土砂降り

 うんうん、順調にできたようだ。正平は先程自作した天候制御プログラムの出来を自画自賛した。正平は例のAI都市の天候制御プログラムを書き換え、数mメッシュ単位で天気をいじれるようにした。そして、それを弄んでみたのである。その結果、様々なAIの会話が生成されていた。

 正平は老学者との会談後、自分のアイデアを実験する格好の土台が目の前にあったことに気がついた。SNS上で語られる言葉も、AI都市での会話も、内容としてはそう変わりない。順序が逆になるだけなのだ。つまり、現実ではSNSでの会話内容から天候を予測し、AI都市では天候を制御したあとにどのような言葉が発せられるかを確かめるのだ。これがうまくいけば、自分の「本題」である研究の正当性に自信が持てるというものである。正平は次々に「人工気象」を人工知能たちに投げかけることにした。

 正平が次の人工気象を実行しようとしたとき、研究室に一人の女性が入ってきた。頭から爪先までぐっしょりと濡れている。

「タオルか何か、ある?」

ぶっきらぼうにそういった。

「紗英、どうしたのソレ」

正平はかつて恋人だった頃と同じ調子で応え、あたりを見渡した。そして、自分の着替えのシャツを一枚犠牲にすることにした。

「ありがと」

紗英もかつてと同じトーンで応え、無造作に正平のシャツで頭を拭った。

紗英とは半年前まで交際していた。が、なんとなく「熱」が冷め、その恋路は自然消滅していた。

「どうしたの、そんなになって」

「いきなしよ。ザァーって。予報なんて全然当てにならない」

「災難だったね。全然気づかなかった。僕が来るときはすっかり晴れてたのに」

「まあね、でも斉藤先生が少しはマシにしてくれるんでしょ?」

紗英は髪を絞りながら茶化すように言った。

「鋭意、取り組んでいるところであります」

正平も茶化すように返した。

紗英は正平のシャツを持ったまま自分のPCに座り、何かの作業を始めた。正平も気を取り直して人工気象の作成に取り掛かった。

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