第6話・聖女騎士

禊の森にて二人が剣を振るっていた。レフトは何度も押し負けて木に激突していた。

「こんな奴に二人が負けたなんて、なにかの間違いじゃないかしら?」

鎧を着ていて、顔は凛々しく、レフトに対して強い怒りを覚えた女騎士が今にもレフトを殺す勢いの中、別の人間がそれを止めた。


「待ってください シールディア様! この人は俺の味方です。」

アスモがよろめきながら、二人の争いを止めた。アスモはその場に倒れて寝てしまった。シールディアは黙って、己の剣を鞘に納めた。シールディアは鎧を急に外し始めたので、レフトは手で顔を覆って見ないようにしたが、気になってこっそり見てみると、レフトの予想とは違って、凛々しい肉体と、前掛けのような物を着けて、鉄製の口当てをしていた。シールディアは口当てを外してレフトに対して頭を下げた。


「申し訳ない。 コイツらが可愛くて。 そんな可愛い奴をお前が危害を加えたと直ぐに判断してしまって」

レフトはシールディアに頭を上げるよう説得して、続けて自己紹介をした。シールディアは体勢を戻して己の右手をレフトに対して差し出した。

「私はシールディア・ドプサ。 レフト殿、私達が暮らす村で癒すと良い」

レフトはそう言うと安心感からか、体に力が抜けてその場に倒れてしまった。シールディアはその様子を見て少々驚いたが、口元が緩み、シールディアは手を振って、大声を上げた。




レフトが目を覚ますと、地面が揺れていて、馬のような鳴き声が聞こえた。

「起きたか。 私達の村までもうすぐだ。 まだ寝てると良い」

今はどうやら馬車の中で、村に向かっている途中だった。レフトの近くにはアスモとリイロも寝ており、別に体に異常が無いらしく、レフトは更に安心してシールディアの言葉に甘えて寝る事にした。




「兄さんは食べるのが早いよ。 もっとゆっくり食べなよ」

ライトは世話好きで、よくライトが兄だと勘違いされていた。世話好きなのは母に似ており、村のお年寄りの話し相手や荷物運びを行っていた。父は寧ろその逆で、お年寄りが困っているのを分かっておきながらも無視したり、一日中酒を呑んで寝て呑んでを繰り返す日もあった。父の教育方針は

「男なら、誰にも助けを得るな。 一人で生きろ」




レフトは鼻がつつかれているのを感じて起きた。視界には目玉があり、驚いて飛び起きた。その目玉は小さなドラゴンの目玉で、苦しそうに飛んでいた。

「起きたようだね。 そいつは鞄龍・ヲゲナ」

シールディアがレフトが寝ていた寝室に入ってきた。鞄龍とは魔獣の一種の幻獣・共生類と呼ばれる存在で、ドラゴンの背中に鞄が引っ付いた状態で、余り飛ぶのが得意では無い生物だとシールディアから教わった。ヲゲナはレフトを気に入ったらしく、レフトの周りをグルグル回ったり、龍にしては可愛げのある鳴き声を高らかに上げていた。


着・ソムサヂ村

ソムサヂ村は、禊の森を抜けて、レフトが目的のミバヤコルホに近くて、レフトが持っていた地図では西に位置しており、村からは海が見えており、ヌヌメイ村と似ていて、お年寄りが多くて村には、教会が建っていた。その教会に隣接してある建物にて、レフトは寝ていた。しかし、違和感を感じた。違和感を感じているのを察したのか、シールディアが口を開いた。


「この教会のお陰で村全体は守られている。 実は騎士だけではなく、聖女としても私は担っている」

そういうシールディアは聖女としての礼服を着ており、何だか恥ずかしそうにしていた。村から見える海は透き通っていて、瘴気を感じず、魔獣の匂いもしておらず、住民が元気そうにしていた。

「そろそろ、君の知っている事を話してもらおうか」




レフト、シールディア、アスモ、リイロは教会の内部にて、女神の象の前にて一度話をまとめる事にした。アスモとリイロはずっと寝ていたらしく、寝すぎてアスモとリイロは疲れ気味の様子だった。シールディアはそれを分かっておきながら、無視してレフトから話す様目で合図した。レフトはヌヌメイ村から来た事、ミバヤコルホを目指している事、弟を探している事、

を洗いざらい話した。続いて、アスモが禊の森と遺跡の出来事をシールディアに説明した。シールディアは目を瞑って時々頷きながら聞いていた。


「中々面倒事になったな。 で、一度ミバヤコルホ行ったんだな?」

レフトは頷いた。それに加えて、ミバヤコルホの時計台の

最深部であった世界が変わり果てた要因になった出来事を三人に伝えた。

「待て、お前は犯人を知っているのか?」

アスモが聞くと、またレフトは頷いた。その後の出来事もレフトは説明して、皆の反応を待った。シールディアは立ち上がり、女神の象の目の前で拝んだ。教会にあった机の引き出しの鍵を開けて、中にあった槍を手に取った。

「これからレフトには強くなってもらおう」




サニーンは目を覚ました。サニーンには記憶が抜けていて、幼き体がいつの間にか青年の体になっていたのに驚いた。サニーンは知らない建物にて寝ていて、周りには武器や装飾品、工具や骨董品といった倉庫として使われている場所だった。サニーンは取り敢えずここから出ようと、出口の扉に手を掛けようとすると、人の会話が聞こえてきた。サニーンは出口の扉を少しだけ開けて、覗き見た。


「聖女様、忘れてないか? 」

「俺正直、早くあいつ始末しないと気持ちが持たないぞ」

サニーンはその会話で察した。サニーンが知らない内に自ら何らかの罪を背負った事に。二人が立ち去るタイミングを見て、出口の扉を開けて逃げようとしたが、サニーンから見て真後ろの扉が開いた。サニーンは何かに隠れる暇なく、明かりがついた。


「忘れてしまって、申し訳ない。 サニーンで合ってるかな?」

サニーンの目の前にはシールディアが現れた。次いでレフト、アスモ、リイロが現れた。シールディア以外は一斉に手を差し合って、驚いた。アスモは剣を手に取って、サニーンを切り捨てようとしたが、咄嗟にシールディアに阻まれてた。シールディアはアスモから剣を奪い取って、サニーンに投げ渡した。

「それを手に取れ。 サニーンも鍛え直してやろう」

サニーンは戸惑いを見せたが、レフトが頬を緩まして頷いた。サニーンはそれを受けて、希望を感じた。自分は何をやらかしたのか。自分は生きる資格があるのか。そう考えてしまっていたが、ここにサポートしてくれそうな人間がいると感じて、サニーンは剣を手に取って立ち上がった。サニーンとレフトはハイタッチした。


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