第7話・魔力と瘴気

シールディアはレフト、アスモ、リイロ、サニーンを鍛え直す為、修行に明け暮れていた。特にレフトはこの世界の事を知らなさ過ぎた為に、シールディアから色々教わる事になった。


「まずは、魔力について」

魔力は変わり果てる前の世界でも存在しており、どんな生物でも魔力は持っているようだった。魔力は普段から認知出来ないが鍛える事で認知できて、戦闘において相手の魔力と自分の魔力を比較出来る強みがあると教わった。レフトはまず魔力を認知する事に加えて、魔力の量をある程度操作出来るように訓練した。

腹筋、腕立て、スクワットといった筋トレ、温度調整が自由に出来る部屋での瞑想、ケツバット、アスモの下手くそ料理の早食いといった様々な練習メニューでレフトの精神を追い詰めた。そんな生活が一ヶ月も続いた。


「魔力感じてるかい?」

レフトは魔力を微量ながら、認識出来るようになった。しかし、魔力の量は操作出来ず、力んで余計な魔力を放出して、直ぐに疲れてしまう状態だった。対するサニーンは全く魔力を認識できずに、念の為に医師を雇って診てもらったが、サニーンの体には異常が無かったが、ただ気になる点が見受けられた。サニーンは元々、幼い体だったが、謎の男の仕業で魔物から変化した瘴気によって、体が今のような青年の体に変わってしまっていた。ただ今は瘴気はサニーンの体のどこにもないのにも関わらず、体が青年のままなのが医師だけではなく、レフト達も引っかかていた。シールディアによると、謎の男を倒さない限り、サニーンの体は青年のままだと仮説を聞いて、レフト達は納得した。


「せっかくだし、瘴気についても説明しておこう」

シールディアはサニーンの件もあり、瘴気の説明に入った。瘴気は魔力とは全く違うものであり、魔物の一部が瘴気を持っているようだった。魔力が無くなる”魔力切れ”になると体が動けなくなる一方で、瘴気は無くなると幻覚が見え始めて、場合によっては幻覚が耐えきれずに自殺を図ってしまう事件が過去にも幾つかあった。シールディアが話している最中、リイロが急に吐き気を催してその場に倒れた。シールディアはそれを見て話を一旦止めて、その日の昼飯にする事にした。


「なぁ、サニーンの記憶を見たんだ」

昼飯を済まして、村の丘の上にある巨木の下にいたサニーンにレフトは話し掛けた。レフトが暴れ狂うサニーンと戦った際に、レフトが止めを刺した瞬間に、消え行く瘴気の中でサニーンの幼い頃の姿が一瞬見えて、

「ありがとう 助けてくれて」

そう言った気がした。レフトはその直感だけで、普通の子供と何の変わらない子供へと生まれ変わらそうと思って、リイロから魔石を受け取って魔石の力で生まれ変わらそうと思った。結果は生まれ変わる訳では無かったが、サニーンは死ぬこと無く生き残った。

「レフトの魔石のお陰で俺は生きている。 本当にありがう」

サニーンはレフトを抱きしめた。


「弟の事教えてくれないか?」

サニーンはレフトの弟のライトの事を以前からどんな人間なのか気になっていた。レフトはライトの素晴らしさ、弱み、思い出を語り尽くした。そんな話をしているレフトの顔は今まで見せたどの笑顔よりも素敵で、身振り手振りが多いように見受けられた。その話をこっそり来ていたシールディア、アスモ、リイロ、ヲゲナが、レフトの笑顔が伝染したかのように、皆揃って笑顔になっていた。




更に一ヶ月経って、レフトは魔力を安定して認識出来るようになり、ゆっくりではあるが、魔力の量を操作出来るようになり、手先に魔力を強めて村にあったそこそこ大きな岩を砕けるレベルまで成長した。岩を砕いた後のレフトの手先はほぼ無傷で、シールディアはその様子を見て何故涙を流していた。

「よくやったな。 我が息子よ」

最初のシールディアの印象は騎士として真っ当に勤めていて、冷徹で弟子思いの印象があったが、今は母のような暖かい人間で、弟子だけにも関わらず関係者全ての人に手を差し伸ばして、笑顔が多い人間だと分かった。改めてシールディアから教わって良かったとレフトは実感していた。


「次は”例の技”について迫っていこうか」

”例の技”とは、レフトの視界が急に見えなくなった後、光る紐のようなものが見えて、強い光を放つ端を辿って行く時に、無意識に攻撃しており、強い光に辿り着くと意識が戻って、止めを刺す技の事だった。魔力の操作が出来る前からその技が出来た為、レフトとシールディアは気になっていた。シールディアによると、”無意識転移魔法攻撃”と呼ばれるものであり、何か強い衝撃を頭に走った場合に極稀にある攻撃の一種だと教わった。それに加えてこの攻撃をする際のリスクをシールディアは挙げた。一つは意識が別の所に行く為、戦っている様子が分からず、知らない内に死ぬ可能性があると言う事、二つは本当に百パーセント敵を倒せる、致命傷を与える事が出来るか確証が無かった。


「アスモの攻撃はどうなってるの?」

レフトはアスモの技からヒントを得る為、ヲゲナに餌を与えているアスモに質問した。


”猛禽視界”ルックオールは鷹のように獲物を捕らえる目を自分に落とす。 ただそれだけ」

そう言って、アスモは何処か去ってしまって行った。どうやら何か他に事情がある時に話し掛けてしまったようだった。レフトがアスモを去るのを見ていたが、急に誰かに話し掛けられてレフトはびっくりしたが、話し掛けたのは顔を赤くしているリイロだった。しどろもどろになっていた為、レフトが手元に持っていた水をリイロに飲むよう言って、リイロは勢いよく余っていた水を全部飲み切ってしまった。レフトは少々引いてしまったが、リイロが取り敢えず心を落ち着かせられた為にレフトはその事にツッコミを入れずにリイロの話を聞く事にした。


「サニーンを殺しませんか?」

レフトは思わず、剣を手に取りそうになったが、あともう少しの所で手を止めた。自分が人殺しになってしまう事もあったが、リイロの言いたい事が分かってしまった為に、レフトは手を引っ込めてその場に座った。レフトはサニーンの幼い頃の事を話そうとした瞬間に、レフトの体温が徐々に下がっていくのを感じた。心臓辺りを見てみると、料理包丁が刺さっていた。リイロはその場に崩れ落ちた。


「レフトさんが悪いんです。 サニーンを殺す気が無いから」

レフトは何か違和感を覚えた。リイロは確かにサニーンを殺したい動機がある。一度サニーンによって殺されかけたからだ。でも、レフトは感じた違和感を探している内に、リイロの近くに変な模様が浮かび上がった。

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