SS

 正平はまたしても大きな障害に突き当たっていた。ソーラーコアが大規模なアップデートを実施したのだ。そのせいで、彼のAI都市プログラムにも大幅な手直しが必要となった。

「これだから、困る。変化が早すぎるんだよな」

正平は自分の研究のアイデアも誰かに先んじられやしないかと不安になった。そして急ピッチでプログラムを変更していった。

 どうにかプログラムが形になり、正平は早速、AI都市シミュレーションの画面を呼び出し、そして瞠目した。


「SSってのは何なんだ?」

「SSはきっと神様です、どうかお慈悲を」

「SSはこの街を救ってくれるんだ」

「SSなんて実在しない、ただの噂だ」


「SS」とは正平のPCアカウント名だ。なぜ、自分の名前が広がっているんだ?そんなことはありえないはずだ。急いで正平は会話のログ検索を走らせ、「SS」の文字列が最初に現れた会話を探索した。


 街の公民館ホールは遮光カーテンが引かれ、前面には大きなスクリーンが据え付けられていた。そして、その脇に一人の男が立ち、百人に届かない程度の聴衆に向かって、神と気象の関係性について大論説を打っていた。

「……ですから、現在の気象状況は明らかに意図的なのです。そして、気象を意図的に操りうる存在とは神にほかなりません。私はこれでも気象学を専門に研究するものです。熟考の末、この結論に至ったのです」

男は自信満々にそう断言した。その瞬間、前列に座っていた十数人が一斉に盛大な拍手をした。それにつられて後列の人々もバラバラと拍手をはじめ、会場は万雷の拍手に包まれた。それに気を良くした男はさらにこう続けた。

「さらに、我々はその神の名を知っています。それはSSです。これは誰からともなく私の無意識領域に湧き上がった単語なのです。みなさんにも心当たりがあるはずです」

そういうと、会場内の聴衆は「うん、うん」と頷いた。あるときから、会話をするときになぜだか思考の端々にちらついていた「SS」という単語。その正体が明かされた瞬間だったのだ。


 「SS」は驚異的な速度で街の会話を占拠していった。他愛もない会話でもそれはあらわれた。

「今日はSSの調子が悪そうなので休みます」

「こんにちは、SSはどうですか?」

「それはまた、SSの仕業でしょうね」

etc.etc.etc……。


そして、街はSSの一大教団と化してしまった。

そんな中、サエ一人は決してSSを認めようとはしなかった。いかに日々の異常気象が「不自然」に映ってもそれを受け入れるのを拒否していた。両親がSSを信じるようになったときは大分ショックを受けた。それでも自分は自立した人間であり、断じて動物園のカエルではないと信じ続けた。

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