第5話

 寒村に馬車が来るなんて交易馬車くらいなので、歩きで自由都市アイビスまで向かいます。あるけあるけ大会だ!


「なにもなければアイビスまでは問題ないかな?」

「なにかあるのか?」

「ラスクちゃんは身なりが良いから賊に狙われて、右手を奪われて、殺されて、れい――」

「もうよいのじゃー、わらわには素晴らしい仲間がいるから大丈夫なはずなのじゃ!」


 ぐへへ、すばらしい仲間だって。ぐへへ。


 そいで、歩いている最中なんですが。


「天気良いねー」


 とてて


「そうじゃのう」


 とててとてとて


 ん?


 小走りをする音が聞こえる。

 ふとクレインの方を見ると、あたしに追いつこうと小走りをしているではないか。

 そっか歩幅大きすぎたか。

 ぐっと歩幅を短くしてラスクの歩幅に揃える。


「すまんすまん、一人歩きになれててね」

「いや、わらわの歩幅が小さいだけじゃ。でもありがとうな、コケなくてすむ」

「頭大きいもんね。子供だけあって」

「しゃー!」

「ぎゃー蛇は苦手!」


 ぴゅっぴゅーと逃げだす私、まってーおいてかないでーと追いかけるラスク。


 そんなことをして歩いているあいだに夜になる。夜間はこいつで決まり。


「いでよ、翠乃沃土みどりのよくど!」

「なんじゃそりゃ」

「あらゆる大きいサイズの工具が収納されているマルチツール!」

「ほー凄いの」

「これにふぇろ……なんだっけかな、まあ燃える合金がはいっている棒、ファイヤスターターが含まれているので今回はそれを使ってざくざく切り込みを入れた木材に火をともします!」


 ということでナイフで木材に切りこみを入れ、ファイヤスターターを花草水月の峰で擦って炎を出して点火。

 そのまま焚きつけに火を移し、だんだんと火を大きくして太い薪にまで火をつけましたよっと。太い薪って燃えにくいんだよね。


「すごいのー、わらわのファイアで一発なのに。風も使えるからエアブローで火を大きくするのも楽じゃぞ」

「……あ」

「……え」


 ま、まあ。遊ぶってのも重要よ、じゅうよう!


「今日は豚の塩漬けと屑野菜のスープよ」

「それにこの固いパンじゃな。少しばかり旅慣れておるからこういうのは慣れとるぞい」


 シュパッ。


「本当かな」

「本当じゃよ。早く食べたいのう」


 ぽふっとな。


「とりあえず警戒心は持とう」

「ま、また取っておったのか! ぐぬぬ」


 そんなこんなでお食事タイムが始まる。粗食でも2人で食べると美味しいね!


「そういやファイヤスターターを削って追ったが、みどり……なんたらの棒じゃろ、回復するのか?」

「うん。私のエーテルで状態は完璧になるようになってるよ」

「エーテルって、わらわたちが使う魔素とか魔力残量とかのことじゃったか」

「わからんがそんなかんじ。これが枯渇すると誠剣みたいな技から鍵解錠までなーんも出来なくなる」

『だから瞑想でエーテル量を増やして欲しいんだがな』


 おー喋ったーとキャッキャするラスクに、大事なことを伝え忘れていた。


「そういやこのインテラジェノスソードくんが生命エネルギーを吸って経験値として蓄えてあるから成長に使うといいよ。たしかー……コンビボーナスで300くらいあるよ」

「なんじゃそりゃ」

『俺はインテリジェンスソードでもあるが魔剣でもあってな、経験値という名のエネルギーを蓄えられるんだ。筋力、体力、魔力、意志力、器用さ、素早さ、運、この7つに振り分けられる。効果はそれ1つと言うより、その付近全般を引き上げる感じだな』

「へぇー、ハイ・エルフのわらわの魔力でも引き上げられるのか? ハイ・エルフじゃぞ?」

『出来ない生命体は存在しない。なんでこんなアホにこき使われているかわからない程度の魔剣なんだぜ』


 凄いのーと言いつつ、体力と魔力に割り振ったようだ。走れる魔法使いじゃないとあたしの得意なスピード戦闘には対応できないよね。


「け、結構あがるんじゃな。今なら二重跳び3回できそうじゃわ」

『最初は効果が高いが徐々に薄れていく。負の二次曲線を描いているようなもんだな。あがりにくくなったら他の項目を挙げるといい』


 あたしは勝手に魔力に100、器用さに100、素早さに100ほど振り分けられました。勝手に瞑想しない分エーテルを補われた。

 めいそーするってぇ。きょうはねるけどぉ。とのたまっていたらラスクと一緒に瞑想タイムが始まってしまった。らすくがやるならしょうがないね、しんけんにやろうね。

 真剣にやっていたら寝ちゃったので最初の見張りはラスクに頼みました。

 まあ2回見張りをするのは先に寝る方だしいいよね。


 うちの世界を制圧した日本銀河帝国によれば1日30時間でなんもなければ半日は15時間。

 夏と冬がある地域なので時間は前後するけど。


 5時間おきの就寝だと2回起きる必要がある。

 あれ、じゃあ2回起きるのは先に起きた方じゃない?

 起きる、寝る、起きる。うん。うん。

 まあいっか。


 ぐっすり寝ているときに、なにかが突っついてくる感触があった。

 即座に飛び起きるタイミングだがやめた。ラスクが胸を突っついてきているだけだ。まー、あるからね。

 着流しだけなのでちょっと邪魔なんだよね。揺れるからさ。あんまり揺れるとたれちゃう。たれ乳ババアは嫌でござる。

 自由都市についたらさすがに洋服の一枚、防具一式でも買おう。

 お金ないからお金ためてだけどさ。借金もあるんだよな。結構長い時間滞在しそう。


 朝になるとき寝ていたので、ノンビリと起床。とはいかず。ラスクに優しく起こされました。


「ボタンー、朝じゃよー、おきるのじゃよー」


 ゆっさゆっさ、むねもゆっさゆっさ。揺れるのを楽しんでるなあ、これ。


「あと5分……」

「タイマー起爆魔法で5分セットするか。凄い感電するやつ」

「起きました。あーすっきり」

「よし、ご飯作ろうぞ。お腹すいたのじゃー」


 食べ盛りの子がいると大変でございますわね。残り火で湯を沸かして豚の塩漬けと新鮮野菜のスープ、ふわふわパンと固いパンの2枚が朝食。

 インプラントの中は時間止まってるからね。


「おおー、豪華じゃ!」

「旅の最中は昼がないからね、朝いっぱい食べないと」


 ラスクには牛乳も出してはっぴーはっぴーな状態に。栄養取らせないとね。

 食料はかなりあるようだ。

 豚の生肉丸々一頭入っているって話だもんね。

 水もたっぷり。


 インプラントがない旅なんて想像できない。

 超古代超文明アグー文明様々だよ。



 そんな感じで特に苦労もなく、冒険者通信網加入している、つまり信用のある、宿屋や居酒屋で補給をしつつ――手持ち資金は全部借金で取られたわけではないよ!――、自由都市アイビスへと到着したのでしたー。


 そんな入り口近く。


「どこに泊まればいいんかねえ? お上りさんだからよくわからん。安宿だと荷物の心配があるし、高いと働いても返せない」

「アイビスには良いところがあるのじゃ。ちょっとまっとれ、通信する」

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