第23話・完璧な存在

時が少し遡りグレアスとクラーケンが会って間も無い頃、クラーケンからボロボロな絵本をプレゼントされ、そこに描かれていたのは”光と闇”。光は光と闇は对の存在であり、互いに大きくダメージを与えて受ける関係であった。光は神や神から守護を受けている者が持ち、闇は”スネクダ”と呼ばれる種族が多く持ち、操るとされていた。絵本にしては分厚く子供が読むには難ありな内容とボリュームだったが、グレアスは本を読むのが好きだった為そこまで苦じゃなくてスラスラ読めた。


そんな中で安らぎの蛹の事も記されていて世界の脅威になり得る存在だと理解した。そして安らぎの蛹の対処方法も記されていた。安らぎ蛹内には凝縮された濃い闇があってそこにいた者は形を変えて思考も失って生きる屍と化す。安らぎの蛹が破けて中から闇を行使する化け物が現れるとその言葉と化け物の絵が大きく描かれていた。しかし、化け物にするのを未然に防ぐ方法はあった。それは強い光で安らぎの蛹を壊す事だった。壊すといっても部分的壊したらすぐに再生または壊そうとした者を中に取り込んでしまうと取り込まれる人間の絵がグレアスの脳裏に焼き付いた。




グレアスの話は終わってレフトは再び覚醒しようと意識を集中させて別意識に飛んで”もう一人の自分”から力を貸してくれないか説得しようとしたが、何回やっても無理で気付けば日が暮れてしまいシールディアは焚き火を起こして夕飯を作り始めた。村は瘴気が晴れたものの崩壊しており、真面に食べたり寝たり出来る場所は無くなっていた。シールディアは料理を完成させてレフトに声を掛けたがレフトは無反応でひたすら集中させて別意識へ飛ぼうした。すると耳元でグレアスに叫ばれて我に返った。

「飯食べて下さい。 未来の勇者さん」


三人は夕食を済まして再びレフトは試してみたが結局別意識へ飛ぶ事は無くて疲れで酷く眠気に襲われてその場に寝ようとしたが、この時懐かしくずっと探していた声が聞こえた。

「中へ入ってやって」

その声は弟ライトで幻覚かと思って目を擦って再び目を開けても確かにライトがそこにいた。

「会いたかった。 良かった無事で。 今まで何処にいたんだよ!? ケガとかは……」

レフトは興奮状態で質問攻めでライトが経験した出来事を聞き出そうとしたが、ライトは黙ったままでレフトは考え方を変えた。今まで辛い経験をしていて話しづらいのかと思ってライトを強く抱き締めた。ライトは笑みを浮かべてレフトの耳元で囁いた。

「蛹の中へ入れよ」

急にライトの口調が変わって距離を取るとそこにはライトがいなくなっており、安らぎの蛹に裂け目が出来た。




デスボダは目を覚ますと濃い闇の中で目覚めてはいけない何かが あるのを感じて堪えようとすると吐血と目眩が襲った。

「モルモットは喋る権利は無い」

聞き覚えがあると思うと目の前にはヤズパがいて足元には魔法陣が描かれていてこれを利用してここに来たのを察した。デスボダは思わぬ敵にどうしたものかと考えているとヤズパは上を指した。デスボダは上を見上げると、一人は青年ともう一人は少女の体が浮いていた。二人の周りには濃い闇がバリアのように守っていてデスボダは二人が何者かと考えていると安らぎの蛹の中に取り込まれた際に一緒に中に取り込まれたリイロであると気付いた。そしてヤズパの能力も知っていたデスボダは元々の姿のリイロ、一緒に混ぜられた青年だと理解した。


ヤズパの能力は闇を利用した”混合・変化”だった。この能力を利用して世に化け物を大量に放ち、リイロと青年もまたその餌食になっていた。発動条件は対象がある程度の負の感情を抱いている事や、闇に触れた経験がある事だった。ヤズパはその能力だけに頼るだけでなく戦闘経験があって運動神経も良くオマケに頭も切れる完璧な存在でデスボダは非常に不利な状況だと理解した。


デスボダは何とか立ち上がり、ヤズパの顔面に向けて唾を吐き捨て挑発した。ヤズパは笑みを浮かべると周りの闇の量を即座に増やして闇の胞子の先端を尖らしてデスボダに対して弾丸の雨を降らした。デスボダは即座に一つ一つの闇の胞子を正確に避けて拳に魔力を込めて電気へと変えた。

「お前の神授魔力って”トール”って言うんだって?」

ヤズパはデスボダの拳を態と腹で受けて余裕をアピールした。デスボダは距離を取って魔力を込めた波動を放った。

「#”雷絶弾”《らいぜつだん》!!」

ヤズパは片手で薙ぎ払って上へ登り始めた。デスボダは後を追うために足に魔力を込めた瞬間、ヤズパは下へ飛び降りてデスボダの顔面を殴った。投げ飛ばされたデスボダは空中でバランスを取って上手く着地した。ヤズパは再び登り始めてデスボダは再び後を追うとしたが、ヤズパが登る際に足を着けた部分から闇の胞子が飛び出てデスボダを襲って来た。ヤズパはリイロと青年の体を触ると二人の体は縮小してヤズパの手の元に収まった。

「第3の実験を開始する」

ヤズパは近くに魔法陣を作り出して先に魔法陣に向けて縮小した二人の体を放り投げた。デスボダは足に再び魔力を込めて地面を蹴り上げてヤズパの動きを封じようとした時、二人の体は魔法陣によって消えて魔法陣を大きくしてヤズパもそれに触れてワープしようとした。

「お前は一生この牢屋にいろ」

ヤズパと魔法陣が接触する寸前、外から別の人間が来た。




レフトは安らぎの蛹に出来た裂け目から中の様子を伺ったが真っ暗で様子が分からず、代わりに濃い闇があるのを感じた。流石にこの状態で中に入るのは不味いと思ったが、いつの間にか起きていたグレアスが声を掛けてきて、小石を渡された。その石には魔法陣が描かれていて、”光”を感じた。これはどやって作ったか気になったが先を急げとグレアスの目が訴えた気がしてレフトはその石を握り締めて中へ入っていった。


グレアスはレフトを見送るとその場に倒れた。グレアスの全身から血が溢れ出した。

「これでいいんですよね?」




レフトは安らぎの蛹の中の濃い闇に軽く目眩を起こした。中に入った筈のリイロとデスボダは見当たらず、上を見上げるとデスボダ、長髪でガタイの良い男がいた。デスボダに向けて叫んで手を挙げると、デスボダは大声で逃げるよう叫んだ。意味が分からないでいると心臓が急に冷たくなったのを感じた。見てみると先の尖った闇の固形物が心臓に刺さっていた。その固形物は長髪でガタイの良い男が爪を尖らして飛ばしたものだった。

「”光のお兄さん”こんにちは。 僕ヤズパだよ~」

ヤズパがいつの間にかレフトの目の前にいて、わざとらしい優しい口調で話し掛けてきた。デスボダは下へ降りようとしたが闇の胞子達で出来た壁に塞がれて降りる事が出来ない上に下の様子が分からなくなった。デスボダは残っている魔力を振り絞って壁に連撃を繰り出した。壁は徐々に壊されていき、破壊と共に下へ飛び降りてレフトの方へ駆け寄ろうとした時、レフトは既に息を引き取っていた。

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