この世界から解放されるにはセックスするしかない~誰もいなかったはずの世界に招かれたヒロイン誰かとセックスしろとか、童貞の俺には少々厳しすぎる気がするんですが?

深谷花びら大回転

第1話 イキそう! ってなった瞬間にはもう、手遅れなんだよ。実際、イく瞬間てのは手の動きを遅くするもんだろ? な?

 静かな朝……静かすぎる朝。


 陽は出ているのに、自分が奏でる生活音以外は一切聞こえてこない。


 鳥の鳴き声も、忙しなく行き交う車の音も、会話も、なにもかも。


 小さい時から目にしてきた街の風景から、人の姿だけがなくなった。


 いや……人だけじゃない。動物も、虫も、なにもいない。草木の緑を抜きにして、俺以外に生命が存在しない。


 でも、もう慣れた。世界でたった一人という環境を、かれこれ一ヵ月と少々すごしてきたのだ。そりゃ順応するさ、だって人間だもの。


「――よおし! 今日も一日頑張るぞおッ――おおーッ! って、なにを頑張るってんだよ! 俺!」


 独り言の虚しさも、とっくに忘れてしまっていた。


 そんな俺は今、全裸で高層ビルの屋上、果てしなく遠い地を見下ろせる位置に立っていた。


「ふっふっふ……シコエッチパワーが溜まってきたぜ」


 そして――っていた。


「逝くぜ――45454545454545454545454545454545454545ッ!」


 世界で一人の状況に順応したというのは……嘘。


 いかにも一人を謳歌しているように見えるが違う。


 この静かで寂しい世界によって――精神が壊れただけだ。


 ――――――――――――。


 俺の名前は新山にいやま慎太しんた。高校生をやっていた。


 え? どうして過去形なのかって? はッ、愚問だな。元の世界、つまり生命が蔓延はびこっていた世界なら自信を持って高校生を主張できたが、この世界じゃそうもいかないんだよ。なんせ、高校に行っても誰もいないんだから。学校として機能してないんだから。


 つまり俺はなんの肩書きも持たない一人の人間。この世でたった一人の人間……あ、それが肩書きでいいかも。というかなんでもいいや。


 初めのうちはどうしようもない寂しさに苛まれていた。家族も、友人もいない。それどころか人っ子一人いない世界に絶望し、無力に嘆いていた。人間として正しい反応ができていた。


 だがしかし、人間として正しかったのはあくまで過去の話。寂しさや絶望感も、日が経つごとに薄れていき、今じゃなんとも思わなくなっている。感情が死んでいるのだ。


 そんな俺が今日まで不自由生きてこれたのは、生活環境が整っているからに他ならない。


 何故か生きているんだ……水道・電気・ガスといったライフラインすべてが。


 おかげで衣食住に困らずに済んでいる。


 服はそこら辺にあるアパレルショップからいつでも拝借できるし、食は冷凍食品や保存食で補えるし、住居に至ってはぶっちゃけどこでも使いたい放題。家やらホテルやら全部がマイホームと言っても過言じゃない。


 考えようによっちゃここは楽園なのかもしれないけれど、俺はそこまで能天気じゃない。


「――クソッ! 雑念が邪魔してシコエッチパワーが……もっと、もっと集中するんだ! 4545454545454545454454545454545ッ!」


 ビルの屋上で全裸のままシコエッチパワーを解き放とうとしている俺が、なによりもの証明。


 だからこそ、この時は心底驚いた。言い換えれば久しぶりに〝正しい人間〟に戻れた、だ。


「――新山慎太、お話があります。今すぐ服を着て、こちらへ」


 自分で発する以外の〝肉声〟を耳にして。


「だ――誰だッ⁉」


 声がした方へ体を振り返らせると同時に、俺のビックマグナム、その先端から勢いよく――〝白き銃弾〟が射出されてしまった。


「……………………」


 やってしまった……。これもまた、人として正しい感情。またの名を後悔という。


 振り返った先にいたのは可憐な乙女、その顔面が〝白き銃弾〟によってコーティングされていて、とてつもなく悩ましい感じになっていた。

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