第21話・疑心暗鬼

安らぎの蛹がある所は死地になる前兆であるとスネクダの中では常識だった。中から出てくるのは蝶ではなく、闇を行使する化け物は確定でスネクダだろうが何だろうが牙を剥く化け物だった。




「これ、弓放っていい?」

サニーンは弓で蛹を射抜こうとしたが、シールディアに頭を叩かれた。シールディアは蛹にダメージを与えた瞬間に闇の放出、中のリイロとデスボダの致命傷、蛹の拡大により追加で中に犠牲者が増えるといった様々なリスクを考えていた。しかし、何もしないのも癪だったシールディアは大声でリイロとデスボダの名前を叫んだ。しかし、リイロとデスボダが返事する事無く代わりにレフトが声を上げて手を挙げた。


「そういえば瘴気消えたみたいだけどサニーンは異常無いの?」

レフトの予想外の話の切り替えにシールディアはツッコミを入れる気にもなれず、聞かれたサニーンはレフトに続いて声を上げて手を挙げた。

「そういえば俺裸じゃん!!」

シールディアは今更ながら顔を赤くして、急いで村から服が無いか探しに行った。


サニーンは心臓に手を当てて息を何度も大きく吸って魔力の流れを感じ終えるとサニーンは異常が無く、村から瘴気が消えてもサニーンの内には瘴気が残っているかもしれないとレフトは心配したが、サニーン自身はさほど心配してなかった為にレフトはその気持ちを押し殺しているとシールディアが村に残っていた服を持って来るなり、サニーンに投げ付けた。


サニーンは改めてレフトとシールディアに目覚めた能力の説明した。敵の弱点が目で見る事が可能で、敵が動いても動きに合わせて補正される能力で弓限定で発動可能な能力だと説明し終えるとレフトはシールディアに質問した。

「これって”神授魔力”?」

レフトの質問にシールディアは可能性はあると言い、どういう状況でその能力を手に入れたのかサニーンに聞いた。サニーンは神殿の中にあった本から能力を手に入れたようでどうやって神殿に行ったのかは分からないと言ってる内に何か思い出した様子で後ろを振り向いた。レフトはなんで後ろを振り向いたのか分からなかったが直ぐにその理由が分かった。強い魔力がレフト達の方へゆっくり向かってくるのが分かってそれはグレアスだった分かると胸を撫で下ろした。


グレアスの手は強くしなやかで回復効果のある粘液がある植物の茎を巻き付けていた。グレアスの目と合ったサニーンは状況を察してすぐさま土下座した。グレアスは地面から拳を作り上げて真っ直ぐ空にサニーンを打ち上げ、レフトとシールディアは思わず拍手してまった。グレアスはレフトの顔の至近距離まで迫って来てまじまじと見つめた後にレフトの頬を思いっ切り引っ張った。

「貴方のその能力ならアレ壊せますよ」

グレアスはそう言うと安らぎの蛹の方を指した。レフトはシールディアの方を向くと顔を縦に振ったのを合図に安らぎの蛹に向かって剣を振るった瞬間にレフトの魔力量が急激に下がり、光の力も失って顔に浮かび上がっていた「L」の字が消えてしまった。このままではただ剣で安らぎの蛹を切ろうとするだけの状況は不味いと思ったグレアスは、地面からタコの触手のようなものを作り出してレフトの体を巻き付けて、安らぎの蛹と剣の衝突を防いだ。


安らぎの蛹を壊してデスボダとリイロを助ける方法を完全に無くなってしまった為にレフトはどうしたものかと顔を上げていると、何かが飛んでいるのに気付いた。それはグレアスによって打ち上げられたサニーンを巨大な鳥が足で捕まえて飛んでいた。巨大な鳥の柄には見覚えがあると思ったら鞄龍・ヲゲナだった。以前よりも遥かに巨大な体で逞しく見えた。シールディアによると鞄龍は体の大きさを自由に変える事が可能でレフトが村の寝室で始めて見た時が最小サイズで最大サイズは今レフトが目の当たりにしている二倍のサイズまで大きく出来るようだった。

「今までどこに居たのか?」

レフトはヲゲナの頭を撫でながらヲゲナに聞いてみた。すると代わりにいつの間にかヲゲナのお腹を枕代わりにして寝転がっていたサニーンが答えた。サニーンが言うにはヲゲナの細かい仕草で何を言っているのか何を伝えたいのか分かるようだった。




ヲゲナは昼下がりに村の周りを飛ぶのが日常である日何時ものように飛んでいると、教会内に怪しげな光が発生したと思うと血の匂いを感じ取り、教会へと急いで向かおうとすると本能で行ってはいけない事を感じ取り急いでその場から逃げてシールディア達に伝達しようとした時、教会を破壊した瘴気魔神がヲゲナに気が付いてヲゲナは必死に逃げている中、突然の強風に煽られて村にあった巨木に激突して地面に頭をぶつけて暫く気を失った。


意識が戻ると直ぐに今の村の状況を肌で感じてしまった。瘴気で村は満ちており、死臭で軽く頭痛を催したが、瘴気魔神が人々を襲って瘴気魔神の幼体を作り出している様子を目に入った。自分はこの状況で何をすればいいのか。次の手を考えていると酔っ払いのおじさんに絡まれた。何を言っているのか分からない上にヲゲナの体をあちこち泥まみれの手で触って最終的にヲゲナとキスを強要して来た為、逃げて逃げ続けていると、知らない内に足元に地面が無くなったと思うと下は真っ暗で左右を見ると崖と崖で今はその間にいる状態だった。急いで飛ぼうとしたが、酔っ払いのおじさんが飛び乗って来てしまいそのまま真っ逆さまに落ちてしまった。


ヲゲナの意識は再び戻ると、何故か空を飛んでいた。何故飛んでいるのか。何を今までしていたのか。思い出していると、下から悲鳴のような声が聞こえるとサニーンが徐々に近付いてくるのが分かってサニーンはこちらに気が付くと口で「助けて」と言ってるのが分かると、体を大きくしてサニーンを足で掴んだ。




サニーンの話にヲゲナは満足気に頷いていたがレフトは半ば疑心暗鬼でいるとシールディアは剣をグレアスに向けていた。

「サニーンの話はどうでもいい。 グレアスとやら詳しすぎではないか? 」

シールディアの言いたい事はレフトは何となくではあるが理解した。グレアスの手に巻き付けていた植物の茎が剥がれている所があってそこからは血が出ており、グレアスはそれに気付いて植物の茎を全部剥がすと手に血で汚れた魔法陣が描かれていた。瘴気を村から消したのはグレアスであると理解した。それに加えて安らぎの蛹はレフトの”光”の攻撃で壊せる事を知っていた為詳しすぎてグレアスは怪しいと思うシールディアの気持ちもレフトも分かると思った瞬間、グレアスは口を開いた。

「この村の秘密が知りたくて私の所に来たのでは?」

レフトはその言葉を受けて村の秘密を知る為に不届き山を訪れた事を思い出した。グレアスはため息をつくと村の秘密に加えて自分について話し始めた。

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