を使わなくても人を助ける!!」
デスボダは想いをぶつけるが、メッケテは神器を撫でると女性が苦しみ出して姿を変え始めた。女性の傷口から闇を放ってその闇は礫となって周りの地面にぶつかって砂煙が立ち込めた。女性は全身鱗状でまるで魚人のような姿をしており、闇の反応があった。
「もうソイツは助からん。 殺さないとお前が殺される」
デスボダは自身の手を見た。闇がモヤのように立ち込め始めた。それを見てメッケテは笑みをこぼした。更にそれを見たデスボダは力を制御しようとしたが、それに反してデスボダから漏れ出る闇が鋭い刃と化して変わり果てた女性を襲いかかろとした時、デスボダが涙を流してその涙が地面に落ちた時、鋭い刃と化した闇は急ブレーキをかけて方向転換してメッケテを襲った。メッケテの体は真っ二つになり、神器も巻き込んで破壊した。
「使えるじゃねぇか、息子」
メッケテの方へデスボダの足が進もうとした時、変わり果てた女性が苦しみ出して体の所々から裂け目が出来て、そこから闇が吹き出ると天へと昇っていくのが分かった。体が徐々に崩れ始めて最後には顔だけが残った時、女性は涙を流して何か言った後、完全に女性の体は消えて彼女がいた所には小さな卵があった。デスボダはその小さな卵を持って優しく撫でた。弔っていると背後に強い闇の反応があった。振り返ってみると破壊したはずの神器が修復されていてその神器によってデスボダは拘束されてしまった。その拘束は体を激しく揺らすだけでは解けず、デスボダはもしかしたら闇で拘束を解けると思ったが、骨折覚悟で拘束を解こうとした。結果的に骨折を免れたが、体が痙攣を起こして暫くその場から動けなくなっていた。拘束が解かれた神器は再び破壊されていた。
「メッケテが殺られた。 しかもあのクソガキに」
デスボダのアジトにてヨヨア、ボスがデスボダとメッケテとの戦いを見ていた。その場にヤズパが丁度帰ってきた所だった。ヤズパはデスボダの潜在能力を高く評価していた。闇の神器は闇の力を引き出す。しかしそれが無くても十分に闇の力で世界に脅威を持たせられると踏んでいた。メッケテはヤズパとは長い付き合いで共に戦ってきた言わば”ライバル”的な存在だった。メッケテは確かな実力者でそう簡単に殺られる訳がないとヤズパは確信していた。そんなメッケテが殺された事実に少々複雑な気持ちに囚われた。メッケテが死んだのは惜しいのだがデスボダという化け物が誕生したのがめでたいと思ったからだ。その気持ちを察したのかヨヨアが口を開いた。
「喜ばしいことよ。 子は親を超えるもの」
あれから一日経って廃墟にて、デスボダは自分がやってしまった事に思い詰めていた。親代わりだったメッケテを殺して、女性を助けられず今ある卵になってしまったと頭を血塗れになるまで壁に打ち付けて精神的に追い込まれていた。
「俺のせい……闇なんて……」
デスボダは頭を打ち付け過ぎた為意識が朦朧すると、その場に倒れてしまった。意識が戻った時、いたのは神殿の中だった。
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