第3話。花を散らして・・下巻。

そして始まった晩餐会。リッキーは挨拶回りの奔走する中、叔父に捕まり酒を飲まされていた。この男は体育会系、まさかこの世界で野球?いやいやこの時代の剛腕、豪胆といえば騎士団だ。その名に恥じない顔にはもちろん一文字の傷、脱げば傷がないところを探す方が大変なお方だ。


叔父)「おー、リッキー王子は大きくなったな!もう、飲めるだろ」


リッキー)「お久しぶりです、叔父さん。いえ、まだお酒はまだ・・」


そんな言い訳が通用する訳もなく、肩を抱かれ逃げられないリッキーは酒を飲んだ事はあるがしかし今回はその量を遥かに超えている。手に握られている大きめのグラスには並々と注がれたワインが揺れその時を待っている。覚悟を決め飲み干すと勝手に赤い悪魔がスタンバイする魔法のグラスだ。


叔父)「さあ、3杯目行こうか!」


今日、今晩、俺はここで終わるのだろうと諦めが顔を見せた時リッキーに助け舟が出され選手交代だ!


「叔父様、私にも注いでくださいませ」


「おっアウローラ、君は飲めるのか?そうか、ほれ飲め」


「もちろん、飲めますわよ頂きます!」


グラスに半分ほど注がれたワインを二口で飲み干し、叔父に大き目のグラスを返杯と称し渡すとお話をしながら交互に数回繰り返す。リッキーはウインクをすると静かに離席を果たし他の貴族の元に挨拶に向かう。そう、そして何杯目だろうか、赤い悪魔に取り憑かれた叔父の呂律が怪しくなってくる。


「あうりょーらは強いな」


「あらあら、飲み過ぎですよ叔父さま」


「しょうだにゃ」


「叔父さま、わたしお色直しで退席します」


「あー、わかっひゃ」


リッキーは叔父から解放された後、変わらず杯を重ね今は酔い覚ましの為にベランダに出ていた。そこに様子を見に来たアウローラが現れるた。


「んー、少し酔ったよ、あの時助けてくれてありがとう君は酔ってないの」


「あー、私はアレくらいなら大丈夫です」


「ンンー、酔うと気持ちがいいね夜風が心地いい、君は可愛い顔して酒に強いね」


酔って自分の感情を素直に喋るリッキー、普段口にしないことを思わず喋ってしまった。


「リッキー、酔ってるね!普段、私の事を可愛いって言わないよ」


「そうだね、君のことが好きだけど立場が許してくれない!俺には婚姻の自由が無い!」


「うわぁ〜今日は大胆ね、けど、ほらほら聞こえるよ」


酔った勢いで、自分の気持ちと不満を大声で言い放つリッキー、ガラス越しに数名の貴族がそれを、青春の主張と思い苦笑いし聞いていた。


「いいんだ!」


「私もリッキーのこと好きよ」


「ふふ、ありがとう」


2人ともお酒の力を借りて開放的になりお互いの気持ちを素直に述べる。まぁ、好きと言っても、物凄く仲の良い友達同士と言うくらいの認識のはずだ・・。


「ねぇ、気づいている?時折り陛下に挨拶に行く見慣れない男女の組み合わせ」


「ん、何だ?あー、今日は秘密の相瀬の会だったな、やっぱ凄いな、陛下に貰った不妊の薬を使って発散する2人」


「そうよ、数年に一度あるこの時を待っている意味深な男女の研ぎの時間よ、ねぇ、私達も仲間入りするのかな」


「それって君と僕?」


「そうよ、血が近く結ばれない男女の快楽の時間」


「アウローラも酔ってるね、大胆発言連発!」


「ふふ、そうかもね」


実はこの晩餐会、身分差、血縁関係が近くなど結ばれなかった男女の願望を叶える特別な会なのだ。それは不満を出来るだけ抑え、且つ王族が絶対的権力を維持するのが目的と言われているが、実は貴族の数をコントロールし”神”リゲル支配管理し易いように仕向けていたのだった。


ーー


2年前、とある貴族の自室では片手に教本を片手に母親が娘に重要な事を教えていた。それはガルーダの掟の一つだ。


「アウローラ、あなたは先月、”月の物”が来ましたので、これから婚姻に関して重要な決まり事を教えます」


「はい、お母様」


「それではこの一文を読んでみてくれないかしら」


「はい」


>>>

王族は神の忠実な僕、庶民との婚姻を禁ずる。婚姻に関しては4親等以上離れた王族、または上級貴族以外認めない。


上級貴族は貴族以外の婚姻を認めない。


下級貴族に限って庶民を側室にしても構わない。


但し。


1、出生不明、犯罪履歴のある家族は不可。


2、側室は完全に家族との縁を切り、今後一切、親族としての関わり合いを持てない。


この、約束を守らない場合、生まれた子供は速やかに処分される。

>>>


「お、お母様、しょ処分とは・・」


読み上げ終えたアウローラは驚いている様子だ。それもその筈、婚姻の自由がほとんど無いこれは昔から決められている神の意思なのだ、もちろん守らなければそれ相当の天罰処分が下る。逃げようが隠れようが必ず確実に生まれた子供は乳離れ終わる頃ある日突然姿を消す。その時決まって魔獣が目撃され人々はブルムードに連れ去られたと思い考えこの戒律を絶対破ろうとはしない。


「ええ、だから貴族には必ずこれを教え守らせ未然に防ぐのよ」


「わかりました」


中世の世でもここまで厳しい決まりは無いガルーダ特有の決まりだ。攫われた子供はブルムードに連れて行かれ、男の子は労働力として使われ、女の子は慰み物として使われたり娼館に売られたりする。


「貴方にもし好きな人が出来てもこの事だけは頭の片隅に置いてね。それと来年からは少しずつ、床の作法を教えることになるわ」


「えっ、はい、わかりましたお母様」


「だってあなた3年後には婚姻相手が必ず決まるのよ、礼儀作法と同じで細かいことを教えるから時間が必要なの」


「はい、わかりました」


ーー


「ねぇリッキー、結局こうやって息抜きさせないと貴族社会が崩壊するからでしょ」


「大きな声じゃ言えないけど、王族が絶対的権力を維持する為と称してるが、貴族の数を増やさないのが真の目的なんだ」


「けど、これ決めたのは神だよね」


「そうだよ、この国の決まり事は全て神が決めている。アウローラ、神の事はあまり探らない方が良いからその話はもうやめよう、お腹が空いたよ会場に戻ろうか」


「う、うん」


少し怖い顔になったリッキーに驚くアウローラ。2人は会場に戻ると陛下はもう下がり晩餐会というより飲み屋状態だった。王族専用テーブルに移動すると手付かずの料理が残っていた。侍女たちが察したのか衝立を運び込み周りから見えないようにしてくれる。


「リッキーはお酒しか飲んでなかったからお腹すいたの?、私もほとんど食べてないのよ」


「ふふ、遅めの晩餐会だね」


酔っ払いに邪魔される事なく食事を楽しみリッキーとアウローラは酔い覚ましを兼ねて庭に出て行った。


リッキー)「僕は酔いがまだ冷めてないから、少し歩きながら夜風に当たってくる」


アウローラ)「私もお供します」


王宮の外に出た2人はゆっくり歩き、気がつけばいつもの庭園の入り口の近くまで来ていた。


「ふふ、暗闇の庭園は不気味ね、何か少し遠くで何か聞こえない?」


「んっ、何か聞こえる?あっ!」


庭園の奥からは何かうめき声のような声が聞こえ、恐る恐る近づくと聞こえてきたのは艶のある声だった。そう、離れには行かずに庭園で情事を行っていたのだ。興味があるのか2人はそのまま覗きを始めた・・。


「あっ、ああ、イイ」


「えっ?やっぱり(小声」


「ふふお楽しみ中ね、ねえちょっと覗こうよ(小声」


コソコソ喋っても、用心をしながら盛り上がっている男女に聞こえない訳が無い。気がついた男が2人を威嚇するように怒鳴り散らし次にドドドと暗闇から足音が響き確実に2人を追って来ていた。


「誰だ!人の行為を除く馬鹿は!出てこい!」


「ヤバいよ逃げなきゃ」


「まずいよ、早く」


「ゴラァ、待てー」


急いで逃げ出すがその男は足が速いらしく足音はどんどん近づいてくる。懸命逃げ小屋に繋がる穴に辿り着くとアウローラを先に入れ後からリッキーが入り数秒後。ドドド、結構な重量感のある足音が通り過ぎる。追われる2人は息を潜めながらゆっくり小屋の中に逃げ込んだ、しかし足音と怒号がまだ庭園の中から聞こえてくる。


リッキー)「あー、当分帰れないかな、絶対大きな声で喋っちゃ駄目だよ(小声」


「そうね、しつこそうな奴だったね(小声」


リッキーは真っ暗な階段を注意を払いながらアウローラの手を引き2階に上がると床にハンカチを敷くと座らせた。


「僕が周りを警戒するよ」


「ふぅ、走って疲れたわ、お願いね王子様」


「クッソー逃げやがって!」


女)「ねぇ、ここは人が来ないって言ったじゃないの」


追っていたあの男の声が聞こえ相手の女も追って来たのだろう、なんとなく影が動き会話の中身も丸わかりだ。その場所は穴の近くの行き止まりの辺りからだ。


「ねぇ、物凄く近くない?(小声」


「そうだね影が見える(小声」


女)「ねぇ、人の来ない所ないの?早くしようよ」


「しょうがねーな、よいしょ」


男が行き止まりの所にある地面の土を払うと板が見えそれをどかすと大きな穴が現れる。


「小屋の中に入れば声は聞こえないだろ、庭師から聞いたんだ最近、王子が秘密基地と言って綺麗にしてくれたから使える筈だ」


「そうなの、よく知っているわね」


「やばいよ、やばいよ入ってくるよ」


いきなりピンチになるリッキー達は慌てるが逃げ場が全くない、即座に下に降り踏み板を外しアウローラ渡しながら2階に登り終えた瞬間、その男女が小屋に入ってきた。


「うーん、暗くてよく見えないわ」


「ほら、これで見えるぞ」


カチ、カチと蝋燭に火を灯し周りが少し明るくなると2人は抱き合い、気分を盛り上げ始め時折吐息と歓喜の声が上がり、艶かしい唇が触れ求め合う音が聞こえ隠れている2人はただ黙ってやり過ごすしか無かった。


「もう、だめよ先に薬を飲まなきゃ」


「ああ、終わった後でもいいんだろ」


小さな薬を口に含み女はカリッと割り飲み込む、いよいよその時が迫って来ていた。


「ふふこれで大丈夫ね、けどここには誰もいないわよね」


「2階はあるが階段が無いから誰もいないだろ、ちょっと見て来るよ」


男は蝋燭を高く挙げ二階に誰かいないか確認を始め、光が差し込んでくるとそれを避けるように寝っ転がり闇に身を隠す。幹に足をかけさらに奥を覗こうとするが途中で諦めまた闇が戻って来る。難を逃れた2人はピッタリ抱き合うような状態だ、危機が過ぎ去り安堵すると途端に力が抜けお互いを見合っていた。


「誰もいないぞ、おお良いね」


「ほらあなたも脱いでこっちにおいでよ」


既に女はドレスを脱ぎ下着姿だ、男は服を脱ぎ床に引いた布に絡み縺れる様に沈んでいく。とうとう始まってしまった情事は止まる事なく先に突き進み、歓喜の声が小屋の中を駆け巡り、若い2人はその喜びの声を強制的に聞くしか無かった。


「ん、あっ、んん、あっ、いいよ、そこ、ねえ、我慢できない、お願い」


闇の中抱き合っている二人の体温はあがり、強制的に聞こえる大きな艶のある声に刺激されっぱなしだ。アウローラは歓喜の声で蕩けきっり熱い吐息を漏らし、下腹部には硬くなった”凶暴なアレ”が太ももに触れ、罪悪感があるのか恥ずかしいのかお互い目を合わせないようにしていたが、目があった瞬間にお互いが唇を求め合う・・。


「おー、俺、もうだめだ!」


「私もよ、もうすぐよ!」


絶頂を迎えはぁはぁと荒い息遣いだけが部屋に響き、静寂が戻ってきたが部屋の中は熱気が篭っていた。


「ふふ、次はベッドで愛してよ」


「おう、朝まで寝かさないぞ!」


少しの間絡み合っていた男女は程なくすると性欲がが湧き上がるのかそそくさに服を着ると小屋を出ていく。そして二人の足音が遠ざかれば遠ざかるほど、暗闇から若い男女の粗い息遣いが段々強く激しく小屋の中を駆け巡る。


「アウローラ、君が欲しい」


「私もよ、あなたが欲しいのリッキー」


意外すぎるアクシデントが引き金になり、戒律など忘れ自制することなくお互いを受け入れ求め合う二人は我を忘れ快感を貪るのだった・・。


ーー


そして王宮全体が遅めの朝を迎え宿泊客は食堂に集まっていた。若い二人は疲れも酒が抜けるのも早いもう元気いっぱいだ、軽く微笑み合う2人の雰囲気はもう恋人同士のそれだ。


「ねえアウローラ、体は大丈夫?」


「うん、その事なんだけど薬もらえないかな」


スっとアウローラに小さな包みを渡すリッキー。


「昨日寝室に戻るとき離れの近くで拾ったんだ」


「わかったありがとう、けどダメね欲望に勝てなかった」


「ごめんね、何も考えてなかったね」


カリッ!薬を口に入れ割り、そしてお茶と一緒に飲み込んだ。


「2人の秘密基地で2人だけの秘密が増えちゃったね」


「そうだね、バレないようにしないとダメだね」


「うん」


そして1週間後。。


リッキー)「ねぇ、あそこに行かない」


アウローラ)「イイよ」


求め合う2人は快感に耽りたいのか少し紅をさし、無言で庭園の秘密基地に消え中に入ると抱きしめ合いお互いを確認すると簡易に作られたベッドに体を沈めていく。


「うん、まだちょっと痛いけど憂しくお願い」


「嗚呼、気持ちいいよアウローラ」


「うん、私も気持ちいいよリッキー」


最初は遠慮しがちで恐る恐るその行為を楽しんでいたが、回数を重ねるごとに身体に変化を齎しいつのまにか快感の虜になり堕ちていく。


「おおお、今日は一段とイイよアウローラ!」


「リッキー!駄目、声が大きいよ」


2人は会うたびに感度が上がりそれはヤバい薬のように快感という常習性を味わい尽くしていた。隠れ家で行われるスリリングな情事は歓喜の声を押し殺し表現出来ないことが逆に気持ちを昂らせていた。


「んん、ん、あーん、もう貴方に毎日愛されたいよ(小声」


「今日も素敵だよローラ、君は最高だ(小声」


若い二人の性欲は尽きる事がない、只ひたすら求め合っていた・・。


マッダ)「あら珍しいわね、今日は王宮でお茶なの」


アウローラ)「ええ、そうよ(汗」


「庭園には行かないんだ、リッキー兄様」


「そ、そうだね(汗」


ジーっとマッダはリッキーを見つめている。


「なんだよ」


「フッ!(月の物で一休みか・・」


アウローラ)「・・・・」


「ねぇ、アウローラは最近、色気が出てきたわね」


「!?」


勘のいいマッダは食堂でみた2人の雰囲気を見抜き、毎回侍女達と覗きに行っていたのだ・・・。


終わり。

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