第2話 自称神様からの試練(笑)

 雄弁は銀、沈黙は金とは言うが、果たしてそれはあっているのだろうか? 俺と眼前にいる女の子の間で生まれているこの沈黙は金でも銀でもなく銅ではないだろうか?


 そもそも順番が違う気がする。だってそうだろ? この沈黙は俺の〝金〟からスタートして〝チン〟の先から放たれたことで発生した沈黙なんだから。


 いや、そんなのはどうでもいい。何故、俺はこの状況で冷静でいられるのか、そっちの方が問題だ。


 こんなに可愛い女の子の顔面を俺の白で汚してしまったのに、どうして落ち着いていられる? 究極の難問だよこれは。


 ……あ、そっか! 賢者タイムと壊れた精神が相まって仏のような状態になっているんだ! 俺ってば天才すぎだろ!


「「……………………」」


 ――じゃねえだろおおおおおおおおおおおおおおッ!


 おまっ、これ――顔〇しちゃってるじゃねえかよおおおおおおおおッ!


 どうすんだよこれ、女子と交わったことすらねえのに顔〇って段階超えすぎだろ!


 てかこの子、なんで無反応でいられるの? 己の顔にぶっかけられてるんだよ? A〇の最後の方の女優みたいになっちゃってるんだよ? 『顔にかけて♡』の数秒後みたいになっちゃってるんだよ?


 怒り狂うなり喜ぶなり、なんかしらリアクションしてくれよ! 困るんだよこっちが!


「……新山慎太」


「え? あ、はい!」


 なんで名前を知ってんの? という純然たる疑問はひとまず置いておき、俺は背筋を伸ばして返事をした。


 見目麗しい女の子は、おもむろに顔を横に向け、小さく言う。


「……とりあえず、服を着なさい」


 言われてハッとする。俺は全裸だったのだと。


「す――すいません! 今すぐに!」


 最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ! とんだ醜態を見ず知らずの女の子に晒してしまうなんて!


 俺は自分を呪いながら、近くに放っておいた衣服を手に取り、急いで着用する。


 着替え終わるや否や、俺は女の子の前に立って深く頭を下げた。


「本当に申し訳ありませんでした!」


「いい。これしきのこと、全然気にしてない」


 え? これしきのこと? 全然きにしていない? …………正気か?


 失礼ながら俺はそんなことを思ってしまった。


 俺は確認するように顔を上げる。女の子の顔面に付着していた白は既に消えていた。


「あたし――〝神様〟だから。だから人間のすることに対していちいち目くじら立てたりしない」


 あ、この子、頭イッちゃってる子だわ。既にイッちゃってる俺はそう直感する。


 金髪きんぱつ碧眼へきがんにゼウス(笑)が好んで着てそうな服装、言われてみればそれっぽい格好をしているが……あくまでも『ぽい』だけ。コスプレ好きな外国人にしか見えない。


 歳は俺とさほどかわらないようだけど……まあでもそうだよな。誰にだってそういう時期、あるよな。


 一人納得する俺に、自称神様は淡々と告げる。


「信じるも信じないも君の勝手、あたしは事実を語るまで――――ここはあたしが創りだした世界、そしてここに君を導いたのも神であるこのあたし」


 あーはいはいそういう設定なのね。


 正直、美人が台無しになるレベルで彼女は痛いヤツだった。しかしそれをなりきっている本人に直接伝えるは酷というもの。とりあえず俺はうんうんと相槌を打つ。


「光栄に思うがいい。君は選ばれたのだ、神であるこのあたしに。そしてありがたく思え、神であるあたしから試練を与えられることを」


 やたら神を主張してくんなぁコイツ。というかもはや誇示こじだよ、嫌われちゃうよ? そういうの。


「あのぅ……ちょっと意味がわからないんですけど、その試練ってなんですか?」


「試練は試練。あたしが与えた試練を乗り越えてみせたらその時は――――君を元いた世界に戻してやろう」


「…………はぁ。で、その試練とやらの内容は?」


「――〝童貞からの卒業〟だ」


 ……………………あ?

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