第6話

 ちょっとまっとれと言われてちょっと待つあたし。えらいなあ。


 なんか念を送ってるなーと思うと、こちらに向けて笑顔を向けるラスク。

 はああかわいべろべろちゅっちゅいやファイアは熱いからヤメテ! あー耳が焦げたー!


「あほたれ、自業自得じゃ。いま迎えが来るとのことじゃよ。入り口で待機しておくれとのことじゃ」

「なんか組合とかあんの? 入ってるの?」

「秘密じゃ」


 そして止まる馬車が一台。え、4人乗り馬車なんですけど。


 すっと執事? みたいな男性が降りてきて。


「お待たせ致しましたお嬢様。さあ、馬車へどうぞ。お仲間様もどうぞご一緒に」

「なにをよんだのらすくくん」

「人を呼んだのじゃ。ほれいくぞ」


 さっさと乗るラスクちゃん。動作が慣れてる。

 きつねも乗ったよ。一回馬車へ乗る階段みたいな置物に引っかけてコケたけど。


「ボタンは都市内馬車とか乗ったことないのかの?」

「馬車なんてほとんど乗ったことないよ。交易馬車が来るときくらいだね。基本歩けばいいし、走れば馬より速いし」


「そうか。わらわは結構乗るのじゃ。楽ちんじゃし、歩幅が短いからな。まあ、拉致されて財産をほぼ失う前までは、じゃが」


「あ、やっぱり取られてるんだ。私は花草水月と翠乃沃土を取りに行った際に一ゼニ無しになっちゃったね。あの寒村でお金稼ぎしてたところよ」


「さすがに何もないハイ・エルフが道ばたを歩いて追ったら攫われるわい。道具をたーくさん持ち歩いとった。それでも旅は失敗しかけたが」


 お互い大変じゃのー、いいつつ馬車はとある場所へ。

 大きい屋敷だな。でも商店もやってそうだ。


 内部へと案内されるのでずけずけと入る。

 さすがに着流しだと都市じゃあ恥ずかしいな。特にこんな大きなお屋敷じゃあね。


 内部には黒い服を着た執事? とこれまた黒い、のと白い線か、服を着たメイド? が立ってお出迎えしていた。中央には赤いスーツを着た男性。

 こいつを倒せば経験値になるって寸法か!


「経験値か?」

「アホタレ。どう考えても仲間じゃろうが。ドレムス、久しぶりじゃのう!」


「ラスクお嬢様もお元気で何よりです。お仲間をご紹介お願いできますでしょうか」

「ああ、サカキ・ボタンじゃ。とあるところで出会っての、なんだかんだ気があって仲間にしてもらっとる」


「さようでございますか。こちらでお調べいたしましょうか」

「そういうの関係ない仲間じゃから。まあ少しお願いするわい。それでの、圧倒的な身体能力が取り柄じゃ。馬より速く走れるし2階の屋根から飛び降りても傷ひとつ付かん」


「5階からジャンプしても余裕だよ」


 とくに、話す、ことが、ない。

 会話を聞いていると、ここの滞在費を負担してくれるらしい。提携している宿と酒場になるけど。

 よかったー眠れるところが確保できなければ雇ってくれるところもない。住み込みとかじゃなければね。


 借金も借り換えてくれるそうだ。

 借り換えだから帳消しにはならないけど、金利を負担しなくて良いんだって。

 今喋ったの何語ッスかね?


「とりあえずボタンに洋服を着せよう。ブラジャーとパンティー、メイド服で良いかの。ちゃんとした服はおいおい着るとして。あ、乳がたれておるからクーパー靱帯を修復しておいてやっとくれ」

「たれてないよ! おっぱい大きいからそう見えるだけだよ!」


「おぬしが寝ているあいだに突っついて揺らして確認したわい。ぼっろぼろに切れとるしたれとる。胸筋がついとるから見栄えはまだ良いが。なんじゃ、綺麗になりたくないのか?」

「きれいになりたいです! お願いします!」


「素直でよろしい。わらわも洋服を仕立ててもらおうかのう。この赤い洋服が気に入ったから赤をテーマに。ボタンは青な。赤と青でいいコンビじゃ」


 私は青らしい。まあ、洋服なら何でも良いっす。


「というか、ラクスはそんなにお願いしてお金あるの? あたし全然ないよ」

「ん、ここはハイ・エルフ支援協会アイビス支部じゃ。通常は他の生業をしておるが、ハイ・エルフが来た場合は最高のもてなしをするという協会じゃよ。


「そんな制度が」

「その分ハイ・エルフから見返りもいっぱいもらえている、というわけじゃの。わらわは一度ここを利用したことがあるのじゃ。だから名前も覚えとる」


 そんなわけで高身長Fカップのド迫力おっぱいをブラに包む。え、着心地良い。このブラで良くない? もっといいのくれるの? ハイ・エルフってどんだけ凄いの?

 下着姿になったあたしは、診察台へと誘導され乗せられて、一旦ブラを外して、クリームを胸につけて。


「いってぇ! なにこれいってぇ! いってぇ!」


 施術している女性が言う。


「クーパー靱帯を再接続しているんです。回復魔法ケアではなく蘇生魔法リジェネートを使っているので少々痛みが出ますが、修復するにはリジェネートが必要なんです」


「うわーれいせいっっ! 泣きたい! ないていい! なく! ぴえーん!」


 燃え尽きたあとには、たれていない胸が完成しましたとさ。

 やったぜ。


 戦闘に役立つのかな。




二階にある大テーブルでくつろぐ2人。


「次は何するんですかラスクさん」

「大体の手続きは終了したから、仕事じゃよ。生活費を稼ぐぞ。ぐーたらハイ・エルフは追い出されてしまう」


「へー、以外と厳しいんだね」

「仕事もしない穀潰しは、ハイ・エルフの里にある本部に連絡が入って、強制移管され再教育を受けるという話しじゃ。性格まで変わるそうじゃよ」


「こわ。あたしはだいすきらぶらぶちゅっちゅだいすきだーりんなラスクたんのために働くよ」

「あーうれしいうれしい。アイビスには冒険者通信網支部もある。働き口はいくらでもあるぞい」


「さすがデカい町」

「都市な。わらわたちがやるのは冒険者通信支部の事務じゃったり、都市内部のお仕事じゃがの。あ、この店の内勤でも良いと思うぞ」


「あたしがメイドの仕事をやれるとお思いですか?」



 やらされた。



 メイドのお仕事は丁寧で几帳面にやらないといけないため、がさつなあたしにはぴったりの修行らしい。

 たしかに凄いきつい。丁寧って難しい。几帳面って大変。なんと、皿を割らないで洗うって難しいんだよ。あたし知らなかった。


 でも収穫はあって、瞑想をすると経験値が手に入るの。

 器用さの。


 ラスクに報告したら大喜びでさ、言わない方が良かったなって思ったね。

 もっとやらされるの確定だわ。


 ラスクはここの事務仕事と荷物運び――サイコキネシスで何でも持ちはこべる。ずるすぎる――に冒険者通信支部でのお仕事をちまちまと。


 お互い都市の外に出る仕事はしない。

 コンビじゃないとモンスター討伐なんて出来ないなんてわかってる。


 2人の一番大きい訓練は。訓練場に行って。


「もうすぐファイアパンチが撃てる!」

「よっしゃ、引く、せーの!」


「「どん!」」


「よっし、今のはいいと思うよ。あたしもずっと前に出れた。訓練用ロボットさん起こさないと」

「連携良くなってきたの。ちなみにおぬし、冒険者通信支部内にある酒場では、戦うメイドって言われておるぞ」

「服早く来ないかなー青い服ー。メイドも慣れてきたけどさ。なにもかも全然駄目。こんな重いロングじゃ全く動けない」

「その丈サイズじゃ足さばき全然じゃろな。わらわが履いたらコケて死ぬ未来しか見えん」


 ま、そこそこ楽しくアイビスでの暮らしは過ぎていきました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る