第8話・闇の脅威

レフトの意識は、不気味で異様で、意識が何者かに支配されてしまう様な空間にいた。心臓に刺さっていたはずの料理包丁は無く、傷口も無くなっていた。

「大抵の人はここに来たら俺の人形になるんだけどさ」

レフトの目の前には男がいた。顔は紫色で、腕には沢山の文字が刻まれていて、嬉しそうに酒を飲んでいた。

「あの娘の”闇”を増幅させたんだ」

闇は人の心に住み、闇の力によって数多の死体と歴史を築き上げた。ミバヤコルホの時計台にある図書館にあった本そして、母親の話でレフトは闇について軽くではあるが、知っていた。レフトは今ここで初めて闇の恐ろしさを目の当たりにしていた。

「ここは、彼女の”闇”の中」

リイロの近くに見えた変な模様が闇の空間中に浮かび上がり、男からは魔力とは違うおぞましいオーラを放っていた。そのオーラに近づこうとすると、レフトは意識が飛びそうになり危険を察知して剣を手に取ろうとしたが、手元には剣が無かった。

「安心しても構わん。 死んで俺の人形になる」


男の腕は形を変えて、長刀となり、レフトに襲いかかった。レフトはギリギリの所で避けたが間髪入れずに男の長刀がレフトに襲いかかった。レフトは避け続けたが、レフトの腕に長刀が掠り、掠った瞬間にレフトの心臓に痛みが走った上で、頭の中に何者かが侵入してきた感覚を覚えた。闇と呼ばれるものに飲まれそうになるレフトの中、レフトの右手に魔力を貯めて男に一撃をお見舞いしようとした時、右手を男に踏み潰された。

「そんなもので俺は倒せない。 ”闇”は魔力とは相性が悪い」

レフトは今度は左手に魔力を貯めようとしたが、その時に別意識に飛んだ。




「無理しないで」

レフトの目の前にはライトがいた。しかしレフトの知っているライトではなく、ライトの目は暗くおぞましいオーラを放っていた。

「兄さんもこっちの世界に来てよ」

ライトの放っていたおぞましいオーラは手の形に変わって、レフトの全身に巻き付いた。レフトは抗うがライトの後ろにある扉へと引き込まれて行った。レフトはもう抗うのを止めてレフトは生きるのを投げ出そうという気持ちに駆られたが、突如扉からは光が漏れ始めてライトも驚いた様子で後ろへ振り返った瞬間に、ライトは光によって掻き消されてしまった。




「”#神の道標”《ゴッドロード》!!」

闇の空間は破壊されて、レフトが意識を取り戻すとレフトの目の前には、槍を持ったシールディアがいた。槍は教会にあった槍と思われる物で、剣は持ち合わせては無いようだった。シールディアは槍を一振して男に攻撃したが、男はギリギリの所で避けた。男が放つおぞましいオーラが徐々に消えていってるのがレフトが分かった瞬間に、男の半身は巨大な蜘蛛へと体を変えた。間髪入れずに鋭く柔軟な糸を何本もシールディアに向けて放った。シールディアは手を合わせた。その瞬間にシールディアの魔力が別の何かに変化すると、シールディアの周りにそれは広がった。

「#”女神領域”《ベール》!!」

それに糸が触れると消えていった。

「貴様”光”か!? こんなちっぽけな村にいるとは聞いて……」

男が喋っている中、シールディアは槍で男の心臓部分を貫いた。シールディアが槍を突くその速さはまるで”光”のように。男は悲鳴を上げながら跡形もなく消えていった。一方のシールディアはその場に倒れて、シールディアが放っていた”光”が無くなった。




シールディア、リイロは眠り続けていた。男と対峙してから一週間は経ち、二人の看病はレフトとアスモが交代制で行って、サニーンは訓練に勤しんでいて、以前より自分を追い詰めているのが明らかだった。アスモは寝ていない様子で毎晩泣いていた。レフトは自分の力の無さ、不甲斐なさに悔いる一方だった。




レフトはシールディアとリイロも心配な一方で、ライトも気になっていた。あの時に出会ったライトに。ライトはおぞましいオーラを放っているのに加えて、

「兄さんもこっちの世界に来てよ」

という言葉に引っかかていた。こっちの世界とはどういう意味か。ライトは生きているのか。あの時のライトは本当に本物のライトだったのか。そう考えていた中、アスモに話し掛けられた。アスモはどうやら覚悟した様子で、まだ話してなかった事をレフトに話した。


魔力は生物が持ち、瘴気は魔物の一部が持つ。闇はこの世界の何処かを住処にしている”スネクダ”と呼ばれる種族が多く持ち、操るとされていた。そして光は、神や神から守護を受けている者が持つ。とほぼ伝説としてしか認識されていないようだった。シールディアは聖女として担っている為に光を行使出来るらしいが、魔力を光に変化する必要があり、体力を限界まで搾り取る必要があり、以前にも闇と対峙した事があり、一ヶ月眠り続けたようだった。


一方のリイロはアスモにある相談をしていた。それはサニーンの事だった。やはりサニーンを完全に信用する事が難しく、サニーンを懲らしめたい気持ちをアスモに吐露したが、アスモはまた別の考えを持っていた。それは、まず一つはシールディアがサニーンを信じているならそれに倣って信じてみる事、二つ目はサニーン自身が悪気があってやった行いでは無い事、サニーン本来の意識が無かった事と、これらの理由を加えてリイロを説得を試みたが、リイロは言う事を聞かなかった。今までアスモの言う事は素直に言う通りにして来たリイロが反論したのは、珍しい事だった。




スネクダの潜むアジトに、男が心臓辺りを手で抑えながら向かっていた。男はシールディアの決死の攻撃を真面に食らってしまっていたが、リイロに潜む闇を喰らった事により、何とか生きていた。

「何で貴様は生きている」

男の目の前には長髪でガタイの良い男が現れた。男は姿勢を正しくして、冷や汗が出始めた。

「ヤズパ様、光の者がいました!!」

男は事の経緯を説明しようとしたが、

「で、それが?」

ヤズパは男の言葉を無視して、鋭い爪で切り刻んだ。

「弱い者の話はつまらん」

ヤズパは爪に付いた血を舐めた。ヤズバは血を舐めた事により、男の身に起きた出来事を知り、レフト達の存在も知る事が出来た。ヤズパはアジトで身支度を済ますと、レフト達の方へと向かっていった。




シールディアは目を覚ました。眠り続けて一ヶ月と少しであり、シールディア本来の魔力量は完全回復とは言えないが、戦える位には回復していた。シールディアは取り敢えず部屋を出ようとした時、隣に寝ていたリイロに気づいて思わず暫くその場に立ち尽くしていた。リイロの目は開きっぱなしで、口からは血が。リイロは既に息を引き取った後だった。

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