神様の思し召し

「最近の天気はどう考えてもオカシイ!」

「そうだ!やはり乱開発の影響だ!」

5,60位の中高年が声を出した。

「確かに、最近の気象は変化がすごいですね。ただ……それとこれとは話が違うのではないですか?」

サエの父は内心辟易していた。確かに異常気象が増えているのは分かる。しかしそれとコンビニ出店は別だろう。さすがにそこまで安直に捉えるのはいかがなものかと言いたい本音を隠し、あえてゆったりと応えた。

サエの父は商工会議所の例会に出席していた。しかし、会議は踊り、このような、およそ見当外れな議題ですら意見が対立していた。リーダーとしてはなんとか穏便に落ち着いた議題に持っていきたいところだが……。

と、そのとき座の一人、40ぐらいの女性が挙手した。流れを変えてくれ、内心そう願いつつ、指名して発言を促した。

女性は神妙な面持ちで

「これは神さまの思し召しなのです。私たちのあまりに粗暴な振る舞いにお怒りを示しておられるのです」

しまった。彼女は最近水面下で広がりを見せている新興宗教の一信者だった。その教義の核となるイコンは気象だった。気象が乱れれば神が怒っているといい、祈りと正しい行い(有機栽培野菜を食べたり、野生動物の狩猟に反対したり)をすれば気象は正しく応えてくれるといった内容だ。議論は混迷の度を深めていった……。


 正平の研究は最近、かなり調子が良い。気象予報AIの精度の向上具合はまるで指数関数的に上昇していた。しかし、正平はそれが例のAI都市での実験のおかげであることは秘密にしていた。研究室の方針(ソーラーコアは使わない)に反して権限を勝手に使用しているということもあるが、なんとなく自分だけの玩具だという意識があったからかもしれない。ともかく、正平はドンドンとプログラムに手を加え、人工気象実験を繰り返していった。


 「だーかーらー、神様はいるって!」

サエの友人(遅刻魔の方だ)は少し苛立ったような、おちゃらけたような雰囲気で強弁した。サエもまた、ムキになった感じで反論する。

「神様はいないって。異常気象は地球温暖化の影響だよ。テレビでもそういってるじゃん」

「テレビなんて適当な台本に沿って適当なコメンテーターがしゃべってるだけでしょ」

サエは先日出演していた胡散臭い「脳科学者」を思い出し、言葉に詰まった。

「神様はいるよ。じゃなきゃこんなふうにおかしな天気ばっかり続かないよ」

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