第3話 冒涜をも興奮に変換する変態

 耳を疑うと同時に、俺の中で怒りがふつふつと湧いてくる。


 元の世界に戻すって言うから釣られてみたら……なんだぁ? 童貞卒業だあ? 舐め腐ってんじゃねーぞこのコスプレ女がッ!


 童貞を前提に話を進められていることに怒っているんじゃあない。


「神であるこのあたしからの試練を、乗り越えてみせろ。新山慎太」


 果たすことが不可能な試練(笑)を与えてきたことに怒っているのだ。


 乗り越えてみせろ? 乗る女の子もいなけりゃ、乗ってくれる女の子もいないこの世界でどうやって童貞を卒業しろってんだよッ、ああッ?


 そう……異性はおろか、この世界には誰もいない。


 ……あぁ、いや、忘れてたわぁ。いるじゃないかぁ、俺の〝目の前〟にぃ。しかも容姿だけはとびきりの異性がさぁ……。


 つまりこの茶番は、自称神様の遠回しすぎるセックスのお誘いなんだと、俺は結論付けた。


「……何故、服を脱ぐ?」


「えぇ? そりゃ脱ぎますともぉ。そうしなきゃ試練を乗り越えられないでしょう?」


 俺はさっき着たばかりの服を脱ぎ、とりあえず上半身裸になる。


「た、確かに試練に望むのであれば脱ぐ必要はある……けれど、今はまだ、その時ではない」


「なにをおとぼけになってらっしゃるのですか、神様ぁ……今がまさにその時じゃないですかぁ」


 そしてズボンも脱ぎ捨て、パンイチに。


「き、君はまさか――――神であるあたしを対象にしようというのかッ⁉」


 俺は舌なめずりをしながら頷き、一歩、また一歩と、自称神様へ向かっていく。


「――君がすべき相手はあたしじゃない! 他にいる!」


「他? そんなのいませんよ。一ヵ月と少々、決して少なくない時間を俺は、この腐った世界で過ごしてきたんです。だから自身を持って言えます。俺がすべき相手は神様、あなただとね」


 俺が歩みを進めると、自称神様は後ずさる。自分から誘っておいて逃げるとか……可愛いなぁおい。


「今はいる! あたしが他の世界から招き入れた客人が複数いる!」


「そうなんですかぁ……でも俺、自分の目で見たもの以外は信じないたちなんですよぉ……」


「か、神への冒涜は、許されざる行い」


「そうですねぇ……興奮します」


 自称神様を壁際まで追いやることに成功した俺は、勢いよく壁ドンをかました。


 ビクッと自称神様の肩が跳ね上がる。


 さっきまでのおごそかな振る舞いはどこへやら、俺よりも一回り小さい自称神様は、怯えた猫のような顔している。


「もしかして、神様も初めてなんですか?」


「君には関係ない……は、早く、そこをどいて」


「あらあらぁ、強がっちゃってまぁ。だあいじょうぶですよぉ、知っての通り俺も初めてですからぁ…………あ、こういう場合は男の俺がリードしなきゃ、ですよね…………それじゃあ手始めに――――すっかり元気を取り戻した俺のおティムティムを触ってみてください」


「い……いやぁ」


 恐る恐るといった具合で俺のおティムティムを見やった自称神様が、いやいやと首を横に振る。


「なにを今更恥ずかしがっているんですかぁ……俺のを生でご覧になった時も、顔面コーティングされた時も、平然とされてたじゃないですかぁ……あ、もしかしてあれも強がりだったりしましたかぁ? もう、神様ったら」


「……………………」


 もはや自称神様の瞳は、涙で一杯だった。


「わかりました。じゃあ僭越ながら、俺を導いてくれた神様の手を、俺が導いて差し上げますね」


 そう言うや否や、俺は自称神様の手を取った。


「いや……やめて!」


 抵抗と呼ぶにはあまりに非力だった。故に導かれる、俺の股間へと。


「やさぁしく、やさぁしくお願いしますね? ふふッ、神様の手を人間風情の俺が導くなんて、とんだ罰当たり者すぎて自分で自分を笑っちゃいますよぉ」


「――いやあッ!」


 それは一瞬の出来事だった。


 たった一回、たった一回瞬きをしただけ。それだけで自称神様を見失ってしまった。


 ……見失ったんじゃない――消失、消えてなくなった。


「嘘…………だろ?」


 目を疑うような出来事に、俺の思考が鈍化する。


「本当に……神様だったと、いうのか?」


 俺にはできない……いや人間にはできない、まさに〝神業〟。


 そんなもんを見せられたらもう……信じる他ない。


「――あのーッ! 誰かそこにいるんですかーッ!」


 どこからか声が聞こえてきた。俺でもなく、自称神様のでもない声が。


 自称神様……いや、神様は――全部本当のことを言っていたのか。

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