第九話~駄々こね女神様~
「お~~に~~く~~が~~た~~べ~~た~~い~~!!」
「……」
「おにく~! にくにくにく! 肉を食わせろー!」
「……」
「O! N! I! K! U! おにく!」
「……」
「肉料理を希望します! ミミガー! ラフテー! ソーキソバー!」
――何で沖縄料理ばっかりなんだよ。のどまで出かかった言葉をハルマはグッと飲み込んで寝たふりを続ける。
ヒキニートドラゴン・ハルマと、自称女神のエルフ・ホワイトの共同生活が始まって一週間が経とうとしていた。
魔法が使えることできのみだけの生活からは脱したハルマだが、言ってしまえば焼き魚が増えただけ。人間に比べて大食とはいえ味にこだわりがあるわけではなく、最低限の食事をとってあとは寝れればいいハルマにとっては特に苦ではかった。
しかし、ホワイトは違った。娯楽もなにもない退屈な森の中で、食事も変わり映えがまったくしないことに耐えられなくなっていたのだ。
ホワイトは、地面に仰向けに転がりジタバタと両手足を動かしながらグルグル回っていた。もう女神らしさを保とうとしない――そもそも最初から持ってなかったが――どころか、年頃の少女がとる行動としてどうなのかという姿を晒してなお、ハルマは見向きもしない。
しばらく駄々をこねていたホワイトも無意味だと悟ると、体を起こしハルマの体をぐいぐいと押す。
「ハルマさーん! お肉食べましょうよ! この森、動物だっているじゃないですかー!」
ホワイトの言う通り、森にはハルマとホワイト以外に兎やイノシシのような食料になりそうな動物も見受けられた。一瞬で全てを灰燼にしてしまうブレスはともかく、ドラゴンの五感、反射神経、圧倒的なフィジカルをもってすれば、ただの動物など一撃だろう。
だが、ハルマにはそれをできない理由がある。おなじみ、彼の黒歴史だ。
あれは中学のころ。理科の授業の一環で、ブタの眼球を解剖する授業があった。
当時から太っていたハルマは同じ班の不良に「お前がやれよ。ブタなんだからできるだろ」と訳のわからない理屈で押し付けられ、他の班員が談笑を始める中、一人黙々と眼球をピンセットで抑えたりメスを突き刺したりしていた。その時の感触がトラウマとなり、以降ハルマはグロい系のものを見ると吐き気がするようになってしまった。
例え狩りが成功したとして、食べるためには解体作業をしなければならない。想像しただけでハルマは気分が悪くなる。
「……っていうか、ホワイトが自分で獲ってくればいいじゃん。魔法使えるんだから」
「狩りは、男の仕事です!」
どんっ! と効果音が聞こえるくらいきっぱり言い切ったホワイト。性的差別にうるさい昨今SNSにでも上げれば炎上しそうなセリフだが、生憎ここは異世界で、彼女にクソリプを飛ばすものはいない。寧ろハルマはクソリプを飛ばす側だった。
「それに、魔法だって無限に使えるわけじゃないのですよ。もし仕留めそこなって魔力が尽きてしまえば、私なんてただの可愛いエルフでしかないのですから」
急にもっともらしいことを言い始めるが、その前の一言が原因で信憑性に欠ける。ハルマはじと目を向けたまま微動だにしない。だがそれでもホワイトは諦めずに、スーパーでおやつをねだる子供のような顔でハルマの鼻を叩く。
「ねぇ~ハルマさーん! このままじゃ私、ガリガリになっちゃいますよー! 私のわがままボディが無くなっていいのですか? わがままな性格だけ残した素直ボディになっていいのですか?」
「寧ろ性格の方をなおしてほしいんだけど……」
「わかりました! じゃあハルマさんは捕獲するだけでいいです! 息の根を止めるのと、
そう言って自分の胸を叩く自称女神。相変わらずの物騒な物言いにハルマはげんなりする。しかし、捕獲だけすればいいというのなら話は別だ。なんだかんだ言ってハルマも肉を食べたくないわけではないのだ。ハルマはやれやれと首を振りながらようやく重い腰を上げる。
「……わかったよ。やれる範囲でやってみる」
「やったぁー! おっ肉おっ肉ー! 豚丼! ザンギ! チンギスハーン!」
……ジンギスカン、と言いたかったのだろうか。
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