第17話・感情

少女はずっと一人ぼっちだった。誰から産まれてきたのかどうしてここにいるのか、そう疑問を持ったのは何時だっただろうか。そんな事今更どうでもいいかと、見上げた空は真っ赤で以前は青だった頃は懐かしく思えた。今は一人の人間をまたあの世へと送った事に罪深さを感じつつ、次に何をするかを考えていた。




サニーンは再び目を覚ました。樹海にいた筈のサニーンがいた場所は神殿のようで、障壁には古代文字のような文字が連なって記されていて、まだ奥があるらしくサニーンは奥へと歩み始めた。中は酸素が薄いらしく呼吸が荒く、人の出入りが長年感じられず、埃が舞って咳き込みながら神殿の最奥部に辿り着いた。そこには祭壇があり、祭壇の中央には古びた本が一冊あった。サニーンは吸い込まれるように本に手を伸ばしてページをめくると真っ白で何も記されていなかった。まさかと思って次のページも真っ白で結局全部真っ白でサニーンはここはどういう神殿なのか分かる手掛かりはもう特に無いと思ったサニーンは神殿を後にしようとした時、突如祭壇にあった本が光出した。


サニーンは警戒しながら徐々に近付いていくと本から声が聞こえた。

「そこの者よ。 神の力を授けるに足りるぞ」

サニーンは言ってる意味が理解出来なかったが、本からの声はサニーンの答えを待たずに話し続けた。

「もう一度本を手に取り、誓え」

サニーンは特に断る理由は無い上、断ったら何が起こるか分からないと判断したサニーンは本の言う通り、本を手に取って祭壇に向かって誓った。

「この俺に凄い力をくれるなら、どうか下さい!!」

サニーンが誓った瞬間、サニーンの意識は現実の意識へと瞬時に変わった。




「君はずっとここにいるね」

少女の目の前には何時も汗だくのおじさんが現れた。近くの畑で農家として働いてるらしく、採れたて野菜を少女の目の前に置いて酒が早く呑みたいらしくさっさと帰ってしまうのが日常だった。少女はおじさんがいなくなった後にきちんと手を合わせた後、野菜を一欠片をこぼす事無く平らげていた。しかし、とある日急におじさんは現れる事が無くなった。少女は話し掛ける事おろか会話事態大の苦手で少女はおじさんの行方を知る為、おじさんと一緒に農家として働いていた仲間に話し掛けられず近くをウロウロしていた。結局話し掛けられずに終わる一日が一週間と続いて少女が持っている食料が残り僅かになる頃、少女の所に見知らぬおばさんが来た。


おばさんは少女をずっと探していたらしく、痛めていた腰を叩きながらおじさんの行方を教えた。

「おじさんなら騎士様に連れ去られて行ったわよ。 伝える迷ったんだけどね……」

少女はおばさんからおじさんを連れ去った騎士の居場所を聞き出そうとしたが、上手く言葉にする事が出来なかった。しかし、おばさんは察したらしく少女に居場所を教えた。少女は居場所を知ると一目散にその居場所へと走り出した。


少女は目的地である廃工場に着いた。騎士が何故廃工場におじさんを連れて行ったのか謎だったが、廃工場の入口を抜けて暗がりの内部の中おじさんを探していると、少女の足は地面に落ちていた鉄製のポールに当たってしまい、高音が廃工場の中響き渡ってしまった。少女は周りを警戒して誰かいたら落ちていた鉄製のポールで攻撃しようと思って拾い上げた。しかし、誰もいないようで水滴が落ちる音しか聞こえてこなかった。少女は別の場所を当たろうとすると、何かが落ちる音がした。その音がした方へゆっくり向かって行くとそこには頭から大量の血が吹き出てもう既にあの世へと旅立ってしまったおじさんがいた。少女はこの時どうすれば良いのか。どういう感情を抱けば良いのか。少女は分からず、動けなくなっているとガタイの良い男が現れた。


「嬢ちゃんが来るような所じゃねぇなぁ。 オマケにそれを見ちゃったならただでは帰らせられないなぁ」

ガタイの良い男の他にも男達が現れて、少女をあっという間に柱に縄で縛り付けた。少女はここで死ぬ事を覚悟した。おじさんと同じ所に行けるならそれで良いと思った束の間、その場にいた男達は一人の男の手によって気を失っていっり、戦意を喪失させて逃げる者もいた。最後に一番最初に少女の目の前に現れたガタイの良い男が残っていてポケットからナイフを取り出した。

「お兄さん怖いい~」

男はそう言うと、ガタイの良い男が持っていたナイフを遠くへと払い飛ばし、飛び膝蹴りで気を失わせた。男はポケットから酒を取り出して、未開封だった酒はあっという間に空になってしまい、空になった酒はポケットに戻し、少女を拘束していた縄を解いて持ち上げて少女の頬にキスをした。

「帰ろうぜ。 お姉さん」


少女と男は男の家に辿り着き、男は棚にストックしていた酒を取り出して、再び未開封だった酒は空になってしまった。まとめていたゴミ袋と一緒にゴミ捨て場の方に行ってしまった。少女は特に何もする事なくただ目の前にいたトカゲを見つめていた。

男は戻ってきて、トカゲを撫でながら自分が何者なのか今の状況はどういう状況なのかを少女に語った。

「俺はクラーケンだ。 それ以外でも何者でもねぇ。 廃工場でよからぬ事を企んでいると聞いてな 」

その後もクラーケンから長々と話は続き、少女はただ話を聞くだけで自分からは声を一切出す事が無かったが、おじさんの事が頭から離れる事は無く、クラーケンの話の内容は頭には入ってはこなかった。クラーケンはそれを察したらしく、おじさんの事も話し始めた。


「そのおじさんの息子がアイツらの仲間だったんだ」

クラーケンの話によると、おじさんの息子は十二歳の頃に家出して音沙汰無しだったが、五年後に突然おじさんの目の前に現れた。その際、三人の男も一緒でおじさんの所有していた畑を寄越すよう要求した。麻薬を育てる為に使うようだった。断ったおじさんは騎士に装った男に連れ去られて廃工場で殺されたのがクラーケンが知っている限りの話だった。

「憎いか? 悔しいか?」

クラーケンは少女の今の心境を探ろうとしたが、少女はこの時何を思えばいいのか。何をすべきなのか分からなかった。少女は今まで感情の作り方や人間としての当たり前の事を知らずに生きてきた事をクラーケンは察した。

「よし俺が今日からお父さんだ。 思う存分可愛がってやるぞ」

クラーケンは少女の額にデコピンを食らわした。




「ボケっとすんな 人殺し!!」

少女の意識は今現在に引き戻された。少女の目の前には死んだ筈の裸姿のサニーンがいた。そんなサニーンは少女の額にデコピンを食らわしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る