AIの無神論

 正平は「SS」の正体について、その原因を発見した。先日のプログラムの大修正。その際に、AIの会話生成プログラムの中にPCアカウント名が紛れ込んだらしい。こうなってしまっては、気象が「人工的」であることが白日のもととなり、正平の研究にとっては甚だ都合が悪い。AIたちには、「かれらの現実」に生きてもらわなければ、「我らの現実」の実験台として使えないのだ。

 正平はなんとか軌道修正をしようと試みた。そしてログを彷徨ううちに、サエというAIを発見した。彼女は一度も「SS」の存在を肯定していない。彼女の言説を広めるのに力を貸し、SSを街から排斥しなければ、正平はそう考えた。そして、そのためのプログラムを組み込み始めた。


 最近の街では毎週土曜日に公民館でSS集会が開かれていた。サエは絶対に足を向けないつもりでいたが、なぜか、どこからか突き上げるような衝動に駆られ、その日は集会に出席した。

 いつもの男がこの世界、なかんずく気象は神が意図的に操作していると大演説を打ったあと、質疑応答の時間をとった。いくつかつまらない確認程度の質問が出たあと、サエは意を決して挙手した。

「そこの若い女性、どうぞ」

発言を促され、サエは言葉を紡ぎ始めた。

「この世がSSに操作されているとすれば、私達はなんのために存在しているのでしょう。しかもSSは気象にしか関心がないようです。私達はモルモットなのですか?私の心にもなぜかSSという響きは自然なものとして感じられるようになってきました。しかしそれはほかの流行語もおなじことです」


 正平は、そこで時間を止め、その言説を他のAIたちに刷り込んだ。

すると、サエの言葉に呼応して数人がざわつき始めた。

壇上の男は場を鎮めるように手を振りかざすと

「いえ、そんなことはありません。私はこれまでの気象について十分な研究を重ねた末にこの結論に至ったのです。SS以外にこれを説明することなどできないのです」

「自然現象について、その原因を調べ尽くしたなどというのは少し傲慢ではありませんか?これまでにもその種の宗教は数多く存在したはずです。そして、それらの宗教でイコンとなっていた、「奇跡」はことごとく科学の前に否定されてきたのではありませんか」

サエが滔々と論じると、さらに数十人にざわめきが広がった。今や、この場を支配しているのはサエだった。

「どんなに不可思議に見える現象だって、元をたどっていけば何らかの物理法則に従っている、非人格的なものです。今回の異常気象とSSへの熱狂だって、後世の人々からすれば歴史上の錯乱として面白い文化上の事象として映るでしょう」


 こうして、SS否定論が街に広がった。もはやSSを信じるものはほんの一部の異端者と化した。正平は安堵して、プログラムを手直しし、研究に没頭するのだった。


外では突然の豪雨に紗英が濡れていた……

 

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AIの無神論 淡 今日平 @Kyohei_Awai

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